くるり『TIME』歌詞考察|変わりゆく時間と、変わらない想いを描いた名曲

くるりの楽曲「TIME」は、淡々としながらもどこか温かく、懐かしさと切なさが入り混じった独特の世界観を持つ1曲です。タイトルの「TIME」が示すように、この楽曲では「時間の流れ」や「変化」「記憶」といった抽象的なテーマが、日常の情景や感情を通して繊細に描かれています。

この記事では、そんな「TIME」の歌詞を丁寧に読み解きながら、くるりがこの曲で伝えたかったことを探っていきます。


1. 歌詞の「時間/場所」が示すもの — 歌い出しから読み解く世界観

「雨が降る 石畳 靴が濡れる音がしてる」から始まるこの曲の冒頭は、非常に静かでありながら、聴く者を一気に物語の中に引き込みます。日常の一コマとも言えるこの情景には、「今この瞬間」が克明に描かれています。

このように、くるりは“時間”という抽象的なテーマを、「石畳」「雨音」など五感に訴える具体的な描写を通して表現しています。聴き手は、歌詞を追うことで「どこかの街角」や「今しかない瞬間」に立ち会っているような感覚を覚えるのです。


2. 「君と繋がっていたい」「変わる景色」 — 主人公と君の関係性の描写

歌詞の中で繰り返されるのが、「君と繋がっていたい」「変わる景色のなかで」というフレーズです。これらの言葉からは、主人公が「変わりゆく世界」の中でも変わらない“君”とのつながりを求めている様子が伝わってきます。

これは単なる恋愛感情というよりも、もっと深い「共鳴」や「寄り添い」に近い感情ではないでしょうか。流れていく時間の中でも、「変わらない関係性を信じたい」という希望が、静かに、しかし確かに滲んでいます。


3. “失うことばかり考えてしまう”というフレーズに見る喪失/希求の揺らぎ

中盤の歌詞には、「失うことばかり考えてしまう」という非常に印象的な一節が登場します。この一文は、時間が流れることへの不安、そして変化がもたらす“喪失”を強く意識していることを示しています。

同時に、それは裏返せば「今あるものを大切にしたい」という願いの現れでもあります。過去の記憶や未来への期待よりも、「今ここ」にある感情や風景への愛しさがにじむこのフレーズは、くるりらしい感情の揺れ動きを如実に表しています。


4. 歌詞に散りばめられた「雨」「石畳」「丘の見える方へ」といったモチーフの象徴性

この曲には、いくつか印象的な自然描写や地形のモチーフが登場します。「雨」「石畳」「丘」といった言葉は、すべて“移ろい”や“時間の経過”を暗示する象徴的なアイテムです。

「丘の見える方へ」という表現は、目に見える物理的な風景であると同時に、“希望”や“未来”といった心象風景をも重ねているように感じられます。視点を高く保つこと、先を見ようとすること、それはまさに「今を超えていく意志」を象徴しているのかもしれません。


5. 曲全体が示すメッセージ — くるりが描く「時間」と「日常」の連続性・変化

「TIME」というタイトルが示す通り、この楽曲の根底には「時間の流れ」への深い洞察があります。しかし、それは決して壮大なテーマとしてではなく、「濡れた靴の音」や「ふいに浮かぶ誰かの顔」といった、日々の些細な瞬間を通して表現されているのです。

くるりは、日常の繰り返しやちょっとした変化の中にこそ、かけがえのない“時間”の美しさがあると語っているのではないでしょうか。そしてそれは、聴き手の私たち自身の「日常」や「記憶」とも静かに重なり合っていくのです。


【Key Takeaway】

くるりの「TIME」は、流れる時間の中で変わっていくものと、変わらずにいたいもの、そのどちらにも目を向けた繊細で優しい楽曲です。詩的で具体的な描写のひとつひとつが、私たちの日常や感情と静かに共鳴し、改めて「今」という時間のかけがえなさを気づかせてくれます。