【Mockingbird/Eminem】歌詞(リリック)の意味を考察、解釈する。

今回は、Eminem(エミネム)4枚目の公式アルバム「Encore」に収録され、4thシングルとしてもリリースされた「Mockingbird(モッキンバード)」について紹介・考察していこう。

私は長年、この曲がなぜ「モッキンバード」とタイトルが付けられているのか、今一つしっくりこない思いを抱えていた。
しかし、今回の執筆を機に同曲をレビューしていると、私なりにタイトルに秘められた意図を見出せた(気がする)ので後ほど紹介していくことにする。

3度の飯より愛娘のことで頭がいっぱいなEminem(Rap Godも人の親)

Mockingbirdというタイトルではあるが、この曲は何より実の娘、Hailie(ヘイリー)への想いが綴られた作品である。
むしろ、「Hailie’s Song」と呼んでしまっても構わないだろう。
おっと、あいにく本物の「Hailie’s Song」は、3rdアルバム(Eminem Show)に収録済みなので、「Hailie’s Song 2」という曲名でもよかったぐらいだ。

もっとも、Eminemの場合は、数曲に1度は、娘のことに触れなければ正気が保てないのか?と思えるほど「Hailie」の言葉はリリック内に頻繁に登場してくる。
事実、Eminemの長いキャリアにおいて、彼女のことを歌詞に綴った作品は少なくとも20曲以上を数えるから驚きだ。

そうした20数曲の中でも、この「Mockingbird」の「Hailie濃度」は別格ものと言っていい。
何番目かの VerseにHailieが出てくるという次元ではなく、終始一貫してHailieに語りかけるスタンスで、父としての自分の想い、元妻Kim(Hailieの母)との関係性を綴ったリリックで構成されている。

MVでは、部屋でポツリと、Eminemが幼き日の娘たちが映ったホームビデオを見つめる寂しげな演出。
本物のホームビデオの録画映像を大半で使用し、リアリティを前面に押し出すことで楽曲とも心地よいシンクロを果たしている。

父親としての愛を注ぐ対象は実娘と、もう1人

「Mockingbird」は、1st verseと2nd verseに分かれており、verseごとのリリックのボリュームはかなり多い。
1st verseでは、母親とは一緒に暮らせない状況下にある娘を、少しでも安心させよう、元気づけようというEminemの切実な想いが歌詞全体からほとばしる。


例えば、

I can see you’re sad, even when you smile, even when you laugh

I can see it in your eyes, deep inside you wanna cry


のライン。

「笑っている時も、君の目を見ると、悲しい、泣きたいってのが分かるよ…」と、一見楽しい場面でも常に母の不在に心を痛めている娘の内面、そして、父としてのやり切れない気持ちがリスナーの胸をつく。

ところが、曲が進むうちに、突如「Laney」と呼び掛けたり、「two little beautiful girls」などと描写したりしていることから、「娘が2人?」と困惑したリスナーがいるかもしれない。
いや、MVもよく見ると、カメラの焦点が1人ではなく、明らかに2人の女の子を常に捉えている…これはどういうことか?

実は、2人のうち背が高い方の女の子は、Hailieの3つ年上でEminemの姪にあたるAlainaなのだ。
Eminemの元妻Kimには双子の姉妹がいたが、大人の事情で子育てが難しい状況にあったため、幼い頃からAlainaを引き取り娘同然に育てていた。
また、この曲には登場しないが、Eminemはさらにもう1人の姪(Whitney)も養子として引き取っていることから、実のところ、3人の娘の成長を見守った子育てラッパーなのである。

華やかなメジャーデビューの陰で起きていたこと

2nd verseに入ると、そのリリックはより具体性を増していく。
貧乏で苦しかった時の状況や、娘のための貯金を盗まれてしまったこと、Dr.Dreに出会いラッパーとして日の目を見るも、妻とはますます関係悪化が進んだことなどが赤裸々に明かされていく。

特に、

Papa was a rollin stone, momma developed a habit

(パパはローリングストーン誌に載って、ママは悪い癖を覚えていった)

のラインは、余りに皮肉で過酷な現実に直面していた状況が垣間見える。
ここでの悪い癖とは、他ならぬ薬物依存のこと。
その行い自体は当然賛同できるものではないが、この2verseでの露骨な描写を見せつけられると、元妻が嫌悪感を示す気持ちも全くわからないではない気もする。

Mockingbirdのタイトルに込められた娘だけは守り抜く決意

タイトルにもなったMockingbirdがようやくリリックに登場するのが、以下の最終盤のhookの内容だ。

And if you ask me to daddy’s gonna buy you a mockingbird

(中略)

And if that mockingbird don’t sing and that ring don’t shine

I’ma break that birdie’s neck

(欲しいと言うなら、モッキンバードを買ってきてあげるよ。)

(もしよく鳴いて歌わないなら、その鳥の首をへし折ってあげるよ。)(織田信長?)

他にも「ダイヤのリングをあげる」、「歌を歌ってあげる」など、娘に与えたいものをいくつか例示していることから、結局モッキンバードはそうしたギフトの1例に過ぎないのだ。
そのため、冒頭で触れたように、モッキンバードはわざわざタイトルに付けるほどの存在なのか?と個人的に違和感を覚えていた経緯がある。


そこで、今度はモッキンバードという言葉自体に注目してみよう。
モッキンバードは、声真似をして鳴くのが非常に得意な鳥で、その様子が相手をバカにしているようであることから「嘲り笑う鳥」と命名されている。
「mock」は単に笑うのではなく、相手をバカにして、下に見て笑う(嘲笑)のニュアンスが非常に強い言葉だ。
そうした意味合いを鳥に当てはめて、Mockingbirdという言葉が出来上がっている。

よって、最終hookで突然出てきたMockingbird(嘲り笑う鳥)とは、学術名通りに「声真似の上手な鳥」を指す一方で、実は「嘲り笑う行為」を暗示しているのではないか。
そうすると、「首をへし折る」という刺激的表現は、Eminemの最愛の娘を嘲笑するかもしれない連中への警告と捉えることができるだろう。

奇しくも現在、成長したHailieは美しきインスタグラマー(検索推奨)として多くのフォロワーを従えている状況にある。
もしも、娘の投稿を誰かが嘲笑する(mocking)ようなことがあれば、昔も今も変わることなくパパ(Eminem)がただでは済まさないはずだ。