「第一→第三番」で描かれる三つの視点：ファン・仲間・アイ自身
YOASOBIの楽曲「アイドル」は、その構成に大きな特徴があります。歌詞を大きく分けると、第一番、第二番、第三番と3つのパートに分かれており、それぞれ異なる人物の視点で描かれていると考えられています。
- 第一番：ファン視点
冒頭では、「ねえ、可愛いでしょ私の推し」というフレーズが象徴的です。これは、星野アイを“推し”として崇拝するファンの目線。彼女を「完璧なアイドル」として理想化し、誰もが憧れる存在と見なす様子が描かれています。「天才的なアイドル様」という表現には、ファンからの絶対的な信頼や、彼女の欠点を一切許さない幻想が見て取れます。 - 第二番：仲間（B小町メンバー）視点
次に語られるのは、アイと同じアイドルグループ「B小町」の仲間たちの感情です。ここには、アイの圧倒的な才能に対する「嫉妬」や、自分が「引き立て役」でしかないという葛藤が滲み出ています。彼女たちもまた努力を重ねてきたはずですが、アイのカリスマ性の前では霞んでしまう。その苦しみが、言葉の端々に現れています。 - 第三番：アイ自身の視点
最後に描かれるのは、誰よりも孤独な星野アイの本音。「本当の私を知っているのは誰？」というメッセージが強く響きます。母としての愛、アイドルとしての役割、その狭間で生きるアイは、「愛されるための嘘」を重ね続けてきました。ここに、楽曲の核心があります。
「完璧だけど嘘っぽい“アイドル像”」：ファンとメディアから見える虚像
「無敵で天才的なアイドル様」。このフレーズに集約されるように、アイは誰もが憧れる“完璧な存在”として描かれています。しかし、その完璧さはあくまで“演じられたもの”。YOASOBI「アイドル」は、まさにこの「虚像」と「現実」の対比をテーマとしています。
ファンやメディアにとって、アイは「偶像＝アイドル」そのもの。スキャンダルを嫌い、純粋無垢であることを求める社会の圧力が、彼女に“完璧”を演じさせています。
実際の歌詞中には、「本音は隠して笑う」といったニュアンスの表現があり、嘘を重ねることがアイにとって日常であったことがわかります。
つまり、YOASOBI「アイドル」は、現代のアイドル業界やファン文化に潜む「理想と現実の乖離」を象徴的に描いた楽曲なのです。
「嫉妬と引き立て役としての葛藤」：B小町メンバー視点の解析
歌詞の第二番では、B小町メンバーの心理が克明に描かれています。「君と比べたら私はただの飾り」というニュアンスが、その複雑な感情を端的に表現しています。
彼女たちは、アイというカリスマを認めつつも、自分が引き立て役に過ぎないことを痛感し、その度に自尊心を傷つけられます。
特に印象的なのは、「羨ましさに滲む苦しさ」。これは、アイドルという職業における厳しい現実を示しています。成功すれば絶大な人気を得られる一方で、その光の裏には“影”が必ず存在する。YOASOBIの歌詞は、その両面性を鋭く突いています。
「“アイ”の二面性：母であり演者であるアイ自身の葛藤」
YOASOBI「アイドル」の最大の鍵は、第三番にあります。ここで明かされるのは、星野アイの“秘密”。彼女はアイドルであると同時に、母親でもあったのです。
この事実は、原作『【推しの子】』を知っている人には衝撃ではありませんが、楽曲としては非常に象徴的な要素です。
なぜなら、アイは「愛されるために嘘を重ねるアイドル」としての顔と、「子どもを本気で愛する母」としての顔を同時に持っていたからです。
彼女が求めたのは「本当の愛」でした。しかし、ファンから求められるのは「偶像としての愛され方」。そのギャップに苦しむアイの心情が、楽曲全体を通じて強烈に表現されています。
「言葉遊びと比喩表現に見る奥深いメッセージ性」
YOASOBIの楽曲の魅力は、その緻密な言葉選びにあります。「アイドル」も例外ではありません。
特に注目すべきは、「瞳」「愛」「アイ」という3つの言葉が重なり合うトリプルミーニング。この仕掛けは、歌詞全体に深い意味を与えています。
- 瞳（eye） …「視線」や「見つめられる存在」としてのアイドル像
- 愛（love） …「愛されたい」というアイの本音、母としての愛情
- アイ（Ai） …キャラクターの名前であり、象徴そのもの
さらに、歌詞には宗教的なコーラスや教会音楽のような響きが組み込まれており、アイが“神聖な存在”として崇拝されている様子を暗示します。この演出は、アイドルという文化が「現代の偶像崇拝」であることを示唆しているとも解釈できます。
✅ まとめ：YOASOBI「アイドル」が伝えるメッセージ
YOASOBIの「アイドル」は、表面的にはキラキラとしたポップソングですが、その裏には深いテーマが潜んでいます。
「愛されるための嘘」「本当の愛への渇望」「偶像崇拝と現代社会」という3つの軸を持ち、リスナーに問いを投げかけているのです。
この曲を聴くことで、アイドルという存在をめぐる“光と影”の物語を、改めて考えさせられます。
