【ファイト!/中島みゆき】歌詞の意味を考察、解釈する。

広い世代に愛される名曲

様々なCMテーマ曲に起用され、幅広い世代に長く愛されてきた名曲「ファイト!」。

題名が表すように応援歌ではあるものの、その深く悲しい、そして優しさのある歌詞は考察するに値する。

今回はそんな名作の歌詞の解釈を記していく。

複数の登場人物が語られる悲しいストーリー

あたし中卒やからね 仕事をもらわれへんのやと書いた

女の子の手紙の文字はとがりながら震えている

作者の中島みゆきは今作のリリース当時、ラジオのパーソナリティを行っており、その番組のコーナーには、リスナーから送られてきた手紙を読むものがあった。
そこからの歌い出しの歌詞になる。

実際に少女から番組に寄せられた「中卒だから仕事を任せられないと言われて悔しい思いをした」というエピソードから引用されていると思われ、その時の中島みゆきの対応は、適切に対処法をアドバイスした後、「ファイト!」と応援したことが、このフレーズが生まれた経緯である。

ガキのくせにと頬を打たれ少年たちの眼が年をとる

悔しさを握りしめすぎたこぶしの中爪が突き刺さる

前節とは違い今度は「少年」が登場する。
「ガキのくせに」と理不尽に暴力を振るわれ、悔しさが滲む。
年功序列、年上信仰の傾向が強い日本。
しかも、現代のようにパワーハラスメントといったコンプライアンスの概念自体が無い時代である。
その不合理さは想像に難くない。
年齢が若いというだけで否定するだけでも不条理ではあるが、ここでは暴力すら振るわれていることから、その絶望感、無念さは胸に突き刺さる。

私本当は目撃したんです 昨日電車の駅階段で

転がり落ちた子供と 突き飛ばした女のうす笑い

私驚いてしまって 助けもせず叫びもしなかった

ただ怖くて逃げました 私の敵は私です。

次の登場人物は犯罪行為を目撃した「私」と歌われる人物だ。
子供を突き飛ばし、その怪我をしたであろう子を見て「うす笑い」を浮かべる常軌を逸した女性。
しかし、「私」はその行為を目撃したにも関わらず、助けも呼ばず、叫びもしなかったのである。
その場から、ただ怖くて逃げてしまった。

逃げた理由は語られてはいないが、面倒事に巻き込まれたくなかったのか。
また、新しいターゲットとして自分が狙われる可能性を考えたのか。
しかし、罪悪感を感じ、苦しみを抱いてしまっているのだろう。
振り返って後悔が襲ってきている状態から「私の敵は私です」との表現になっている。

サビと魚に例えられたエールと暗喩

ファイト!闘う君の唄を

闘わない奴等が笑うだろう

ファイト!冷たい水の中を

ふるえながらのぼってゆけ

暗い水の流れに打たれながら魚たちのぼってゆく

光っているのは傷ついてはがれかけた鱗が揺れるから

いっそ水の流れに身を任せ流れ落ちてしまえば楽なのにね

やせこけてやせこけて魚たちのぼってゆく

応援に加え、辛い現実を乗り越えることを、ここでは魚が懸命に水流を昇っていく様子に例えている。
中島みゆきの出身地から、この魚は鮭ではないかと言われていて川登りに例えているのであろう。

「いっそ水の流れに身を任せ流れ落ちてしまえば楽なのにね」から始まる最後のフレーズは、逃げることすらできない現実に向かい合い、必死で生きている者たちの悲哀、そしてそこへのエールの意味が込められているといえる。

そして再び別のストーリーへ。そして終幕へ

勝つか負けるかそれはわからないそれでもとにかく闘いの

出場通知を抱きしめてあいつは海になりました

次に出てくる人物は「何らかの競技などに出場する人」。
つまり、戦いを控えている人である。
競争とは残酷で必ず勝ち負けがある。
そして、程度の差はあれ結果で人は差別し区別する。
しかし、真に尊いのはそのことへ挑戦する行為であり、出場通知を抱きしめて前へ進むことであるということだろう。
最後の節が「海になりました」という表現もポジティブとネガティブ両方に取れる表現であり、聴く者に委ねる歌詞となっている。

ファイト!闘う君の唄を

闘わない奴等が笑うだろう

ファイト!冷たい水の中を

ふるえながらのぼってゆけ

薄情もんが田舎の町にあと足で砂ばかけるって言われてさ

出てくならおまえの身内も住めんようにしちゃるって言われてさ

うっかり燃やしたことにして やっぱり燃やせんかったこの切符

あんたに送るけん持っとってよ 滲んだ文字東京ゆき

ストレートな言葉でサビを歌い、現実を冷たい水に例えている。
そして次の人物は田舎から東京へ上京しようとしている人である。
田舎文化が根強い当時、今ほど交通事情が発達しておらず、片道切符のように行ったきり地元にはなかなか戻らないという意識が強かった。
恩人や地元との繋がりを断とうとしているように誤解されてしまい、理不尽な差別を受け、夢を断念してしまう。
方言での表現がよりリアリティを生み、迫力を持った言葉として説得力を増している節である。

あたし男だったらよかったわ

力づくで男の思うままにならずにすんだかもしれないだけ

あたし男に生まれればよかったわ

最後の登場人物は男性に力ずくで何か嫌がらせをされた女性である。
非力である自分を呪い、辛すぎる現実を受け止めなければならない様子が見て取れ、中島みゆきの歌唱力と相まって聴いていて辛くなるほどである。

ああ小魚たちの群れきらきらと海の中の国境を越えてゆく

諦めという名の鎖を身をよじってほどいていく

「諦めという名の鎖を身をよじってほどいていく」というフレーズは、ストレートではないが、「あきらめないで」という作者の応援の意図が感じられ、「ほどいていける」ではなく「ほどいていく」という断定口調であることから、きっと大丈夫だという一種の救いの様な歌詞になっている。

稀代の名曲

今回は稀代の名曲の歌詞解説を行った。
何年経っても色あせない応援歌でありながらも現実の悲しさを感じさせるこの曲を是非、歌詞の意味を踏まえながら楽しんで貰いたい。

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