Mr.Childrenの楽曲「タガタメ」は、2002年にリリースされたアルバム『IT’S A WONDERFUL WORLD』に収録されている楽曲です。シングル曲ではないにもかかわらず、ファンの間で非常に人気が高く、ライブでもたびたび演奏されるこの曲には、なぜこれほどまでに強いメッセージ性が込められているのでしょうか。
本記事では、「タガタメ」の歌詞を深く読み解き、その意味や背景、込められたメッセージを考察していきます。
1. タガタメとは何を意味する?タイトルの語源と象徴性
「タガタメ」という言葉は、「誰が為(たがため)」という古風な表現に由来します。「誰のために」という意味を持ち、人間の行動や存在の目的を問うフレーズです。
歌の冒頭でいきなり「戦って 誰がため?」と問いかけるこのタイトルは、楽曲全体のテーマを象徴するものです。「戦う」という言葉が意味するのは単なる物理的な争いではなく、もっと大きな文脈、例えば日常の葛藤、社会の対立、そして人間が生きる上で避けられない“競争”や“矛盾”です。
この問いは私たちに「あなたは何のために行動しているのか?」と迫り、同時に「その行動は、誰かの幸せにつながっているのか?」という根源的なテーマを浮かび上がらせています。
2. メインメッセージ:子供たちを被害者にも加害者にもさせないために
歌詞の中で強く印象に残るのは、未来を担う「子供たち」への言及です。
子供らを被害者に したくはない
子供らを加害者に したくはない
このフレーズは、桜井和寿が2001年のアメリカ同時多発テロや、その後の報復戦争に触発されて書いたとされる背景と深く結びついています。世界中で続く争いは、必ずそのしわ寄せが弱い立場の人間に向かいます。特に、罪のない子供たちは、しばしば戦争の犠牲者となり、あるいはその環境で育つことで加害者になってしまう現実があるのです。
この歌詞は、単なる反戦歌ではなく、「未来を生きる子供たちに、どんな世界を残すのか」という大人たちへの問いかけです。そして、その責任は誰か一人のものではなく、私たち一人ひとりに課されていることを訴えています。
3. 「戦う」の意味とは?戦争・争いを超える〈守りたいもの〉への戦い
「戦う」という言葉は、表面的には戦争や暴力を想起させますが、この楽曲においては、より広い意味を持っています。
タタカッテ タガタメ?
このリフレインは、直接的な戦争だけでなく、日常に潜む小さな争いや対立、価値観の違いに起因する摩擦をも包含しています。「何のために争うのか?」「誰のためにそのエネルギーを使っているのか?」という根源的な問いです。
さらに言えば、「戦う」ことは必ずしも悪いことではない、とも読み取れます。歌詞の中にある「守りたいもの」というニュアンスは、家族や仲間、信じる価値観を守るための闘いも含んでいます。問題は、その闘いが“憎しみの連鎖を生むもの”なのか、“愛を守るためのもの”なのか、ということです。
4. 対立と共感:私たちは連鎖する生き物であること
この曲の中には、左右、対立、相反する価値観を象徴するフレーズが出てきます。
左の人 右の人 そのまた向こうの人
どちらも片一方を裁けないだろう?
この一節が示すのは、人間が持つ「相対性」と「不完全性」です。思想や立場が違っても、根本的には同じ人間であり、誰もが完全に正しいわけではありません。むしろ、互いに影響しあい、連鎖しながら生きているのが人間です。
この視点を持てば、対立構造を単純に「正義と悪」に分けることの危うさに気づきます。「タガタメ」は、そうした社会の構造を批判するだけでなく、共感を取り戻すことの重要性を示しているのです。
5. 日常への問いかけ:愛すること、抱き合うことの力
歌の最後に近づくと、激しい問いかけから一転、やわらかな表現が現れます。
ただ抱き合って 笑っていたいだけ
このシンプルな願いは、実はとても深いメッセージを含んでいます。争いの根本にあるものは「恐れ」や「不安」であり、それを超えるのは「愛」や「共感」です。このラストパートが示すのは、壮大な理想や難しい哲学ではなく、誰もが持っているはずの「大切な人を守りたい」という想いです。
桜井和寿は、戦争や社会問題を描きながら、最後にこうした身近で温かい光を提示することで、「どんな時代でも、人間の根本は愛だ」という普遍的な真理を訴えかけています。
まとめ:タガタメが問いかけるのは、私たち一人ひとりへのメッセージ
「タガタメ」は、戦争や社会問題を題材にしつつ、決して遠い世界の話ではなく、私たちの日常に深く関係する楽曲です。
・なぜ争うのか?
・その争いは誰のためか?
・子供たちの未来を守るために、何ができるのか?
これらの問いは、今の世界でも色あせることなく響きます。Mr.Childrenのこの名曲は、単なる反戦歌にとどまらず、「愛と共感」を取り戻すための強いメッセージを私たちに送り続けているのです。