【KICK BACK/米津玄師】歌詞の意味を考察、解釈する。

2022年11月23日にリリースされた米津玄師の楽曲『KICK BACK』は、TVアニメ『チェンソーマン』のオープニング主題歌として話題となりました。
この曲は、モーニング娘。の楽曲の歌詞を巧妙に取り入れている点でも注目を集めました。
ここでは、『KICK BACK』の歌詞の意味を探求してみましょう。

いろんな要素から話題となった楽曲

米津玄師は、映画『シン・ウルトラマン』の主題歌『M八七』やPlayStationのCMソング『POP SONG』など、数々の映像作品のテーマソングを手掛けている才能豊かなアーティストです。

そして、2022年11月23日にリリースされた楽曲『KICK BACK』は、TVアニメ『チェンソーマン』のオープニング主題歌として人気を博しています。

この曲は、作詞・作編曲を米津玄師が手掛け、編曲にはKing Gnuの常田大希も参加しています。

『KICK BACK』は、人気作品の主題歌として注目を集める一方、2002年にリリースされたモーニング娘。の楽曲『そうだ! We’re ALIVE』(作詞作曲・つんく♂)のフレーズ「努力未来 A BEAUTIFUL STAR」を曲中に組み込んだことでも大きな話題となりました。

そこで今回は、話題沸騰中の楽曲『KICK BACK』の歌詞の意味について考察していくこととします。

成功とハングリー精神は相反するものなのか

ランドリー今日はガラ空きでラッキーデイ
かったりい油汚れもこれでバイバイ

誰だ誰だ頭の中 呼びかける声は
あれが欲しいこれが欲しいと歌っている

幸せになりたい 楽して生きていたい
この手に掴みたい あなたのその胸の中

物語はガラ空きのコインランドリーが舞台となっています。

洗濯機が稼働している間、主人公はほとんどの時間を暇に過ごしていることが想像されます。

そんな空白の時間に、「頭の中 呼びかける声」が主人公の耳に届いたようです。

それは日常に潜む思いがけない孤独と向き合わざるを得ない瞬間であり、主人公自身の内面と向き合う契機となったのでしょうか。

欲望が沸々と湧き上がります。

そして最終的には、「この手に掴みたい あなたのその胸の中」という欲望に至りました。

主人公が米津玄師のようなアーティストだと仮定すると、「あなた」とは自分の作品に心を寄せてくれた人々を指しているように解釈できます。

そういった支持者たちの心を掴むことで、成功し、楽して生きていきたいというのが主人公の本音なのかもしれませんね。

それでは、次に2番の歌詞に目を向けてみましょう。

4443で外れる炭酸水
ハングリー拗らせて吐きそうな人生

「止まない雨はない」より先に その傘をくれよ
あれが欲しい これが欲しい 全て欲しい ただ虚しい

幸せになりたい 楽して生きていたい
全部滅茶苦茶にしたい 何もかも消し去りたい
あなたのその胸の中

歌の冒頭は「4443で外れる炭酸水」となっています。

ミュージックビデオでは、主人公が自動販売機でサワービール(酸っぱいビール)を選び、「当たればもう1本」というスロットを回しますが、数字の4が揃わず、がっかりする場面が描かれています。

このシーンは、本来炭酸水を選ぶはずが、誘惑に負けてビールを選んでしまい、さらにスロットでも失敗してセカンドチャンスを逃した状態を表していると解釈できます。

次の「ハングリー拗(こじ)らせて吐きそうな人生」とは、瞬間の欲望(=ビール)にとらわれて自制ができず、常に何かに飢えているような不快な人生を表しているのでしょう。

「止まない雨はない」という言葉に対して「その傘をくれよ」と思ってしまうのも、安易な選択に走りがちな性格ゆえだと考えられます。

また、「あれが欲しい これが欲しい」という欲望は、日々感じている虚しさに由来しているようです。

これが導く先は「幸せになりたい 楽して生きていたい」、そして「全部滅茶苦茶にしたい 何もかも消し去りたい あなたのその胸の中」。

幸福を願う一方で、破壊願望も内包する複雑な心情です。

これは成功を望む気持ちとハングリーな心を維持したいという気持ちとの葛藤と捉えられるかもしれませんね。

理想に向けて常にハングリーな気持ちで向かう

さて、次にサビや終盤の歌詞を見ていきましょう。

1番のサビでは、主人公が成功を手に入れた状況を仮定して考察してみます。

ハッピーで埋め尽くして レストインピースまで行こうぜ
いつかみた地獄もいいところ 愛をばら撒いて
アイラブユー貶してくれ 全部奪って笑ってくれマイハニー
努力 未来 A BEAUTIFUL STAR
なんか忘れちゃってんだ

