【歌詞考察】Eve『アンビバレント』に込められた葛藤と希望──“進めない自分”が前へ踏み出す理由とは?

Eveの楽曲『アンビバレント』は、2023年にリリースされたアルバム「廻人」に収録されている一曲であり、繊細な心の動きや葛藤が描かれた印象的な楽曲です。タイトルにある“アンビバレント”という言葉が示すように、感情の中で揺れ動く自分自身との対話や、何かを守ろうとする強い意志が歌詞全体を通して感じられます。

この記事では、歌詞の意味やメッセージを解釈し、Eveの世界観に触れながら、『アンビバレント』という曲が伝えたい本質に迫っていきます。


1. 歌詞タイトル“アンビバレント”が示す意味とテーマ

「アンビバレント(ambivalent)」とは、“相反する感情が同時に存在する”という心理的状態を指します。このタイトルから、Eveがこの楽曲で描こうとしているのは、一貫した意思ではなく「矛盾」や「迷い」、そして「揺らぎ」であることがわかります。

この曲では、何かを守りたいという気持ちと、前へ進むためにそれを手放さなければならないというジレンマが交錯しています。主人公は、自分の中の弱さや恐れに立ち向かおうとしているものの、その一歩がなかなか踏み出せない——その「心の葛藤」が全体のテーマとされています。


2. 歌詞冒頭から読み取れる「踏み出せない自分」と葛藤の構図

冒頭の歌詞では、「動き出せないままで」といった言葉から、主人公が現状にとどまっている様子が描かれます。これは、挑戦したい気持ちはあるものの、何かが怖くて進めない、そんな内向的な感情が表れています。

「正しさなんてどこにもない」と続く一節では、何が正解か分からず、ただ悩み続ける主人公の姿が浮かびます。これは現代の若者、特に何かを始めるときに「間違えること」や「評価されること」を恐れて動けなくなる心理を強く反映しているとも言えるでしょう。


3. 歌詞に描かれる「相棒」「守りたいもの」「変化する自分」の関係性

歌詞の中盤では、「君」と呼ばれる存在が登場します。この「君」は、現実の誰かを指している可能性もあれば、自分自身の中にある“もう一人の自分”や“理想の自分”を象徴しているとも読み取れます。

「君を守りたい」「君の隣で」というフレーズからは、ただの恋愛感情ではなく、「信念」や「生き方」を守ろうとする意志が感じられます。ここに、現状維持から脱却しようとする「変化への欲求」が強くにじんでいます。

つまり、守りたいものがあるからこそ、自分は変わらなければならない。その関係性こそが、この曲の感情的な軸と言えるでしょう。


4. MV・世界観とのリンクを通して考える“色を取り戻す”プロセス

公式MVでは、淡い色味の世界から徐々に色が広がっていく描写が多く使われており、これが「アンビバレントな感情」を乗り越えて“前に進んでいく姿”を象徴しています。

MV中に現れるキャラクターたちも、何かを抱えて生きているように見え、互いに支え合いながら色を取り戻していく姿が印象的です。この視覚的な演出は、「感情の復活」や「自己受容」とも捉えることができ、歌詞と密接にリンクしています。

言い換えれば、「色を失った状態=感情を押し殺した自分」から、「色を取り戻す=自分を受け入れて進む」という流れが、MVによってより明確になっています。


5. この曲が伝えたいメッセージ — 「先へ進むための一歩」とは何か

『アンビバレント』は、決して答えを与えるような楽曲ではありません。しかし、迷いや葛藤の中にある人々へ、「それでも前に進もう」と語りかける力を持っています。

Eveの歌詞には、「悩むこと」や「矛盾する感情」を否定せず、それを抱えたままでもいいというメッセージが含まれているように感じられます。自分の気持ちに正直になること、それこそが“先へ進むための一歩”なのではないでしょうか。

この曲を聴いた人それぞれが、自分の中の「アンビバレントな感情」に向き合い、少しでも前向きな気持ちになれたとしたら、それがこの曲の本当の意味なのかもしれません。


【まとめ:Key Takeaway】

Eveの『アンビバレント』は、心の葛藤や矛盾を真正面から描きながらも、それを受け入れて進む勇気を与えてくれる楽曲です。歌詞・MV・世界観すべてがリンクしており、多くの人が「自分の物語」と重ねて感じることができる作品となっています。迷いながらでも、守りたいものがあるなら、きっとその先へ進める——そんなメッセージが静かに、しかし力強く響いてきます。