【空も飛べるはず/スピッツ】歌詞の意味を考察、解釈する。

ドラマの主題歌に抜擢されて大ヒットとなったスピッツの「空も飛べるはず」は1994年4月に発売された8枚目のシングルである。

「空も飛べるはず」はドラマ主題歌として依頼を受けて草野マサムネが書き下ろした曲であった。
しかし依頼されたドラマでは使用されず、シングルとして発売。
2年後の1996年にテレビドラマの主題歌として起用されるとスピッツで初めてのチャート1位を獲得したのである。

この「空も飛べるはず」にはデモバージョンも存在しており、歌詞や曲調が異なっている。
今回はデモバージョンの歌詞も含めて「空も飛べるはず」にはどんな意味が込められているのか歌詞を紐解きながら考察してみたいと思う。

生きる意味①=バンドをやること

草野は高校1年生のときに鬱になった時期があったとインタビューで語っている。

親には悟られないように明るく振る舞っていたが、何のために生きているのか生きている必要は本当にあるのか、何のために生まれてきたのかなど考えていたという。

幼い微熱を下げられないまま 神様の影を恐れて

隠したナイフが似合わない僕を おどけた歌でなぐさめた

色褪せながら ひび割れながら 輝くすべを求めて

草野は中学生のころ密かにギターを始めており、高校へ入るとバンドを組んだ。

当時の同級生は彼を「学校イチ、ギターがうまい男」と称している。

歌い出し部分は、思春期に「生や死」について思い詰めていたことを周囲の人には隠して生きていたことを表していると読み解いてみる。
その思考を変えてくれたのが音楽との出会いだったのではないだろうか。

草野は生きる意味を考えながら、自分が輝くすべを見つけるためにバンドを始めたのかもしれない。

生きる意味②=バンド仲間との繋がり

君と出会った奇跡が この胸にあふれてる

きっと今は自由に空を飛べるはず

夢を濡らした涙が 海原へ流れたら

ずっとそばで笑っていてほしい

大学に進学すると草野は現在のスピッツの元となるバンドを結成した。

君=バンドのメンバーと仮定すると、彼らと出会ってデビューすることができた奇跡で胸がいっぱいな気持ちを表している。

「空を飛ぶ」というイメージについて草野はインタビューで「荘厳なイメージ」と語っていた。
スピッツのメンバーと出会って自分の生きる意味となったバンド活動。
一生かけて叶える夢に向かって羽ばたいてゆくという希望が込められているのかもしれない。

切り札にしてた見えすいた嘘は 満月の夜にやぶいた

はかなく揺れる 髪のにおいで 深い眠りから覚めて

切り札にしてた見えすいた嘘=自分の本当の気持ちを隠して周囲に明るくふるまう自分。
「満月」は物事を実行するのに最適な日という意味として使われることが多い。
「深い眠りから覚めて」は何かを決心して覚醒したことを意味しているとすれば、この部分は過去の自分との決別と捉えられる。

生きる意味③=何かの力になりたい

君と出会った奇跡が この胸にあふれてる

きっと今は自由に空も飛べるはず

ゴミできらめく世界が 僕たちを拒んでも

ずっとそばで笑っていてほしい

ゴミできらめく世界とは、いま自分たちがいる地球や日本、または東京といった場所だろう。

草野は2010年のインタビューで

「“ゴミできらめく世界が 僕たちを拒んでも” っていうところを、僕たちを包んだらとか包んでも、にすればよかったなって思ってた」

と語っている。
自分たちがゴミの中にいるという自覚を持っているほうがいいと年齢を重ねて気づいたという。

当時は、もしバンドとして売れなかったとしても、ずっとメンバーでいて欲しいという繋がりを求めていた。
しかしバンドとして成功すると世の中への皮肉を含みながらも、その世界で生きていく、そして歌うことでその世界を少しでも変えることができたらという気持ちに変化したのかもしれない。

「空も飛べるはず」は生きる意味が込められた歌詞だった

「空も飛べるはず」のミュージックビデオは病院の庭で撮影されている。

真っ白な衣装に身を包んでおり、「天国」や「死の向こう側」をイメージさせるような映像である。

ひとりの老人が若いころを懐古しているような、もしくは天国へ辿り着いたときをイメージしているようにも見える。

そして「空も飛べるはず」にはデモ段階の音源も存在しており、歌詞は原曲と一部相違しているのだ。

君と出会えた痛みが この胸にあふれている

「めざめ」より

いくつか相違している箇所があるのだが、サビの部分を取り上げると、デモ段階の「めざめ」では“痛み”だったのが原曲では“奇跡”に変わっている。

痛みというのは、何かと出会ったことで別れが想定されることを意味しているのではないだろうか。

人でも物でも出会った以上、いつかは別れや終わりがやってくる。

ミュージックビデオの世界が天国だと仮定すれば、死んでもメンバーたちと一緒に音楽をやっていたいことを表現しているのかもしれない。

そして、曲の最後にはみんなが笑顔で並んでいるのである。

ずっとそばで笑っていてほしい

生きる意味がバンドであり、人との繋がりであるならば、

『笑顔のまま、楽しくバンドを続けていたい』

そのことで世の中の救いになることができたら。

そんな願いが込められているのが「空も飛べるはず」という曲なのである。