Creepy Nutsの名を世に知らしめ、インディーズ最後の作品となったEP「助演男優賞」
高校生の頃より地元大阪のヒップホップクルー「梅田サイファー」に参加し、2012年~2014年のULTIMATE MC BATTLE三連覇や晋平太、KEN THE 390等との客演、テレビ番組「フリースタイルダンジョン」での二代目ラスボス出演など、既に新世代注目ラッパーの道を歩んでいたR-指定と、新潟からの上京後、地道にクラブDJや制作活動を行っていたDJ松永。
10代の頃より親交のあった二人は2013年にヒップホップユニット「Creepy Nuts(クリーピーナッツ)」を結成、2016年には1stミニアルバム「たりないふたり」をインディーズでリリースすると、R-指定のMCバトルでの知名度の高さとDJ松永による一風変わった独特のキャッチーなトラックが好評を博しスマッシュヒットを記録。
その一年後、2017年2月にリリースされたのが2ndミニアルバム「助演男優賞」である。
結果的にこの作品が前作を上回るヒットとなり、Creepy Nutsはその年の同年11月、シングル「高校デビュー、大学デビュー、全部失敗したけどメジャーデビュー。」でメジャーデビューを果たした。
前作「たりないふたり」にも見られるDJ松永の良く言えば「ヒップホップらしくないトラック」は今作でも変わらず、リードトラックである「助演男優賞」はサーフロックバンド「Said The Ripper」の「Emma Peel Out」をサンプリングし、中毒性の高いブレイクビーツトラックとなっている。
今回はその「助演男優賞」のリリックを紐解き、考察してみたい。
Creepy Nutsの根幹にある「劣等感」
俺らは助演男優賞のノミネート候補
現場に急行
それでもどこか期待してる
夢見がちなBoysメンタル中坊
いつかは主役の座を奪う
ためにもMake Say Bow Wow
遠吠えが宙に舞う (Wow!)
記憶の引き金 カウントダウン3,2,1,0
あれ? これ どこ?
いつかの体育館 いつかの午後
いつかのライブハウス いつかのクラブ
いつかのクラス いつかの田吾作共
いつかのエキストラ ライヴ オン ステージ
大どんでん返しの本命
思い出しゃ俺たちはあの頃から滑稽 (OK!)
笑われてこうぜ
立ってる 黙ってる
歌ってるだけでも絵になる奴らを
蹴散らすバース
手を変え品を変え Bounce Bounce
外様の分際でお邪魔します
群雄割拠 跳梁跋扈
口八丁 with 手八丁
チェケラッチョ のエキスパート
ギターよりタンテとデスペラード Let’ s Go!!
今現在学生生活を送っている男子諸君も、昔学生生活を送っていた元男子諸君も一回は夢見たことがあるだろう。
文化祭のステージに立ち、男子生徒からは羨望と喝采を、女子生徒から熱視線と求愛を受ける自分の姿を。
Creepy Nutsは決して華々しい存在ではない。
むさ苦しい風貌のR-指定と根暗で童貞?のDJ松永。
R-指定のリリックには常に劣等感がある。
日陰を歩んできた2軍の存在が、いつか日の当たる場所に立ち、満場一致の拍手喝采を受けることを夢見ている。
「助演男優賞」とはそんな彼等が同じ様な思いを抱えている大多数の男どもに向けて放つ応援歌でもある。
そして同時にこうも歌っている。
「主演ってのはそんなにいいもんじゃないかもよ」と。
笑われ、見下され、汗をかき、汚れることができる助演ならではの一撃。
始まりのヴァースはそんな言葉で彩られている。
名ドラマに名脇役あり
どうあがいてもしゃあない
俺ら主役の玉じゃない…
でもチャンスは頂戴
いつか主役の座が奪いたい…
Sixth Manで上等 助演男優賞
芸達者な名脇役 現場に急行
Hey Party People Everybody 注目!