「ハッピーで埋め尽くして レストインピースまで行こうぜ」というフレーズは、幸せ100%で長寿を迎えようという気軽な言葉かけのように聞こえます。

成功者らしい余裕のある発言ですね。

そして、「いつか見た地獄」とは、かつて主人公が経験した困難や苦労を指していると考えられます。

一方で、「愛をばらまいて」というフレーズは、ファンに対して親しげに接する姿勢を表しているのかもしれません。

しかし、「アイラブユー、マイハニー」という愛の表現と同時に、「貶してくれ 全部奪って笑ってくれ」と矛盾した心情が垣間見えます。

成功を手にした今、かつて「あなた(リスナー)」に向けて抱いていた破壊願望が、自分自身に向けられているようです。

さて、次は2番のサビを見てみましょう。

ラッキーで埋め尽くして レストインピースまで行こうぜ
良い子だけ迎える天国じゃ どうも生きらんない
アイラブユー貶して奪って笑ってくれマイハニー
努力 未来 A BEAUTIFUL STAR
なんか忘れちゃってんだ

「ラッキーで埋め尽くして レストインピースまで行こうぜ」というサビのフレーズは、幸運が続いて成功した主人公が、「運がよかっただけですよ」と謙遜する姿を表現しているように見受けられます。

成功者が自分の成果を謙遜することはありますね。

一方で、苦労して地獄を経験してきた主人公にとって、成功者の「良い子」の世界は合わないのかもしれません。

内心では相変わらず破滅願望が渦巻いているようです。

「なんか忘れちゃって」という歌詞には、かつてのハングリー精神や努力が忘れ去られつつあることを示唆しているのかもしれません。

「努力 未来 A BEAUTIFUL STAR」というフレーズは、奮闘し未来への輝かしい夢を表しています。

おそらく主人公の現状は、まだ理想と完全に一致していないのでしょう。

そして、最後の歌詞についても見てみましょう。

ハッピー ラッキー こんにちはベイビー
(ハッピー ラッキー こんにちはベイビー)
良い子でいたい そりゃつまらない
(あなたの未来 そりゃつまらない)
ハッピー ラッキー こんにちはベイビーソースイート
(ハッピー ラッキー こんにちはベイビーソースイート)
努力 未来 A BEAUTIFUL STAR
なんかすごい良い感じ

「ハッピー ラッキー こんにちはベイビー」というフレーズは、作品が話題になるたびに増えていくファンを象徴していると考えられます。

主人公はそんなファンたちに希望を与えたいと願っていますが、同時に自分自身が表面的な言動になってしまいそうで「そりゃつまらない」と自制心を保とうとしています。

過去の約20年前の歌のフレーズが頭の中で繰り返されることで、かつての成功イメージやハングリー精神がよみがえってきたのかもしれません。

このような背景の中、主人公は新しいスタートを切るべく初心を取り戻し、気持ちが高揚しているようです。

最後に主人公はつぶやきます。
「なんかすごい良い感じ」。

ここでは、主人公が前向きな気持ちで新たな展望を感じていることが伝わってきますね。

チェンソーマンとの関係は

今回は、米津玄師の楽曲『KICK BACK』の歌詞の意味を考察しました。

この歌詞からは、アーティストを衝き動かす飽くなきハングリー精神が伝わってきましたね。

また、曲名にある「キックバック」とは、チェンソーを使っている最中に刃が制御不能になり、使用者に跳ね返ってくる危険な現象を指します。

この現象と主人公のとがりにとがったハングリーな欲求との危うさが重なっているのかもしれません。

さらに、アニメ『チェンソーマン』との関連性も考慮すると、新たな解釈の可能性が広がりますね。

是非、『チェンソーマン』もチェックして、新しい考察の道を切り拓いてみてください。