【椎名林檎】人気曲「ギブス」の批評と解説。歌詞の意味や、サウンドの特徴を分析。

椎名林檎ブレイク後の次のステップ

歌手やバンド、アーティストがまず目指すのは「ブレイクスルー」である。

それがデビュー作の場合もあるし、何作かを経て花開く場合もあるし、それこそ何年、何十年とかけてブレイクするアーティストも中にはいる。

椎名林檎の場合、デビュー作「幸福論」で一部に浸透、「歌舞伎町の女王」でカルトな人気を獲得、「ここでキスして」で一般層にその名が知れ渡り、1stアルバム「無罪モラトリアム」が大ヒットしブレイクスルー、という流れだったかと思う。

ブレイク後の次作というのは重要な意味合いを持つ。
それまでを継承するのか、ある程度変化を加えるのか、アーティストにより形は様々だが、大体の場合「いきなり消える」事は少ない。
大ヒットを飛ばした後はどんな作品であれ、ある程度の注目を浴びるものである。

大ヒットの次のステップ、そこでその後の明暗が分かれる、というのは言いすぎだろうか。
どんな一発屋でも一発の次の作品はよほどの事情がない限りある程度のセールスを上げるし、ある程度のメディアの露出は保証されている。
そこから更に大きく羽ばたく場合もあれば、徐々に先細りになり消えていく場合もある。

椎名林檎の場合は勿論前者だ。
「無罪モラトリアム」の次作はナース服のコスプレが話題を呼んだシングル「本能」だが、この作品がミリオンセラーとなり人気・実力を盤石なものにした。

次いで、セカンドアルバム「勝訴ストリップ」の先行シングルとして二枚同時にリリースされたのがシングル「ギブス」「罪と罰」である。
「本能」のような演出や仕掛けはない。
むき出しの椎名林檎が放つまっさらなロック、それが「ギブス」「罪と罰」だった。

それまでは「新宿系」という肩書や「ナースのコスプレ」といった仕掛けが話題を呼んでいた部分もあるが、この二曲では正真正銘、楽曲のみで勝負している。
エキセントリックな新人でもなく、話題先行のハイプでもない。
一人のミュージシャンとしての椎名林檎がこの二曲で存分に発露したのである。

今回は二曲のうち、「ギブス」に着目して考察をしてみようと思う。

「丸ノ内サディスティック」の落とし子?

1stアルバム「無罪モラトリアム」に収録されている「丸の内サディスティック」にはベンジーという名前が登場する。
椎名林檎がデビュー前から影響を受けているバンド「ブランキー・ジェット・シティ」のギターボーカル、浅井健一の事である。

その浅井健一が「罪と罰」にギターで参加している。
独特の乾いた音色と荒涼としたフレーズはこの「罪と罰」のサウンドの要となっており、今までにない新たな椎名林檎像を表現させる事となった。

「ギブス」の歌詞に登場する以下の歌詞にも注目されたい。

あなたはすぐに いじけて見せたがる

あたしは何時も 其れを喜ぶの

だってカートみたいだから あたしがコートニーじゃない

カートとは椎名林檎がブランキー・ジェット・シティ同様敬愛しているバンド、ニルヴァーナのボーカル、カート・コバーンを指している。
コートニーはグランジバンド、ホールのボーカルでカート・コバーンの妻でもあるコートニー・ラヴの事である。

そして、「丸の内サディスティック」にはこんな歌詞がある。

将来僧になって結婚して欲しい

丸の内サディスティック

僧とは仏教、「ニルヴァーナ」は仏教用語の「涅槃」の英訳である。

「僧」というのはニルヴァーナひいては早逝したボーカルのカート・コバーンを指しているのではないだろうか。

同曲を英語で歌唱した「丸の内サディスティック(EXPO ver.)」の歌詞はこうなっている。

I’ll rip into those robes and pursue the Dharma

A Buddhist monk of my own would feel fine

Selflessness and cessation get you Nirvana

It Kurt would beat my Gretsch, I think I’d fly

丸の内サディスティック(EXPO ver.)

Nirvanaという箇所が単純に仏教用語である「涅槃」を差すのであればnirvanaと頭文字が小文字になるはずである。

Nirvanaと大文字にしてあるのは、やはりバンドのニルヴァーナを指しているからではないだろうか。

また、「丸の内サディスティック」で歌唱されていた「リッケン620頂戴」という歌詞について、「ギブス」のPVではリッケン620をかき鳴らす椎名林檎の姿を見ることが出来る。

「罪と罰」「ギブス」この二曲は「丸の内サディスティック」から生まれた、あるいはインスピレーションを得た部分があるのではないだろうか。

新たな音楽性の融合

「ギブス」のサウンドはロックである。

細かく言うと、ニルヴァーナやこれまた同じく椎名林檎が敬愛するレディオヘッドが影響を受けたオルタナティヴロックバンド「ピクシーズ」の「静と動」という構成に多分な影響を受けている。
また、轟音ギターと甘いメロディという組み合わせはマイ・ブラッディ・バレンタインに代表される「シューゲイザー」の要素も含まれている。

そして、ピアノと心音のようなバスドラムが印象的な導入部分は2ndアルバム「勝訴ストリップ」で全編に渡り大胆に取り入れられたエレクトロニカの要素があり、様々な音楽性を融合させた椎名林檎の新たなサウンドを彩っている。

「ギブス」が発表されたのは2000年1月で、これはレディオヘッドの「キッドA」よりも、くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」よりも、スーパーカーの「FAIRWAY」よりも前である。
ロックとエレクトロの融合に先鞭をつけたという意味でもこの曲が与えた衝撃は大きかったはずだ。

無垢な愛情と、ひび割れる程に激しい激情

歌詞の内容は全編においてまっすぐな恋愛を歌っている。

が、一部に歪みが見られる。

don’t U θink? i 罠 B wiθ U

文字化けした歌詞が記号のように並べられ、ストレートな愛情に一筋の歪みを与えている。

静謐なAメロと、ノイズまじりのディストーションギターが激しく吹き荒れるサビ。

歌詞の内容は真逆で、静謐なAメロでは斜に構えた思考で何かを厭がったり喜んだりする様子が、激しいサビでは逆に「ぎゅっとしていてね」という子供のような無垢な歌詞が表現されている。

この辺りは3rdシングル「ここでキスして。」とも共通する手法だ。

数多くの楽曲を発表した現在でも椎名林檎の代表曲として挙げる人も多いこの「ギブス」。

この楽曲が初期椎名林檎の一つのピークであったと私は思う。

時代とともに様々な音楽性へと変化を続ける椎名林檎の「ロック」を体感したいのであれば聞き逃すことの出来ない一曲だ。

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