BUMP OF CHICKENの「プラネタリウム」は、静かなメロディと繊細な歌詞が印象的な楽曲です。
一見すると淡い恋心を描いたようにも感じられるこの曲ですが、実際にはもっと深いテーマが隠されており、藤原基央のパーソナルな体験や、空想と現実の狭間にある心の機微が詰め込まれています。
今回は、この名曲の歌詞を一つずつ丁寧に紐解いていきます。
「四畳半」と「手作りプラネタリウム」が意味するもの：藤原基央の少年時代の風景
この曲の冒頭で描かれるのは、少年が四畳半の部屋でプラネタリウムを手作りしていたという情景です。実はこれは、藤原基央本人の実体験に基づいた描写であり、彼が幼い頃、ダンボールと懐中電灯を使って作った“自分だけの宇宙”のこと。
この描写は、彼がまだ世界に対して純粋な好奇心と想像力を持っていた頃の記憶を象徴しています。
- 四畳半という空間は、限られた世界＝現実の象徴。
- 手作りのプラネタリウムは、心の中にある無限の想像世界。
- この二つが共存することで、“小さな部屋に広がる大きな宇宙”というコントラストが生まれます。
この対比は、後に続く歌詞の中で現実と空想、期待と失望といったテーマを際立たせる土台となっています。
「星」「光」「夢」「君」──象徴語が紡ぐ世界観の整理
「プラネタリウム」の歌詞では、“星”、“光”、“夢”、“君”といった抽象的かつ象徴的な語が頻出します。これらは物語を構成するキーワードであり、それぞれに意味があります。
- 星：少年の憧れや理想の象徴。手が届かない存在として描かれる。
- 光：希望や導きのイメージ。ときに“本物の光”ではなく“作られた光”として描写され、幻想と現実をつなぐ存在。
- 夢：心の中で広がる世界、理想、あるいは現実逃避。
- 君：理想化された相手。恋人とも、自分の憧れとも読める“君”。
これらの言葉は、歌詞全体を詩的かつ普遍的なものにしながら、聴き手それぞれの心の奥にある“失われたもの”への郷愁を呼び起こします。
現実と空想の狭間：想像の星に手を伸ばす心の葛藤
歌詞の中盤では、少年が「君を乗せてプラネタリウムを見せてあげたかった」と語ります。これは自分の作った宇宙＝心の中の世界を、誰かと共有したいという思いの表れです。
しかし現実には、それは“届かない夢”であったとも示されます。
- プラネタリウムは現実には存在しない“理想の世界”。
- それを「君」と共有しようとすることで、“誰かと本当の意味で分かり合うこと”への憧れがにじむ。
- しかし結果的には「君」はもういない、あるいは「君には届かなかった」という喪失感が浮かび上がる。
この葛藤は、“空想の中にこそ本当の自分がいた”という孤独な自己認識につながっていきます。
憧れと後悔：手が届きそうで届かない「光」と「夢」
終盤では、憧れの対象である「光」が、実際には幻だったという描写がなされます。
これは、理想や夢が現実に直面したときにどれほど脆く、壊れやすいものであるかを示唆しています。
- 「あの光を見せたかった」というフレーズは、叶わなかった希望への後悔。
- 少年時代の“無垢な光”は、大人になってからの“苦く切ない記憶”へと変わる。
- 歌詞は具体的な失恋を描いてはいませんが、「君」と「光」が重なることで、関係の終わりや、伝わらなかった思いを暗示します。
このようにして、「夢を見ていた少年」と「その夢を失った大人」の視点が交錯し、聞く者の心にも切なさを残します。
「プラネタリウム」は何を表すのか？ メタファーとしてのこの存在
この曲のタイトルである「プラネタリウム」は、単なる装置ではなく、比喩的な意味を強く持っています。
- 心の中に投影した“理想の宇宙”。
- 誰にも見せることができない、個人の夢や記憶の再現装置。
- 人生そのもの、あるいは時間の流れの中で“もう戻れない場所”を表す空間。
最終的に、プラネタリウムは「誰かに見せたいけど、もう見せられないもの」「自分しか覚えていない記憶」「届かなかった想い」の象徴として機能しています。
まとめ：心に残るのは、あのとき見せたかった光
「プラネタリウム／BUMP OF CHICKEN」は、単なる恋愛ソングではなく、失われた時間・純粋な気持ち・そして届かなかった想いを丁寧に描いた詩的な作品です。
- 藤原基央の個人的な記憶が、普遍的な感情として昇華されている。
- 空想と現実の間で揺れ動く心の機微が、象徴的な言葉で表現されている。
- 聴くたびに、自分自身の「見せたかった光」が胸に蘇るような、そんな感覚を与えてくれる。
