キタニタツヤ「人間みたいね」歌詞の意味を徹底考察|“人間みたいなけだもの”が映す共依存の恋

キタニタツヤ「人間みたいね」は、毒っ気のある言葉選びと都会的なファンクサウンドがぶつかり合う、かなり中毒性の高いラブソングです。2020年リリースのアルバム『DEMAGOG』収録曲で、MVも含めて“怖いのに美しい”世界観が話題になりました。

この記事では、歌詞とMVの内容を追いながら、「人間みたいね」がどんな恋愛を描いているのか、そして“人間みたいなけだもの”とは何者なのかを丁寧に掘っていきます。


「人間みたいね」はどんな曲?基本情報と全体の雰囲気

「人間みたいね」は、メジャー1stアルバム『DEMAGOG』の4曲目に収録された楽曲です。アルバム全体が“煽動(デマゴーグ)”をテーマにしたコンセプト作品で、その中でもこの曲は、内側にこもったドロドロした恋愛感情を描いたパートに位置づけられています。

サウンドはおしゃれなファンク調。うねるベースラインとカッティングギター、女声コーラスが重なって、とてもアーバンでスタイリッシュな雰囲気です。ところがその上に乗る歌詞は、恋人へ向けられた毒舌と怨念に満ちている。この“サウンドは爽やか/歌詞はダーク”というギャップが、キタニ作品らしい違和感として評価されています。

MVでは、ソファにぐったり横たわる男性と、その男性に異様なほど執着する女性が登場します。部屋に充満する生花と甘ったるい色彩の中で、二人だけがどこか死んだように静止している。まるでホラー映画のワンシーンのような映像は、「これは本当に“ラブソング”なのか?」という不穏さを強く印象づけます。


タイトル「人間みたいね」がひっくり返す“人間らしさ”のイメージ

タイトルになっているフレーズ「人間みたいね」は、一見すると“人間らしくなったね”“優しくなったね”といった褒め言葉のように聞こえます。しかし、作中の主人公はこの言葉に「けだもののくせにさ」と続けてしまう。ここがまず強烈な皮肉です。

ふつうなら「けだものみたい」と罵るところを、「人間みたい」とわざわざ裏返して呼ぶことで、

  • 本質は“けだもの”である
  • そのくせ、人間らしい顔や言葉をうまくまとっている
    という二重の嫌味が込められます。

UtaTenの考察記事でも、このフレーズは「けだものであることを前提に『人間みたいね』と言い放つ痛烈さ」として取り上げられていました。
つまり主人公は、“人間らしさ”=共感や優しさを装いながら、相手を都合よく利用していく残酷さこそが、この恋人の正体だと見抜いているのです。


1番Aメロ:優しさが枯れた瞬間に始まる「暗く深い地獄」

1番Aメロでは、かつて優しかった恋人の態度が変わり、「同じ生き物じゃなくなった」ように感じている主人公の心情が描かれます。

  • 以前は確かに“優しさ”をくれた
  • でも今は、別の生き物のように冷たい
  • 「誰かの代わり」でもいいから繋がっていたかったのに、それすら拒絶された

このあたりから、二人の関係がすでに破綻していることがわかります。それでも主人公はまだ相手にしがみついている。その執着と惨めさを自覚しているからこそ、「あなたに見合うのはもっと奥の、暗く深い地獄だよ」という呪いのようなセリフが出てくるのです。

ここで言う“地獄”は、単なる罵倒ではなく

  • 自分をここまで追い込んだあなたが背負うべき罰
  • そしてその地獄に、自分も一緒に落ちていってしまう予感
    の両方を含んだ言葉に見えます。壊れてしまった関係は元に戻らないと理解しつつも、そこから離れられない――この矛盾が曲全体のトーンを決めている部分です。

サビ「あなたまるで人間みたいね」に込めた毒と愛情

サビでは、曲の核となるフレーズ「あなたまるで人間みたいね」「けだもののくせにさ」が繰り返されます。英語字幕では“a brute, a sad existence”と訳されており、恋人を「野蛮で、悲しい存在」として描いていることがわかります。

主人公は、相手を徹底的に見下しているように見えますが、その裏側には

  • 本当は誰よりも愛してしまった相手だからこその憎悪
  • 「私だけがあなたの本性を知っている」という歪んだ自負心
    が潜んでいます。

「脳の奥が冷えてくのがわかる」という表現も印象的です。これは、感情レベルではまだ相手に縋り続けているのに、理性のどこかで「この人から離れないとやばい」と冷静に判断している状態、とも読めます。UtaTenの考察でも、このフレーズは“本能レベルで相手を拒絶し始めている描写”として解釈されていました。

それでもサビのラストでは、「お揃いの悪夢の中で会える日を待ってる」と歌う。
“悪夢”だと分かっているのに、そこに再会の希望を見出してしまう。ここに、依存的な恋愛のどうしようもない中毒性が凝縮されています。


