眠りたいのに、頭の中だけが静かになってくれない。ようやく朝が来ても、その明るさを喜べない。
L’Arc〜en〜Cielの「EXISTENCE」には、そんな休息を奪われた夜の息苦しさが描かれています。
タイトルは「存在」を意味する英語ですが、歌詞を読む手がかりになるのは、主人公が何を追い払いたがっているのか、という問いです。
本記事では、部屋と心の内側の重なり、太陽の描かれ方、英語の語りに注目しながら、「EXISTENCE」の歌詞を考察します。
※楽曲情報と公開歌詞を確認したうえでの、筆者独自の解釈です。
「EXISTENCE」はどんな曲?『AWAKE』収録の楽曲
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 曲名 | EXISTENCE |
| アーティスト | L’Arc〜en〜Ciel |
| 作詞 | hyde |
| 作曲 | ken |
| 収録アルバム | AWAKE |
| アルバム発売日 | 2005年6月22日 |
| 収録順 | 8曲目 |
「EXISTENCE」は、アルバム『AWAKE』に収録されています。発売日と曲順は公式ディスコグラフィー、作詞・作曲のクレジットは歌詞掲載情報で確認できます。larc-en-ciel.com
歌詞には、眠れずにいる主人公と、その頭の中に居座る存在が登場します。その関係を踏まえると、曲全体を「自分の時間と心を取り戻そうとする歌」として読むことができます。
タイトル「EXISTENCE」の意味|追い払いたいのに消えない存在
英語の「existence」は、存在や実在を意味します。
歌詞の中では、この言葉が「insistence」と並んで使われています。後者には、強い要求や、言い張ることといった意味があります。
ここで繰り返される「Take away」は、取り除くことを求める言葉です。主人公を悩ませているものは、ただそこにあるだけでなく、無視できないほど強く迫ってくる存在として捉えられます。www.uta-net.com
忘れたつもりの出来事が、何もすることのない時間に浮かんでくる。考えるのをやめたくても、同じ問いが何度も戻ってくる。
こうした経験に重ねると、タイトルは身近な響きを持ちます。頭の中のことなのに、自分の意志では消せない。その厄介な実在感を、「存在」という言葉が捉えているように思えます。
主人公に必要なのは、自分の内側で自由に休める余地なのでしょう。
部屋と頭の中が重なる|逃げ場を失う主人公
歌詞では、部屋から追い出したい相手と、頭の中に居座る存在が重ねられています。www.uta-net.com
本来、部屋は外の世界から離れて休める場所です。扉を閉めれば、他人とのやり取りも、果たさなければならない役割も、ひとまず遠ざけられるはずです。
しかし、心の内側で続くものには、扉を閉めることができません。
この曲の閉塞感は、安心できるはずの場所でも、主人公が一人になれないことから生まれています。外へ出れば解決するとも、誰かを追い返せば終わるとも言い切れない。その逃げにくさが、追い払おうとする言葉を切迫したものにしています。
ここにいる存在を、不安や記憶のようなものとして読むこともできます。ただし、正体を一つに限定しなくても、主人公の苦しさは伝わります。
何が原因なのかを説明するより先に、もう静かにしてほしいという感情が押し出されている。そこに、この曲の生々しさがあります。
なぜ太陽が主人公を追い詰めるのか
「EXISTENCE」では、朝の光も安らぎをもたらしてくれません。夜を休息に使えなかった主人公にとって、太陽は目覚めを迫るものとして描かれています。www.uta-net.com
同じ朝でも、十分に眠った人と、一晩中起きていた人では意味が違います。
街が動き始める時間は、誰にとっても同じように訪れます。しかし、主人公の内側では、まだ夜が終わっていない。休むことができなかったまま、次の一日へ押し出されてしまいます。
このずれを考えると、明るい太陽が恐ろしく感じられる理由も見えてきます。
周囲が悪意なく元気であるほど、自分だけが取り残されているように感じることがあります。光に照らされれば元気になる、という期待に応えられないとき、その明るさ自体が負担になる。
太陽の描写は、主人公と世界の時間が合わなくなっていることを、鮮やかに表していると読めます。
英語のセリフの意味|眠りを妨げる側が語り始める
曲中の英語の語りでは、主人公を悩ませる存在の側から、相手に呼びかけるような言葉が現れます。
要点は、心の暗がりに住む吸血鬼のようなものが、忘れようとする相手につきまとい、眠りを妨げるという内容です。英語の語りは、主人公が追い払いたがっているものに、声と意思を与えています。JOYSOUND.com
この場面によって、主人公の孤独はさらに深まります。
眠れない本人が苦しんでいるだけなら、思い悩む人の独白としても聞けるでしょう。そこに別の声が入ることで、心の中に自分では従わせられない相手がいるように感じられるのです。
吸血鬼という比喩も効果的です。
吸血鬼は、相手の生命を奪いながら生きる存在です。そのイメージを心の内側へ移すと、休もうとするたびに気力を削られるような感覚と重なります。
また、相手が忘れようとするほど離れないという関係には、皮肉があります。追い払うために意識を向け続けることで、かえって存在を強く感じてしまう。その抜け出しにくさが、英語の声を不気味にしているのでしょう。
大切な相手を求める場面が示す、もう一つの願い
歌詞には、親密な相手のぬくもりを求める場面もあります。www.uta-net.com
追い払いたいという感情が続く中で、この場面には違う方向の願いが表れています。何かを遠ざけたい一方で、安心できるものには近づきたいのです。
頭の中の言葉が止まらないとき、人の体温や触れ合いを思い浮かべることには、切実な意味が生まれます。考え続ける状態から、身体で感じられるものへ意識を移したい。そのような願いとして、この場面を読むことができます。
だからこそ、ここでの親密さは、主人公の追い詰められた状態と結びついています。
誰かを求める気持ちの中には、その人への愛情と、自分を休ませてほしいという願いが重なっているのかもしれません。
結末の意味|自由を求める叫びは届いたのか
終盤には、自由を求める強い表現があります。一方で、眠りを妨げる側の英語の声も残ります。歌詞には、主人公が安らかに眠れたという明確な決着は示されていません。JOYSOUND.com
この結末を踏まえると、自由への叫びを、そのまま解放の達成と捉えるのは難しいでしょう。
ただし、主人公が何を取り戻したいのかは、はっきりしています。自分の心や時間を、居座り続けるものの好きにはさせたくない。その抵抗が、言葉になっています。
静かに休みたいという願いを、激しい表現で伝えなければならない。その落差が、この曲の痛ましさです。
安らぎは、誰にでも自動的に与えられるものとは限らない。「EXISTENCE」は、普段なら当たり前に思える休息の尊さを、その不在から感じさせる曲なのです。
まとめ|「EXISTENCE」は、自分の内側を取り戻したいという歌
L’Arc〜en〜Cielの「EXISTENCE」は、眠れない夜を通して、自分の意志では静かにできない心の内側を描いた楽曲として読めます。
部屋にいても逃れられず、朝が来ても救われない。その閉塞感の中で、英語の声は、主人公を悩ませる存在のしつこさを際立たせています。
最後まで安らぎが約束されないからこそ、自由を求める言葉が切実に響くのでしょう。
自分の頭の中くらいは、安心して過ごせる場所であってほしい。「EXISTENCE」には、そんな身近で切実な願いが込められているように感じられます。


