「何度も“最悪”を繰り返してんだ/悪夢から飛び起きるモーニング」という冒頭のフレーズから始まる『Ashes』。日曜劇場ドラマの主題歌としても起用されているこの楽曲には、“灰(Ashes)”という言葉が象徴するもの、そしてそこからの再起・覚醒のメッセージが込められています。今回は、歌詞の中に散りばめられた比喩や構造、サウンド面の裏側、さらには制作背景も交えながら、Superflyが描く「どん底からの情熱の復活」の物語を読み解ります。
1. 『Ashes』は何の主題歌?基本データとリリース情報の整理
まずこの楽曲がどのような位置づけで発表されたかを整理しておきましょう。『Ashes』は2023年11月5日に配信リリースされ、ドラマ 下剋上球児(TBS系日曜劇場)の主題歌として制作されました。
このドラマは高校野球を軸に、地域・家族・教育など幅広い社会的テーマを扱う “ドリームヒューマン” 作品。Superfly側も「情熱」というキーワードを受けて、通常の爽やかロックではなく、ダークでスリリングな曲調を選択したというインタビューがあります。
また、歌詞・作曲共に越智志帆が深く関わっており、作詞:越智志帆・jam/作曲:越智志帆・木崎賢治・宮田“レフティ”リョウというメンバー構成です。
このように、リリース背景・ドラマとの関連性・制作陣という3点が揃っており、楽曲としても「光を取り戻す」物語性が意図されていると見られます。
2. “灰(Ashes)”の比喩が示すもの――ネガからポジへ反転する情熱
タイトル「Ashes=灰、燃え殻」という言葉自体が象徴的です。Wikipediaによれば、タイトルの意味として「灰」「燃え殻」などを意味しており、“燃え尽きた後”の状態を指しています。
歌詞冒頭では 「作り笑顔 灰になりそう」 と表現され、虚構の笑顔・無意味さ・日常のルーティンへの疲弊感が描かれています。
さらに「情熱ってなんだよ 消えちまえ」と、情熱そのものを一度否定するような強い言葉も登場します。
このように、まず“ネガティブな現状”が提示されてから、サビに向けて「もういいや」「覚悟を決めたなら深呼吸をして/Get away」という転換が訪れます。
つまり「灰=燃えたあと」「燃え尽きたあとにこそ、新たな炎は立ち上がる」という構図。ネガティブをバネにして、逆転しようという強い意志が、この曲の比喩的な軸になっていると言えます。
3. 歌詞ストーリーの全体像:最悪の朝から「再起の決意」へ
では、歌詞を物語として読み解んでみましょう。
冒頭:「最悪を繰り返してんだ/悪夢から 飛び起きるモーニング」
→ 同じような最悪な日々がループしている。「悪夢から起きても、現実はあまり変わらない」という醒めた心境が描かれています。 …「現実もさして変わらない/作り笑顔 灰になりそう」
中盤:「情熱ってなんだよ 消えちまえ」…「嘘つきな僕じゃ分からない/もういいや」
→ 自分自身へ“情熱”という言葉をぶつけながら、疑問符を突きつけています。
転機:「全部投げ出し遠くへ行こうか/誰かのためじゃなく僕のために/Get away」
→ 他者のためではなく、自分のために立ち上がろうと決意。
サビ:「情熱が胸で/燃え盛る/ダイヤのように 灰になれ」
→ “灰になる”ことが最終的には「燃え抜いた証」「新たなスタート」になっている。
結び:「思い通りなど起こるはずもない/覚悟を決めたなら深呼吸をして/Get away」
→ 理想通りには行かないが、覚悟を決めたとき、自分を解放する。
このように、歌詞は「ループされた苦悩 → 自己否定/疲労 → 決意の瞬間 → 解放・再起」という流れを描いており、“最悪”という状態を出発点として“再起”を掲げる構造になっています。
4. サウンド解剖:タイトなバンド×ストリングスが描く“下剋上”のダイナミズム
歌詞だけでなく、サウンド面も楽曲のテーマを支えています。公式インタビューによれば、楽曲はバンドサウンドをベースとしながらも、ストリングスやインディーロック的なタイトな編成を取り入れ、ロウな低音とヴォーカル表現を引き立てる設計がなされていました。
例えば、イントロでは緊迫感を孕んだギターのリフ、低めに這うベース、ドラムのロールが「何が起こるか分からない」ドラマ的な空気を生み出しています。
そしてサビではストリングスが飛び跳ねるように入り、楽曲に“解放”の瞬間をもたらしています。
歌詞が「灰」「燃え盛る」「ダイヤのように」といった強い比喩を持つ以上、音にも“抑圧からの解放”という動きが設計されており、聴き手は「今ここに脱け出そう」という感覚を音で体感できます。
また、「誰かのためじゃなく僕のために」という歌詞の主張に対して、歌唱表現にも“個の意志”が込められており、Superflyのヴォーカル力が楽曲の骨格を担っていると言えます。
5. 制作背景とインタビューから読む“情熱”の捉え方――ドラマ/MVとのシンクロも含めて
最後に、制作背景・インタビュー・ドラマとの関連から、この楽曲が持つメッセージを深めてみます。
インタビューでは「情熱」という言葉を100%ポジティブに捉えているわけではない、という発言があります。つまり、情熱=無条件に正しいものではなく、時には“消えちまえ”という否定すら必要になるという覚悟の表明です。
また、ドラマ『下剋上球児』のテーマ(弱小野球部が甲子園をめざしながら、地域・教育・家族の問題にも直面する)と楽曲の「下剋上」「燃え尽きたあとに再び立ち上がる」という物語は強くリンクしています。
MVでは、ディレクターによって“ネガティブな情熱を表現した映像作品”として制作されており、「燃え尽きたあとにこそ本当の闘いが始まる」という視覚的な演出も加わっています。
このように、歌詞・サウンド・映像・ドラマという異なるメディアが一体となって、「ただ頑張る」のではなく「燃え尽きたあと/弱さを認めたあとだからこそ立ち上がる」ことの価値を提示しています。
読者としては、“情熱”や“再起”と聞いたとき、つい前向きな言葉だけを思い浮かべるかもしれません。しかしこの曲は、まず「燃え尽きる」「灰になる」というネガティブな段階を経てこそ、本当の情熱が見えてくる、というメッセージを含んでいるのです。
まとめ
『Ashes』は、誰もが抱える「思い通りにならない日常」「疲れ」「作り笑顔」を描いたうえで、それでも「自分のために立ち上がる」決意を歌った楽曲です。灰になる=終わりではなく、むしろその後が始まり。Superflyが音と歌詞で描くこのストーリーは、ただ応援歌というには深く、聴く者自身の内面に問いかけを残します。
もしもあなたが「もう無理かもしれない」「でも何か変えたい」と思ったとき、この曲の「灰から燃え上がる」瞬間を感じてみてください。