2番歌詞と「夾竹桃」:鮮やかな記憶が毒に変わるとき

2番で印象的なのが、「夾竹桃の花のように鮮やかな記憶の毒がまわり始めた」という一節です。

夾竹桃(きょうちくとう)は猛毒を持つ植物で、花言葉には「危険な愛」「油断大敵」といった意味があります。
ここでは

  • 一見美しく鮮やかな恋の記憶
  • しかし実は触れ続けると命を脅かす毒のようなもの
    として、過去の“優しかった頃のあなた”がメタファー化されています。

主人公は、その鮮やかな記憶があるからこそ、現在の冷たい態度とのギャップに苦しめられている。
「優しさが枯れてしまった日」が、まるでトラウマのフラッシュバックのように、何度も蘇ってしまうのです。

さらに、彼女は「あの日から誰一人愛せた覚えがない」と告白します。
これは

  • その恋をきっかけに“暗く深い孤独”を知ってしまった
  • 以降、他人に心を開けなくなった
    という、長期的な傷跡を示しています。

恋人を「けだもの」と罵倒しながらも、「かじかんだ身体を慰めるものは、結局あなただけ」とも示唆されている。どう考えてもろくでもない相手なのに、その人にしか埋められない穴がある――まさに“毒薬をわかって飲んでしまう恋”の姿です。


終盤の「お揃いの悪夢」とは?抜け出せない共依存の構図

曲の終盤で再び出てくる「お揃いの悪夢」という言葉は、この曲のテーマを象徴するキーワードです。

“お揃い”という可愛らしい響きと、“悪夢”というおどろおどろしい単語の組み合わせは、

  • 二人の共有してしまった取り返しのつかない過ち
  • 忘れたいのに、ずっと二人の中に残り続けるトラウマ
    の両方を指しているように聞こえます。

一部のリスナーは、この「悪夢」を

  • 浮気や裏切りの記憶
  • あるいは、別れそのものの記憶
    として解釈しています。楽しかった瞬間も確かにあったはずなのに、今となってはそのすべてが“悪夢”としてしか思い出せない――だからこそ「お揃いの悪夢でずっと一緒」という皮肉な結末になるわけです。

さらに、「犬の骨のようにあなたの玩具で終わってしまった」というフレーズも、非常に残酷です。
ここでは主人公自身が、“ただのオモチャ”として扱われてしまった自覚を持っています。

  • 自分でもうすうす気づいていた関係の歪さ
  • それでも一瞬満たされてしまう心
  • その後に襲ってくる、どうしようもない自己嫌悪

このループそのものが、「お揃いの悪夢」の正体なのかもしれません。


MVの物語から読み解く、死と生のあいだのラブストーリー

MVでは、ソファに横たわる男性がほとんど動かず、女性だけが必死に語りかけたり、体を揺さぶったりする描写が続きます。ラストでは、彼女が男性を何度も揺するのに、彼は力なくソファに崩れ落ちてしまうシーンもあり、「男性はすでに亡くなっているのでは?」という解釈も多く見られます。

また、YouTubeのコメントなどでは、作中に出てくる「死体防腐処理の本を逆から読んでいる」という指摘もあり、

  • 既に死んでしまった恋人を、生きていた頃の状態に戻したい
  • でも現実には決して叶わない願い
    というイメージと結びつけて解釈するファンもいます。

ただし、これはあくまで一つの読み方に過ぎません。
“死んでいる”のは、文字通りの肉体ではなく

  • もう戻らない過去
  • もはや通じ合えなくなった心
    のメタファーだと見ることもできます。

どちらの解釈に立っても共通しているのは、

「もう終わっているのに、終わったことを受け入れられない人」
の物語だということ。
「人間みたいね」というタイトルは、そうした“死んだ関係”にしがみつく人間の醜さや哀しさをも照らし出しているように感じられます。


キタニタツヤが描く「けだもの」としての人間像と、私たちのリアル

音楽メディアのインタビューでも、キタニタツヤは『DEMAGOG』について「現代社会の歪みや人間の愚かさ・残酷さを描いた作品」と語っています。
「人間みたいね」に出てくる“けだもの”も、ただの最低な恋人ではなく、そんな“弱くて愚かな人間”の象徴と言えるでしょう。

  • 自分の欲望に忠実で、相手を傷つけても平気な「けだもの」
  • それと分かっていながら、そこにしか救いを見いだせない主人公
  • そして、お互いがお互いを呪いながらも離れられない「お揃いの悪夢」

この構図は決して特別なものではなく、現実の恋愛でもちらほら見かけてしまうところが、曲の怖さでありリアルさです。

UtaTenの記事は最後に「人間みたいな『けだもの』に振り回されず、自分もけだものにならないように」と締めくくっていましたが、まさにこの曲は、そんな“危険な関係から距離を取るための教訓”としても聴ける1曲です。

「人間みたいね」を聴いてゾクッとした人は、自分の恋愛や過去の関係を思い出しているのかもしれません。“あの人”を思い浮かべながら、この歌詞をもう一度読み直してみると、自分自身の「けだもの」な部分にも、少しだけ気づけるはずです。