【板の上の魔物/Creepy Nuts】歌詞(リリック)の意味を考察、解釈する。

Creepy Nutsの地位をさらに盤石にした一曲。ドラマ「べしゃり暮らし」のOPテーマ「板の上の魔物」

Creepy Nuts(クリーピーナッツ)は「ULTIMATE MC BATTLE」にて3年連続でグランドチャンピオンに輝き、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)で「フリースタイルの最高到達点」と称されたR-指定と、「DMC JAPAN DJ CHAMPIONSHIPS 2019 FINAL」バトル部門優勝や「DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS 2019」に日本代表としてバトル部門に出場し、優勝するなど、実力派DJとしての存在感を発揮しているDJ松永の二人で構成されているヒップホップユニットである。

彼らのメジャーデビューは2017年であるが、デビュー以降、その作りこまれた作品とオリジナリティあふれる世界観で多くのファンを獲得し、楽曲をリリースし続けてきている。

今回は、2018年リリースの「よふかしのうた」内に収録され、ドラマやイベントで多く使用された楽曲「板の上の魔物」の歌詞(リリック)について考察、解説をしていく。

まずは緊張感を漂わせながら盛り上げる

Check…

まずは今日の空気、まずは今日の客

まずは今日の現場、ここの温度感

ノリは良いのか?いや、ノリ悪りぃのか?

ダレて来ちゃいねぇよな?

…って誰と話してんのか…

スタートから徐々に緊張感を漂わせながら、リズムを刻む。
これから先への覚悟を秘めたリリックで場を温めていく流れを作っていく。
まるでリスナーとの掛け合いのように、自分の内面と向き合い、自身を鼓舞するような形で曲は進んでいく。

神がかり的なダブルミーニング

呑まれちゃ一巻の終わり

時間(二巻)はもう迫ってる

参観日(三巻)のガキのごとく

何か起こりそうな予感(四巻)

研ぎ澄ませテメェの五感(五巻)

無冠(六巻)の帝王じゃ

成し遂げてから死ななアカン(七巻)

やたらヤバめ発汗作用(八巻)

ナイトフライト夜間飛行(八巻)

ブッ倒れて急患(九巻)で運ばれるほど

生きてる実感(十巻)

元々、R-指定はただ単純に韻を踏むのでは無く、何かしらの意味やオチをつけるアーティストとして有名で、いわゆる「ダブルミーニング」と言われるいくつかの解釈ができるリリックを駆使する傾向にある。

この曲に関しても、このあたりから神がかり的なR-指定の「ダブルミーニング」が畳みかけられる。
一巻から始まり十巻まで、おそらくタイアップである「べしゃり暮らし」の原作が漫画であることからその巻数を指し示すものだと解釈できる。

もうすぐ、始まってしまう舞台・ライブ、そこへ向かう芸の道に携わる者。
そこへ向かう気持ちを作っていく段階の歌詞である。

細かくも練られた関連性を強く感じる一節

お気張りやす baby 陽の目浴びるまで

べしゃりブリバリエブリデイ

泣くも笑うも己次第、my men(相方)

末路憐れも覚悟の上

前項と同じく「べしゃり暮らし」に登場するキャラクターで京都出身の漫才コンビからの引用で京言葉の代表である「お気張りやす」、R-指定が好きなヤンキー用語から「ブリバリ」(当人曰くバリバリの上位互換とのことらしい)。
最後の「末路哀れも覚悟の上」は伝説的な落語家・桂米朝の「末路哀れは覚悟の前」(芸の道を志すからには畳の上で満足に死ねるわけがない)を現代風にアレンジしたものだと推察される。

曲全体のテーマでもあるが、芸人へのリスペクトが感じられ、その気迫や生き様がよく表現されている。

コンビネーションブローのようなリリック

俺の感受性ならば尾崎

世界観なら底なし

武、水谷、馬並みの相棒が助太刀

「感受性ならば尾崎」は「尾崎豊」。
そこからの「豊」つながりで「武」(ジョッキーの武豊)、「水谷」(俳優の水谷豊)。

さらには「尾崎」というキーワードから連想される「尾崎世界観」(クリープハイプのボーカル)。
武豊から連想される「馬」。

水谷豊から連想される「相棒」というように連続で流れるようにリリックが紡がれていく。

芸の道との関連性/エンターテイナーとしての生き様

アーティスト、芸人、俳優等いわゆる演者・エンターテイナーの心境をつづり、その覚悟や思い、儚さを歌い上げている。

もちろん歌っている自身も含め、原作「べしゃり暮らし」自体、芸人が過酷な人生を紡いでいく物語であることを考え、それを反映させた歌詞は見事なリリックであるといえるだろう。

この曲は2020年に漫才師ナンバーワンを決めるイベント『M-1グランプリ2020』のスペシャルムービーとしても起用されている。
その事実から考えると、自他共に認める「芸の世界に関わる者」への応援歌とも言えるのではないか。

芸という言葉は幅広く底知れない。
そのリアル感と輝き、そしてその影を上手く表現し、アップチューンに表現した名曲であるといえるだろう。