朝まで踊る「君」の横顔が、曲の中で二度描かれます。最初に「僕」が捕まえたいと思うのは、君の腕に飛んできた青い蝶。二度目には、その蝶が僕の胸に止まります。
夢から覚めても、この景色は心に残るだろうと僕は続けます。まだ君が隣にいるうちに、その横顔がいつか思い出になることを予感している。青い蝶の動きに、そんな時間の変わり目が描かれています。
「蝶々に触れて」は、2026年9月9日発売のフルアルバム『cats』の7曲目です。作詞・作曲は椎木知仁、編曲はMy Hair is Badと柿澤秀吉(秀吉)が担当しています。『cats』の公式収録情報 / 「蝶々に触れて」の歌詞とクレジット(歌ネット)
君の泣き顔がきれいに見えた理由
タクシーの運転手に注意されると、君は身を乗り出して言い返します。友達のけんかを止めたあとには、その君が泣き出します。声を荒らげるのも泣くのも、目の前のことにまっすぐ反応してしまうから。その率直さが、泣き顔を見つめる僕にはきれいに映ったのかもしれません。
僕は、自分がそんな君に憧れていたのだと振り返ります。一緒に朝まで踊るほど近くにいても、僕に見えているのは夜の街で過ごすときの君です。隣にいる人の表情は鮮明で、その外にある日常にはまだ手が届かない。その距離が、触れた途端に消えてしまいそうだという感覚につながります。
時計の針をマドラーに変える意味
二人が踊る街は、夏のまま季節が止まったように描かれます。目が合って距離が縮まると、今度は時計の針を折り、飲み物をかき混ぜる道具にするイメージが出てきます。そろそろ帰る時間かと考えさせる針が、もう一杯を楽しむために使われる。大げさな発想からこぼれる願いは、あと少し君と飲んでいたい、というささやかなものです。
君は、目の前の出来事にすぐ反応する人として描かれていました。時間を確かめることをやめてもう一杯を選ぶとき、僕もその君と同じように、今起きていることに夢中でいられます。
ベースの山本大樹は、この曲にスラップを取り入れたと語っています。弦を叩いたりはじいたりする歯切れのよい音は、朝まで踊っていたいという歌詞の気分にもよく合います。山本大樹が『cats』の演奏を語ったインタビュー(Real Sound)
青い蝶はなぜ「僕」の胸に止まったのか
最初のサビでは、僕が君の横顔に見とれていました。二度目には、踊っていた君が振り向いて、いたずらっぽく笑います。そのすぐあと、蝶のほうから僕の胸にやってきます。
君に近づきたいと思っていた僕に、ふいに笑顔が返ってきた。蝶が胸に止まるのは、その一瞬が、目の前の出来事から自分の中に残る景色に変わったことを表しているように見えます。曲の初めに捕まえたかった青い蝶を、ここでは腕を伸ばさずとも受け取っているのです。
題名の「触れて」が、最後に「君」と重なる
腕にいる蝶を見て手を伸ばしたくなった僕は、曲の最後では、そばにいる君に触れていたいと願います。近づいた途端に遠くへ行ってしまいそうな危うさは、蝶にも君にも通じています。今夜だけという短い時間に、その人ともう少し近づきたい気持ちがこもります。
最後の願いは過去形です。今夜だけはと願っていた声が、すでに過ぎた夜を思い返す声にも聞こえます。まだ二人は踊っていると思って聴いていたこちらまで、最後の語尾で、ふいに夜の外へ出たような気持ちになります。
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