1. n‑bunaが語る「夜行」の核心テーマ:「大人になること」「忘却」「死」
ヨルシカの作詞作曲を手がけるn-bunaは、「夜行」という楽曲に込めたテーマとして「大人になること」「忘れること」、そして「死」を挙げています。
タイトルの「夜行」は、夜を走る列車を意味するだけでなく、「人生という長い旅路を夜の中で進んでいく」という隠喩とも取れます。夜という時間帯は、光の届かない闇、つまり見えない未来や死のイメージを連想させます。
n-bunaは以前のインタビューで、「死というのは悲しいものだけど、必ずしもネガティブに描く必要はない」と述べており、彼の楽曲には“死”をひとつの美しい終末や記憶の儚さとして描写する傾向があります。
「夜行」は、まさにそうした彼の世界観が強く表現された一曲であり、”成長”や”喪失”の美しさを静かに描いています。
2. 歌詞に登場する“一輪草”の花言葉「追憶」が伝える切なさと記憶
「夜行」の歌詞に出てくる「一輪草」は、非常に象徴的な存在です。一輪草の花言葉は「追憶」。この花言葉自体が、楽曲のテーマと深く結びついています。
一輪草は山地にひっそりと咲く可憐な花であり、その姿には「記憶の中の誰か」や「忘れられない過去」を重ねることができます。
歌詞中で「君のような一輪草」と表現することで、主人公にとって大切だった存在が、すでに過去のものとなっていることが仄めかされます。
「もういない君」への思慕、それでも時間が進んでいく現実――このギャップこそが「夜行」の持つ切なさを際立たせています。一輪草は、主人公の記憶の中でしか生きられない「君」の象徴でもあるのです。
3. MVや詞世界に散りばめられた“別れ”と“死の予感”の象徴描写
「夜行」のMVでは、少女が暗い夜の中を歩き、やがて列車に乗ってどこかへ向かう描写があります。この過程は、視聴者に「旅立ち」や「別れ」「死」を連想させます。
特に、MVの最後に少女が「消えていく」描写は、命の終わりや別れの暗喩として非常に強烈な印象を与えます。この映像演出は、歌詞にある「君が往く」「夏が終わって往く」という表現とリンクしており、「君」がすでにこの世にいない存在である可能性を高めています。
また、列車というモチーフ自体が「旅立ち」や「死後の世界への移動」を象徴することも多く、「夜行列車」は生者と死者の境界を越えるための比喩として機能しているとも解釈できます。
4. 「夜」は人生の夜行列車——文学的比喩としての時間と成長
ヨルシカの楽曲には、詩的で文学的な表現が数多く登場しますが、「夜行」では特に“夜”という時間帯が深い意味を持っています。夜は、昼の終わりであり、眠り=死を連想させる静けさと孤独の象徴です。
「夜行」は、そんな夜の中を進む列車のように、人間の成長や変化、そして死へと向かう時間の流れを詩的に描いています。n-bunaの詞は、どこか宮沢賢治の作品を思わせる幻想性を備えており、聴き手に“懐かしさ”と“寂しさ”を同時に抱かせるのです。
こうした文学的な構成により、単なる失恋や別れの歌ではなく、「人生そのもの」を静かに歌い上げた作品として「夜行」は際立っています。
5. 春から夏、夜へと続く季節の変化が映す「過去」と「現在」の交錯
「夜行」の歌詞では、「春」「夏」「夜」と季節が順に描かれていきます。これは単なる時間の流れではなく、主人公の感情の変化と過去への想いを示しています。
春は出会いと希望の象徴、夏は最も輝かしい思い出の季節。そして夜は、それらが終わったあとの静寂と孤独を表します。この流れは、人が思い出に浸りながらも前に進もうとする姿を象徴しているのです。
過去の「君」との思い出はもう戻らないけれど、それでも人は夜行列車に乗って、どこかへ進んでいかなくてはならない。季節の移ろいは、まるで心の時間軸のように、楽曲の構成に織り込まれています。
まとめ:ヨルシカ「夜行」は“記憶と別れ”を詩的に描いた現代の叙情歌
「夜行」は、単なる別れの歌にとどまらず、「記憶」「成長」「死」など人生の普遍的なテーマを詩的に描いた楽曲です。
n-bunaの言葉選びと、文学的比喩に満ちた構成は、聴く人それぞれの過去や思い出を静かに呼び起こします。MVや歌詞の細部に込められたメッセージに耳を傾けることで、「夜行」は何度でも新たな気づきを与えてくれる名曲と言えるでしょう。