『一途』の背景：『劇場版 呪術廻戦 0』との関係性
King Gnu(キングヌー)の「一途」は、2021年12月公開の『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌として書き下ろされた楽曲です。
この映画は、人気漫画『呪術廻戦』の前日譚「0巻」を原作としており、主人公・乙骨憂太が幼馴染の祈本里香の呪いと向き合う物語が描かれています。
「一途」の歌詞には、この物語のテーマや登場人物の心情が巧みに反映されており、映画の世界観と深くリンクしています。
楽曲のタイトルである「一途」は、「一つのことに専念する」「ひたむき」という意味を持ちますが、それが指すのは主人公・乙骨憂太の里香への強い想いと、彼女を巡る呪いの物語そのものです。
映画の主題歌として、「純愛」と「呪い」の対比を描きながら、疾走感あるロック調のメロディが物語の緊張感を高めています。
制作にあたり、King Gnuの常田大希は「呪術廻戦の世界観にピッタリの楽曲に仕上げた」と語り、映画と楽曲の密接なつながりを明言しています。
歌詞に込められた「純愛」と「呪い」のテーマ
「一途」の歌詞は、一見すると純愛のラブソングのようですが、作品を紐解くとそこには「呪い」という歪んだ愛のテーマが潜んでいます。
例えば、歌詞中の「最期にもう一度 強く抱きしめて」というフレーズは、乙骨が里香に抱く深い愛情を示しつつ、永遠に続くはずのない関係性を暗示しています。
里香の呪いは、彼女が乙骨への愛を手放せなかったことから生まれたものであり、愛が呪いに変わる恐怖を鮮烈に描き出しています。
さらに「理由なんて必要は無いの」「一途に愛します」という表現からは、愛が理性を超越した感情であることが強調されています。
愛するがゆえに相手を傷つけ、呪いとなる歪んだ愛情は、『呪術廻戦』の名台詞「愛ほど歪んだ呪いはない」に象徴されるテーマと一致します。
歌詞は純粋さと恐ろしさを内包した愛の形を示し、作品全体に通じる深いメッセージを持っています。
「正義」と「悪」の揺らぎ：夏油傑との対比
「一途」の歌詞には、「正義」と「悪」の対比が繰り返し描かれています。
例えば「天秤なんて必要ないの」という一節は、善悪を秤にかける無意味さを示唆しています。
これは、物語の中で乙骨が背負う葛藤と、夏油傑という敵キャラクターの信念に通じます。
夏油は、呪術師だけの世界を目指し、そのために非術師を虐殺するという過激な行動を取りますが、彼には彼なりの正義があります。
一方、乙骨は里香の呪いを解こうとしつつも、夏油の理想に一定の理解を示す複雑な立場にいます。
歌詞にある「汚れ役だろうと 厭わないよ」というフレーズは、正義と悪が単純に分けられない複雑な世界観を浮かび上がらせています。
「矛盾だらけ お互い様ね」という言葉は、乙骨と夏油の似た者同士の一面を象徴しています。
両者は異なる道を歩みながらも、それぞれの信念に従って生きています。
善悪の二元論では語れない物語の奥深さが、楽曲を通じて描き出されています。
『一途』に見るKing Gnuの過去楽曲との共通点と進化
「一途」は、King Gnuの過去楽曲といくつかの共通点を持ちながらも、新たな進化を遂げた楽曲といえます。
特に、「喧騒に薪をくべんだ」というフレーズは、インディーズ時代の楽曲「Vinyl」の「喧騒に上がる煙に薪をくべろ」という歌詞を想起させます。
このフレーズを再び用いることで、「一途」はKing Gnuの音楽的な文脈に位置づけられています。
しかし、「一途」は「Vinyl」の軽やかなミクスチャーサウンドとは異なり、疾走感あふれるロックチューンとして、物語の緊迫感を最大限に引き出しています。
また、テーマ性も対照的で、「Vinyl」が遊び心のある大人の恋愛を描いたのに対し、「一途」は純粋で歪んだ愛を中心に据えています。
このような対比が、楽曲に深みを与え、King Gnuの音楽性をさらに進化させています。
映画とリンクするラストの歌詞の意味を読み解く
「一途」のラストに登場する「最期にもう一度 力を貸して」というフレーズは、映画のクライマックスで乙骨が里香に助けを求めるシーンと重なります。
この部分では、乙骨が全てを捧げる覚悟を語る一方で、里香の呪いを解こうとする決意も感じられます。
「僕の未来も心も体も あなたにあげるよ 全部全部」という表現には、乙骨の犠牲的な愛と、里香への純粋な想いが込められています。
この歌詞は、映画の結末で乙骨が自分の殻を破り、里香を解放する成長を象徴しています。
また、「永遠なんて必要は無いの」という言葉は、終わりを受け入れる美学を示しており、短い時間でも相手と過ごせる幸せの価値を歌い上げています。
映画の物語を知ることで、この歌詞が持つ感動と重みが一層深まります。
