「怪物さん」—平井堅×あいみょん、奇跡のコラボ誕生の背景
「怪物さん」は、2021年3月24日にリリースされた平井堅のシングルで、シンガーソングライター・あいみょんとのコラボレーションが大きな話題となりました。
実はこの楽曲は、平井堅があいみょんを強くイメージして書き下ろしたもの。平井はインタビューで「彼女の持つ独特の毒気と可愛らしさの両面を音楽に落とし込みたかった」と語っています。
制作にあたり、あいみょんの歌詞の世界観や声質、表現方法を研究した上で、平井が“女性目線”の物語を構築。単なるデュエットではなく、二人の声が物語を二重に重ねるような仕掛けが施されています。
コラボが成立した背景には、互いにリスペクトを抱く関係性があり、完成した楽曲はその化学反応の結晶とも言えます。
主人公の複雑な“女性目線の片想い”――歌詞に込められた心情
歌詞を紐解くと、「怪物さん」の主人公は、自分でも理解しがたい感情に囚われています。
相手は自分にとって決して都合の良い存在ではなく、「二番目」や「都合のいい女」のようなポジションに甘んじている。それにもかかわらず、離れられない。
この曲では、あいみょんが歌うパートがよりストレートな感情を、平井堅が歌うパートが少し俯瞰した視点を担っているようにも感じられます。
聴き手は、まるで主人公の胸中に潜り込み、理性と感情のせめぎ合いをそのまま味わうことになるのです。
「いなくなれ…」という呪詛的フレーズに込められた自己嫌悪
楽曲の中で特に印象的なのが、「いなくなれ」というフレーズ。
普通なら相手に向けられた拒絶の言葉のように聞こえますが、この曲では「あなたを好きな私がいなくなれ」という意味で使われています。
つまり、これは相手を恨むのではなく、自分自身に向けた強い否定。好きでい続ける自分が嫌で仕方ない——そんな自己嫌悪が込められているのです。
このニュアンスは、他の失恋ソングとは一線を画します。感情を切り離せないまま苦しむ姿は、聴き手の心をえぐるようなリアルさを持ち、聴後に重い余韻を残します。
編曲やサウンドから感じる「闇と希望のポップ・エネルギー」
「怪物さん」のサウンド面は、編曲家・トオミヨウによるR&Bやソウルの要素が強く、グルーヴ感のあるビートにレトロなエレクトロ音が織り交ぜられています。
この軽快さが、歌詞の重いテーマと対照的であり、楽曲全体に独特の中毒性を生んでいます。
暗い歌詞でありながらも、ポップなメロディラインが希望の光のように差し込み、「聴きたくなる切なさ」を演出。
サビのハーモニー部分は、二人の声質が絶妙に絡み合い、まるで感情の渦に巻き込まれるような感覚を与えます。
音楽的にも物語的にも、「闇」と「光」が絶妙に同居した楽曲です。
タイトル「怪物さん」に込められた意味と余白としての余韻
タイトル「怪物さん」は、一見キャッチーでポップな響きですが、そこには強い皮肉や感情が込められています。
「怪物」という言葉は、本来は恐怖や異質さを象徴しますが、そこに「さん」をつけることで、距離感の近さや皮肉な愛着が加わる。
これは、主人公が相手に抱く複雑な感情——憎らしくも愛おしい——を象徴していると考えられます。
また、平井堅は意図的に具体的な描写を抑え、リスナーの解釈に委ねる“余白”を残しています。
そのため、聴く人によって「怪物さん」の正体や関係性は異なって見え、自分自身の経験と重ね合わせることでより深く刺さる曲になっているのです。
まとめ
「怪物さん」は、平井堅とあいみょんという異なる個性がぶつかり合い、互いの魅力を引き出した稀有な楽曲です。
歌詞には自己嫌悪や片想いの苦しみがリアルに描かれ、サウンドはその痛みをポップに包み込む。
そして、タイトルや言葉選びには、解釈の幅を広げる余白があり、聴くたびに新たな意味を発見できる深さがあります。
この楽曲は、ただの失恋ソングではなく、「人間の感情の奥深さ」を鮮やかに切り取った作品なのです。