スピッツ最大のヒット曲である「ロビンソン」。
1995年4月に11枚目のシングルとして発売された。
「ロビンソン」がヒットしたことでスピッツのボーカルである草野マサムネは
「あと5年はバンドを続けられる」
と思ったとメディアのインタビューで答えている。
制作中は「ロビンソン」をいつものスピッツの地味な曲と感じていたという草野。
大々的な宣伝活動をしたわけでもない普段通りの曲だった「ロビンソン」がスピッツ最大のヒット曲となった理由はどこにあるのだろうか。
歌詞を考察しながら探っていきたいと思う。
「ロビンソン」は仮タイトルだった
歌詞を眺めてみると「ロビンソン」という言葉は一度も出てこない。
当時のプロデューサーである笹路正徳は
「草野は新曲を書くときに必ず仮タイトルをつけてくる」
と語っており、「ロビンソン」は草野がつけた仮タイトルがそのまま正式に採用されたとのこと。
「ロビンソン」はタイトルだけではなく歌詞にも不思議な言葉が散らばっている。
どんな背景が隠されているのか冒頭から読み解いてみたい。
新しい季節は なぜかせつない日々で
河原の道を自転車で 走る君を追いかけた
思い出のレコードと 大げさなエピソードを
疲れた肩にぶらさげて しかめつら まぶしそうに
曲はギターの三輪テツヤが弾くアルペジオ奏法で幕を開ける。
アルペジオから冒頭の歌い出し部分は哀愁を帯びていて印象的だ。
「ロビンソン」が発売されたのは1995年である。
レコーディングの最中である1月には関西方面で大きな震災が起きた。
彼らもレコーディングどころではないと思ったとのことだが、いま自分たちが出来ることをやろうと続行された。
無事にシングルを発売することになるのだが、新しい年が始まったばかりの1月に起きた自然災害。
プロデューサーの笹路も
「改めて聴くと、ロビンソンのイントロには、そんな思いがこもっていたのかも」
とインタビューで答えている。
冒頭の哀愁漂うアルペジオと歌詞は、日本で起きた大きな出来事に対する彼らの想いが込められているのだろう。
「ロビンソン」に登場する宇宙とは
同じセリフ 同じ時 思わず口にするような
ありふれたこの魔法で つくり上げたよ
誰も触われない 二人だけの国 君の手を離さぬように
大きな力で 空に浮かべたら ルララ 宇宙の風に乗る
草野が表現する歌詞は「性と死」がテーマであるが、それを包括した言葉が「宇宙」である。
地球にいる生物は全部一つの魂だったのではないかと彼は考えていたという。
人間は宇宙を構成する一部と捉えると、何気ない日常で起こる魔法=恋愛もその一つであると歌っている部分ではないだろうか。
片隅に捨てられて 呼吸をやめない猫も
どこか似ている 抱き上げて 無理やりに頬よせるよ
いつもの交差点で 見上げた丸い窓は
うす汚れている ぎりぎりの 三日月も僕を見てた
ここでは宇宙を構成している様々なものを表現している。
人間だけではなく、人間に捨てられた動物(ここでは猫)や見上げた先にある太陽、そして同時に沈んでゆく月も同じ宇宙に存在しているという意味だろう。
待ちぶせた夢のほとり 驚いた君の瞳
そして僕ら今ここで 生まれ変わるよ
命あるものは必ず死を迎える。
「人間も小さな生き物だし、必ず死ぬし、それでもまた生まれてくる」
と草野は語っていることから、死を迎えても宇宙を構成しているものたちは生まれ変わることができると考えている。
人間にとって必ず迎える死に希望を与えてくれる部分でもあるだろう。
「ロビンソン」はスピッツの未来を予知していた歌
草野は自分の書く歌詞について大きな意味を持たせたくないと語っている。
聴いた人が「何だかわからないけど、繰り返し聴いています」という反応が嬉しいとのこと。
メンバーやプロデューサーにも歌詞の意味を伝えないので、それぞれが解釈をして演奏している。
バンドとして大きなビジョンを持たなかったスピッツ。
草野が目指しているのは、バンドを死ぬまで続けていくことであることには当初から変わりない。
誰も触れない 二人だけの国 終わらない歌ばらまいて
大きな力で 空に浮かべたら ルララ 宇宙の風に乗る
大ヒットになると思っていなかった「ロビンソン」。
しかし歌詞には草野の目標が語られていた。
ずっとバンドを続けたいというシンプルな目標を掲げて活動をしてきたスピッツ。
「終わらない歌」とは宇宙の一部になるような永遠に存在する歌という意味ではないだろうか。
いつもの地味な歌と感じていた曲が大ヒットとなったのは、人間が宇宙を構成する一部であり、生まれ変わることができるかもしれないという希望を与える歌詞だからこそ世代を超えて人々の心に残る曲となったのではないだろうか。
それぞれの人が思いを巡らすことができる歌詞。それがスピッツの最大のヒット曲になった「ロビンソン」である。