正統派のベンチウォーマー 毎回大逆転
ララララ…
映画、ドラマ、あるいはスポーツ、バンド、主役と脇役が存在するものはこの世にごまんとある。
華々しく紙面を飾る主役の脇では必ず脇役が縁の下を支えている。
素晴らしい映画やドラマには主役と同等か、時にはそれ以上の存在感を持った脇役が存在するし、完全試合を達成したピッチャーの影には内野・外野の守備陣の活躍が欠かせない。
ハット・トリックを記録したストライカーの影には身を挺してボールを運び、針の穴を通す様なアシストを入れた存在がある。
バンドでは注目を浴びるフロントマンや派手なギターソロを披露するギタリストの後ろでドラムとベースが色を添える。
時として、彼等は目の醒めるような「主役を食う」活躍を見せることがある。
サビでは常に注目を浴びる存在でなくても良い、ここぞという時においしいところを攫っていく影の存在をバスケットボールの「Sixth Man」(六番目の存在)に例えて歌われている。
こん位、君の分=木暮公延(こぐれきみのぶ)
Hey Come On! Do it like this
主役の小粋な計らいで
「見せ場はこん位、君の分」と
頂いたパスなら決めたいぜ
しかも決勝点 スリーポイント
田岡が見逃した不安要素
見くびるな 見下すな
マイナスをプラスに変えるマスター
セカンドヴァースではバスケットボール漫画「スラムダンク」に登場する木暮公延というキャラクターについて歌われている。
主役である桜木花道の湘北高校二つ上の先輩であり、温和な人柄と冷静な判断力、時には声を荒げる熱さを併せ持った名脇役である。
主将の赤木と共に入部当初から全国大会を夢見てきた木暮は、桜木や他のメンバーの台頭によりスタメンを外れ、Sixth Manとなる。
強豪・陵南高校との全国大会予選最終戦、敵味方が疲弊したゲーム後半で木暮は勝負を決定づけるスリーポイントシュートを決める。
赤木という大きな存在の傍で長い間全国大会を夢見てきた男が決めた決定打に涙した方も多いだろう。
常に注目を浴びる存在ではなく、ここぞという時に出し抜くような一撃を加える。
これぞ脇役の真骨頂だろう。
主役あっての脇役、脇役あっての主役
We are 蕎麦屋のカツ丼 牛丼屋のカレー
またはバナナワニ園のレッサーパンダ
ダークナイトで言えばジョーカー
ブラックレイン 松田優作
ロックフェスでのクリーピーナッツ
時として主役を喰っちまう
そんな音楽響かしてこうや兄弟
拝啓、縁の下 村八分 爪弾き
帳の外 Join Us!
明るい未来? 暗い未来?
俺が森山なら後者
モテキなんざ来る訳ねぇじゃん
各駅停車 苦役列車 Let’s Go
言うまでもなく蕎麦屋では蕎麦、牛丼屋では牛丼、バナナワニ園ではバナナとワニが主役である。
しかし、蕎麦屋ならではの出汁の効いたカツ丼、牛丼屋の牛肉を生かしたカレー、また「バナナワニ園」の名前がついているのにも関わらず生殖環境に適してしまったため多数のレッサーパンダが飼育されている「熱川バナナワニ園」というのも面白い存在である。
主役の座を奪うわけではないけど、これはこれでいいよね、このヴァースではそんな脇役の存在を自分たちになぞらえて歌われている。
また、映画「ダークナイト」のジョーカーことヒース・レジャー、映画「ブラック・レイン」の松田優作はそれぞれクリスチャン・ベールやマイケル・ダグラスといった主役を食うほどの評価を受け、言葉通り「脇役が主役を食った」作品の一つである。
ロックフェスにも出演することの多いCreepy Nutsがロックというフィールドでヒップホップを武器に戦い、時にはヘッドライナーよりもオーディエンスを虜にする、そんな心意気を再確認させるヴァースである。
ヴァース後半はドラマ「モテキ」に出演した森山未來を「未来」のダブルミーニングとして使用しており、暗い未来、各駅停車、苦役列車といったワードで苦労の多い脇役上等というスタンスを示している。
自分の力でその場所を勝ち取る、それこそが「追う者」の強さ
虎視眈眈と狙っている
準備はいつでも出来ている
「変わりなんていくらでもいる」
なんて言われ過ぎて もう慣れている
今か今かと待ちわびた結果
今ここに立って歌ってる
誰も待ってないかも知れないけど
お・ま・た・せ!!
特にスポーツで顕著にある傾向だが、試合に勝っている方より負けていて追い上げている方が強い時がある。
勝っている方はそれ以上の状態が無いので自然と気が緩む。
負けている方は「相手を上回る」という目標があるので120%の力を出して逆転を目指す。
勿論常に追うものが勝つわけではない。
当たり前だが勝っている方が有利で、だからこそCreepy Nutsは今まで辛酸を嘗め、地べたを這いつくばって脇役を演じてきた。
ただひたすら、表舞台に立ち、日の目を見る日を夢見て。
キャラクターや空気感はまるで違うが、似た事を歌った歌がある。
フォークデュオ、ハンバート・ハンバートの「長いこと待っていたんだ」。
僕は今ギターを抱え マイクに向かって歌う
長いこと待っていたんだ 今この時の来るのを
長いこと待っていたんだ
いつか舞台に立つ日を夢見て、主役を夢見て、今日も脇役たちは一瞬でもスポットライトが当たるその時が来るのを待っている。
「助演男優賞」というタイトルに込められた想い
しゃべえアティチュードでメンタルは中坊
主役の玉じゃ無い…
Hey Party People でも本音を言うと
主役の座が奪いたい…
Sixth Man で上等 助演男優賞
芸達者な名脇役 現場に急行
Hey Party People Everybody 注目!
正統派のベンチウォーマー 毎回Fly High!
Sixth Man で上等 助演男優賞
芸達者な名脇役 現場に急行
Hey Party People Everybody 注目!
正統派のベンチウォーマー 毎回大逆転
自分自身が主役の玉ではないということはよく分かっている。
きっと、主役はこんな事を考えないからだ。
だからこそ、「助演男優賞」なのだと思う。
主演でなくて良い、助演でピンポイントで輝く存在になりたい。
助演だって賞は取れる。
助演だって人を感動させることができる。
この歌は、主演に憧れながらも助演という立場に意地と誇りを隠し持っている、全ての「追う者たち」へのサウンドトラックである。
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