1. 楽曲背景と制作エピソード:1999年–“GRAND CROSS TOUR”が映し出す光景
「LOVE FLIES」は、1999年にL’Arc-en-Cielがリリースしたシングルで、同年夏の野外ツアー「GRAND CROSS TOUR」の真っ只中に登場しました。この時期は、メンバーの創作意欲が高まり、精神的な解放感とともに、ライブ空間でしか得られない高揚感が音楽に反映されていた時期でもあります。
特にkenがメインで作曲したこの楽曲は、グランジやサイケなギターリフが特徴的で、単なるラブソングとは一線を画す、深い情緒と余韻を残すサウンドに仕上がっています。hydeの書いた歌詞も、当時のバンドの成熟度と実験性を象徴するような詩的構造を持っています。
2. タイトル「LOVE FLIES」の意味と二重構造的な比喩
“LOVE FLIES”というタイトルは、一見すると「愛が羽ばたく」と訳されがちですが、その裏には二重の意味が込められていると解釈できます。一つは、愛が天に向かって自由に飛び立つという解放的なイメージ。もう一つは、“flies”が「時間の経過」や「命の儚さ」を象徴する用語である点に注目すべきです。
つまりこのタイトルは、「愛は羽ばたき、やがて時間の流れの中で消えてゆくもの」という、ロマンと切なさを同時に描く比喩的な表現とも読み取れます。このような多層的なタイトル解釈は、hydeの詩世界の核心にも通じており、リスナーに多様な読みを促します。
3. サビの歌詞を紐解く:夢と現実/魂と生命のせめぎ合い
サビ部分の歌詞「Right side of the dream / Left side of the truth」では、夢と現実、理想と真実といった対立概念が表現されています。この「左右」のイメージは、脳の右脳・左脳の象徴とも捉えられ、人間の感性と理性の葛藤を示しているかのようです。
さらに「魂が叫ぶままに」と続く一節からは、自我や本能に従って生きることの尊さと、現実社会との摩擦が滲み出ています。hydeの歌詞は往々にして抽象的な言葉を用いながらも、深い心理描写を伴っており、この曲もその例に漏れません。
4. 色と輝きのイメージ:ライブで“色が歌う”“Shining rain”が描く浄化と高揚
「The color is singing」「Shining rain」などの詩句は、視覚的なメタファーを通じて音楽と感情が融合する瞬間を描いています。ライブでの照明演出や自然の光と音の共鳴を想起させるこれらの表現は、観客と演者が一体となる瞬間を象徴しています。
特に“Shining rain”という表現は、ただの雨ではなく、光を伴った神聖な雨のように感じられ、感情や痛みを浄化するようなイメージを抱かせます。L’Arc-en-Cielの楽曲にはこうした“色彩”や“自然”のイメージがたびたび登場し、幻想的な世界観を補完しています。
5. コーラス構成と英詞の解釈:「脳みそから溢れる」感情表出へのこだわり
楽曲後半に登場する英語詞は、hydeの中に湧き上がる感情が抑えきれずに“溢れ出る”ような勢いを持っています。インタビューでも「脳みそから自然に出てきた」ような表現だと語られており、構築された詩ではなく、衝動に近いスタイルであることが窺えます。
また、kenが語っていたように、このコーラス部分はhydeとken自身が“かけ合う”ような構成となっており、バンドメンバー間の信頼と即興性が音に反映されています。単なる技術ではなく、精神の解放としての歌声がここにはあります。
まとめ
「LOVE FLIES」は、L’Arc-en-Cielが音楽的・精神的に飛躍した1999年という時期を象徴する作品であり、その歌詞は夢と現実、感性と理性、生命と魂といった深いテーマを内包しています。タイトルや詩句の一つ一つに多重的な意味が込められており、音楽とビジュアルの融合によって“感じる”ことの本質を提示しているのです。