曲名「蛍の光」に込められた象徴的意味
「蛍の光」といえば、日本では卒業式や閉店時など「別れ」の象徴として知られる定番曲。しかし、クリープハイプの「蛍の光」は、そうした一般的なイメージとは異なり、より個人的で繊細な感情を描いています。
ここでの“蛍”は、闇夜に一瞬だけ光る存在として、「儚さ」「一瞬の輝き」「消えてしまう美しさ」の象徴として機能します。また、“光”は、暗闇の中で道を照らす小さな希望や、過去の記憶の中にある温かさのメタファーとしても読み取れます。タイトルの「蛍の光」には、そんな感情の交錯が内包されているのです。
エビ中提供曲からセルフカバーへ──制作背景と経緯
「蛍の光」は、もともと尾崎世界観が私立恵比寿中学(通称・エビ中)に提供した楽曲として知られています。2016年にリリースされたエビ中のアルバム『穴空』に収録され、青春の終わりと感謝を描いた名曲としてファンに愛されてきました。
その後、尾崎自身がこの曲をセルフカバーし、2018年にクリープハイプのアルバム『泣きたくなるほど嬉しい日々に』に収録されました。自分が書いた歌詞を自分の声で表現することで、より生々しい感情の揺れが浮き彫りになり、ファンからも新たな解釈が加えられました。
セルフカバー版は、エビ中版と比べてアレンジもシンプルで内省的。まるで独り言のように心に染み入る歌声が、歌詞の意味をより鮮明に映し出します。
歌詞全体の構造と読み解れるテーマ
歌詞全体は、時系列や情景が曖昧でありながらも、「別れ」と「再会」「感謝」と「迷い」といったテーマが交錯しています。冒頭では“またね”という軽い別れの言葉の裏にある複雑な心情が描かれ、中盤では「ちゃんと伝えたいけど、それが嘘になりそうで怖い」という不安と葛藤が綴られています。
クリープハイプらしい言葉のねじれや曖昧さが、現実の人間関係の難しさや、感情の不安定さをリアルに表現しています。「一度きりの言葉が、ずっと心に残る」そんな経験を想起させる構成です。
サビのイメージ──蛍と光の海が描く風景
サビでは、「暗い場所で見える小さな光」や「空に広がる蛍のような光の海」といった幻想的な描写が登場します。これは視覚的な美しさだけでなく、「不安な時に見える希望」や「自分を照らしてくれる存在」としての光を象徴しています。
一部のファンの間では、「ライブでのサイリウムの光」や「母親の声、閉店時の音楽」など、個々人の記憶と重ねることで、よりパーソナルな意味を見出す人も多いです。この「共感の余白」こそが、クリープハイプの楽曲の魅力ともいえるでしょう。
別れと感謝、そして未来への決意──歌詞に込められたメッセージ
曲のラストでは、「ありがとう」や「さよなら」といった言葉が印象的に使われています。感謝と別れは一見相反するようでいて、どちらも“過去を大切に思う気持ち”として共通しています。
「伝えることの難しさ」や「誤解を恐れる気持ち」が描かれる一方で、それでも「ちゃんと伝えたい」という決意が感じられます。それはまさに、人生の中で何度も経験する“別れ”という場面を、後悔のないものにするための覚悟の表れです。
聴き終えたあとに残るのは、切なさだけではなく、次に進むための小さな勇気。そんな前向きなメッセージが、「蛍の光」には込められているのです。