Suchmosが2018年にリリースした楽曲「808」は、ファンの間で根強い人気を誇る一曲です。その中毒性のあるグルーヴ、ソウルやファンクを感じさせるビートと共に、どこか哲学的で抽象的な歌詞がリスナーの心を掴みます。
しかし、この「808」は一見して意味が取りづらい歌詞構成をしており、様々な解釈が存在します。本記事では、歌詞の背景やメッセージを丁寧に読み解いていきます。
1. 歌詞冒頭から読み取る“偽物ばかりのジョーク”が示すもの
曲の冒頭に登場するのは、「偽物ばかりのジョーク」という強いフレーズ。このラインからすでに、現代社会への皮肉や不満のようなものがにじみ出ています。
この「偽物」とは、人間関係の表面的な付き合いや、メディア・社会の建前的な正しさを指していると考えられます。そして「ジョーク」と表現することで、その不条理さや馬鹿馬鹿しさを逆に笑ってみせている、そんなスタンスが伺えます。
Suchmosの持つ“都会的かつ皮肉的”な視点が、ここからすでに強く打ち出されています。
2. サビ「Everything is Everywhere.」の意味とメッセージ性
このフレーズは、英語で「すべてはどこにでもある」と訳されますが、その意味はとても抽象的です。解釈によっては、「真理はすべての場所に存在する」とも、「混沌としたこの世界はどこも似たようなものだ」とも捉えられます。
Suchmosらしい“断定しない余白のある表現”がここに現れており、リスナーに解釈を委ねる詩的な一文だと言えるでしょう。
また、「Everything is Everywhere」という響き自体が、ある種の哲学的真理や、スピリチュアルな視点を内包しているようにも感じられ、都市の喧騒の中で真実を見出そうとする姿勢が浮かび上がってきます。
3. タイトル「808」の多義的な意味 ― リズムマシン/エンジェルナンバー/象徴として
タイトルである「808」には、いくつかの象徴的な意味があります。
まず、音楽的な側面として最も有名なのが、ローランド社のリズムマシン「TR-808」。ヒップホップやR&B、ファンクなどで多用されるこの機材は、Suchmosの音楽性にも強く影響を与えていると考えられます。つまり「808」は、サウンド的な核でもあるわけです。
次に、スピリチュアルな視点で「808」は“エンジェルナンバー”とも解釈され、「豊かさ」や「内面の成長」を意味すると言われます。そうした内省的なメッセージをもこの楽曲に投影できるかもしれません。
また、「808」という数字の形状そのものが無限大(∞)の象徴に似ていることから、“循環”や“永遠”といった意味を感じ取る人もいます。
4. 「兄弟」「振り回されている俺らのライフ」──仲間・対社会・自己の視点
歌詞中で印象的に使われる「兄弟(ブラザー)」という言葉は、単なる友人というよりも、深い絆を持つ仲間の存在を感じさせます。対比的に「振り回されている俺らのライフ」というフレーズが出てくることで、社会に対する反発や、生きづらさのような感覚が見えてきます。
Suchmosは常に“自分たちの居場所”を探すようなテーマを音楽に込めてきました。この曲でも「自分たち=俺ら」が社会の波に呑まれながらも、それに抗い、仲間と共に立ち向かおうとする姿が描かれています。
5. 音楽性と歌詞表現のリンク ― ディスコ・ファンク調で歌われる警鐘と解放感
「808」はそのサウンドにも特徴があり、ディスコやファンクの要素を多く含んでいます。この軽快なリズムが、実は歌詞の“重たいテーマ”を包み込む役割を果たしています。
社会に対する風刺や自己の葛藤といったシリアスな内容を、グルーヴ感のあるビートで流すことで、聴き手は“踊りながらも考えさせられる”という状態になるのです。
この「深刻さを軽快に包み込む」という手法は、Suchmosらしい表現の一つ。メッセージ性と音楽性の融合が、「808」の最大の魅力とも言えるでしょう。
【まとめ・Key Takeaway】
Suchmosの「808」は、単なる“カッコいい”楽曲にとどまらず、現代社会の虚飾、人間関係の表面性、自己探求の旅といった複雑なテーマを内包した楽曲です。
その歌詞は明確な答えを与えるものではなく、聴き手に問いかけ、考えさせる余地を残しています。そして、それを支えるのが彼らの音楽性――洗練されたファンクやソウル、R&Bのリズム。
「Everything is Everywhere.」という言葉のように、この楽曲が伝える真理や感覚は、私たちの日常の至る所に存在しているのかもしれません。