バンド結成から30年以上活動を続けている「スピッツ」。
彼らはこれまで300曲以上をリリース。
変わらないバンドスタイルを貫きながらも新鮮な楽曲を常に届けている。
数多くあるヒット曲の中でも、「チェリー」は、スピッツの快進撃となった曲だ。
1996年4月に13枚目のシングルとして発売。
タイアップが無かったにも関わらず、161万枚以上のセールスを記録して彼らの代名詞となった曲である。
今回は「チェリー」の歌詞から、ソングライター草野マサムネの世界を探ってみたい。
「チェリー」には、複数の意味が存在する?
「チェリー」は、「地に足をつけてテクテク歩いていく。新たな旅たち」をイメージして書いたと草野は語っている。
リリース時の季節が春ということもあり、「卒業ソング」として音楽の授業でも採用。
他にも、「初恋」や「失恋」、はたまた「男性の初体験」を描いているようにも読み取れると様々な憶測を呼んでいる。
草野マサムネの歌詞は、比喩表現が多い。
聴く側の受け取り方で、歌詞の意味が幾重にも解釈できるのが特徴。
まさにカメレオンのように変化する歌詞が魅力の一つなのだ。
草野マサムネが掲げる「歌詞」のテーマとは?
では、草野マサムネにとって、歌詞に対するテーマとは何だろうか?
それは、彼自身が「性」と「死」であると答えている。
「性」と「死」は、人間が生きていく上で避けられない深いテーマ。
それを永遠のテーマに掲げ、メインソングライターとして活動し続けている。
そして彼は、スピッツが30周年を迎えたインタビューで、
「一生、バンドをやっていたいという楽しい惰性」
と語っていた。
彼にとって、バンドは生活の一部であり、人生そのものであるに違いない。
草野マサムネのバンドマンとしての野望
「10代の時に、初めて組んだバンドで、音を出した時に感じた”気持ちいい”を大切にしたい」
と草野は発言している。
少年のような心を忘れずに一生バンドを続けたい。
それが彼のバンドマンとしての野望である。
その野望は、「チェリー」の歌詞でも表現されているのではないだろうか。
草野は、「ロビンソン」がヒットした時に、「これであと5年はバンドをやっていける」と言っていた。「チェリー」をリリースした時期は、バンドの知名度も上がっており、バンドマンとして頂点へ向かう大事な時だったと推測できる。
彼が、「バンドを一生続けたい」と願う気持ちが込められている「チェリー」の歌詞を解説したいと思う。
「チェリー」の歌詞を徹底解説
君を忘れない 曲がりくねった道を行く
産まれたての太陽と 夢を渡る黄色い砂
二度と戻れない くすぐり合って転げた日
きっと 想像した以上に 騒がしい未来が僕を待ってる
・”君”⇒バンドを始めた時の自分
・”曲がりくねった道を行く”⇒売れっ子バンドへ駆け上っていく道中
・”産まれたての太陽と 夢を渡る黄色い砂”
⇒新しい朝を迎えて、昨日より自分が前に進んでいる状況を表している。
物語のように、捉えるならば、
「春の朝、窓を開けて、花粉や黄砂で霞む空も希望で溢れていた」
(※注:草野は花粉症持ちである)
・”二度と戻れない くすぐり合って転げた日”
⇒売れる以前のように、純粋に音楽を楽しむ日々には戻れない。
・”きっと 想像した以上に 騒がしい未来が僕を待ってる”
⇒大ヒットを飛ばした後のバンドを草野が想像した結果、
「この後も、もっと売れてやる」という野望が込められているのではないだろうか。
こぼれそうな思い 汚れた手で書き上げた
あの手紙はすぐにでも捨てて欲しいと言ったのに
⇒バンドの将来についてたくさんの希望で溢れているが、純粋な気持ちだけで音楽は出来ないという葛藤が表れている。
どんなに歩いても たどりつけない 心の雪でぬれた頬
悪魔のふりして 切り裂いた歌を 春の風に舞う花びらに変えて
この部分は、売れる以前のバンドと捉える。
パンクロックをやりたかった草野は、THE BLUE HEARTSの二番煎じと言われたことで挫折。バンドを続けることを考えた時に、やりたい音楽を押し殺したが、フォークロックへシフトして成功したことを描いている。
“愛してる”の響きだけで 強くなれる気がしたよ
ささやかな喜びを つぶれるほど抱きしめて
ズルしても真面目にも生きてゆける気がしたよ
いつかまた この場所で 君とめぐり会いたい
メディア出演、CDセールスなど想像できないくらいたくさんのモノが自分たちに舞い込んだ。
しかし、自分たちを応援してくれる人たちや音楽を始めた時の気持ちを忘れたくない。
今後のバンドの行方は、自分たち次第でどうにでもなる。
そして、また、「バンドを始めたときの自分」としてスタジオで音を出したい。
売れっ子バンドとして駆け上っていく道中も、バンドを始めた時の初心を忘れたくないという強い意志が描かれた部分である。
「チェリー」の歌詞にはスピッツの未来が描かれていた
草野マサムネ自身は、「チェリー」の歌詞について
「地に足をつけてテクテク歩いていく。新たな旅たち」
を書いたと言っている。
それを踏まえて、彼が抱く「バンドマンの人生」として読み解くと、バンドとして売れていく希望に溢れながらも、決して驕らないように地に足をつけて着実に進んでいきたいという草野の決意が表れているのではないだろうか。
そして、スピッツは30年以上、進化しながらも変わらないバンドスタイルで歌を紡いでいる。
“君を忘れない”
それは、バンドで初めて音を出した時の自分の気持ち。
草野マサムネが、「チェリー」の歌詞に込めた想いは、いまも決して揺らぐことはないのだ。