【歌詞考察】クリープハイプ「およそさん」に込められた意味とは?“およそ大丈夫”が刺さる理由を解釈する

1. 「およそさん」はNHK Eテレ主題歌、たった60秒に込めた深い意味

「およそさん」は、NHK Eテレの短編番組『オトッペ』のエンディングテーマとして制作された楽曲です。たった60秒という短さながら、その中にクリープハイプらしい“刺さる言葉”と“情緒の揺れ”がぎゅっと詰まっています。

番組の視聴対象は子どもながらも、決して子ども向けとは言い切れない深さがあり、「大人が聴いても心に残る」と話題に。尾崎世界観は“誰にでもある不安や曖昧さ”を「およそ大丈夫」「およそ楽しい」といった言葉で表現し、その中にある本音や葛藤を音楽にしています。


2. “およそ大丈夫” のニュアンス解析:本当の「大丈夫」じゃない理由

「およそ大丈夫」というフレーズは、日常でも耳にしない独特な言い回しです。これは「ほとんど問題ない」という意味を持ちながらも、「100%ではない」という含みがあり、どこか不安定さを感じさせます。

この曲の冒頭に現れる「およそ大丈夫」という言葉には、相手に気を遣わせないようにする配慮と、本心を隠したいという葛藤が交差しています。それはまるで「だいたい平気」と言いながら、本当はまったく平気じゃない心の声を抑えているようにも聞こえるのです。

尾崎世界観の歌詞には、「言葉にしづらい本音」が巧みに隠されていて、その奥行きを感じ取ることで、より一層深い共感を得ることができます。


3. “ただただ楽しいからって…”で描かれる人間の複雑な感情

曲の中盤では、「ただただ楽しいからって〜」というラインが印象的に繰り返されます。このフレーズは、表面的には「楽しんでるだけ」と受け取れますが、その裏には「それだけじゃ割り切れない」感情の複雑さが透けて見えます。

例えば、何かに夢中になっているとき、心のどこかで「本当にこれでいいのか?」と疑問が生まれることがあります。楽しさの中に罪悪感や虚しさが入り混じる——そんな感情の“にごり”を、この一文が見事に表しているのです。

クリープハイプはこうした“割り切れなさ”をリアルに描写するのが得意で、それが多くのリスナーに支持される理由でもあります。


4. 「3.14」の謎—円周率としての“およそ3” が表す感情の“割れなさ”

曲の終盤、早口でまくし立てるように「3.14」というワードが登場します。これはもちろん円周率のことですが、数学的な意味以上に、比喩としての力を持っています。

円周率3.14は、厳密には無限に続く不完全な数字。それは“完璧にはなりきれない自分”や“ずっと満たされない感情”を象徴しているようにも感じられます。

また、円は“割れない形”としても象徴的。それに対し「割り切れない気持ち」を“円周率=およそ3”という数字で表すあたりに、尾崎世界観の言語センスの妙が際立ちます。


5. 楽曲構成・演出に見る“ツンとくる”尾崎世界観の手法

「およそさん」は、通常の楽曲と違い、イントロや間奏を削ぎ落とし、わずか30秒ほどで一気に言葉を詰め込み、すぐに終わる構成です。この短さが、逆に強烈な印象を残します。

さらにアウトロでは、歌が終わった後の余韻として楽器の音だけが残り、リスナーに「考える時間」を与えているようにも感じられます。ここには、尾崎世界観らしい“余白の美学”が垣間見えます。

尾崎はインタビューでも、「限られた時間の中で伝えることの難しさと面白さ」に触れており、そうした試行錯誤の中からこの曲が生まれたことが分かります。


📝まとめ:曖昧さに宿る感情を、数字と日常語で描いた名曲

「およそさん」は、その短さに反して、非常に多層的な意味を内包する楽曲です。「およそ大丈夫」という一見ポジティブな言葉に潜む不安や、「3.14」という数字に込められた“割り切れなさ”など、言葉の一つひとつが深く練られています。

尾崎世界観は、曖昧な感情や表に出しづらい本音を、あえて日常的で少しズレた言葉や数字で表現することで、リスナーに“じんわりと刺さる”体験を与えています。