Official髭男dismの「TATTOO」は、「消えない絆」を歌った曲。
そう説明すれば間違いではありません。
しかし、歌詞を細かく読むと、この曲が描いている関係はもっと不器用です。
いつも優しいわけではない。素直に助けを求められるわけでもない。時にはそっけなく、言い争うことさえある。
それでも、つながることだけはやめない。
筆者は「TATTOO」というタイトルが表しているのは、単なる「消えない思い」ではなく、他人に証明する必要さえないほど二人の内側に刻まれた関係性なのではないかと考えます。
「TATTOO」は『ペンディングトレイン』主題歌
「TATTOO」は2023年4月21日に配信リリースされたOfficial髭男dismの楽曲です。
TBS系金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』のために書き下ろされました。Official髭男dism「TATTOO」特設サイト
作詞・作曲は藤原聡、編曲はOfficial髭男dism。歌ネット
藤原聡は発表時、この曲には優しさだけでなく辛辣さ、格好良さだけでなく格好悪さもあるという趣旨のコメントをしています。
さらに重要なのは、「前へ進ませる曲」だけを目指していないことです。
簡単には前へ進めない日に、聴き手と一緒に苦笑いできるような曲でもあってほしい、と藤原は説明しています。TBS公式
この発言は「TATTOO」を理解する大きな手掛かりになります。
この曲は、何でも乗り越えられる強い人の歌ではないのです。
冒頭の「大丈夫」は、強いからではない
「TATTOO」は、一般的な応援歌とは逆の方向から始まります。
主人公は、自分が痛みに強いから大丈夫だとは言いません。
むしろ弱いことを前提にしている。
これはかなり重要です。
人間関係では、強い者が弱い者を一方的に救うとは限りません。
自分も傷つくし、相手も傷つく。自分にも助けが必要な日がある。
だからこの曲では、一方向の「助けてあげる」ではなく、「助ける」と「助けてもらう」が同時に存在しています。
完璧ではない二人だからこそ、対等に支え合える。
「TATTOO」の絆は、強さではなく「お互いに弱くていい」という前提から始まっているように思えます。
“My Buddy, Darling”――「君」は恋人なのか、友人なのか
歌詞では相手を “My Buddy, Darling” と呼びます。
ここも面白いところです。
Buddyなら仲間や親しい友人を連想できます。一方、Darlingには恋愛的な親密さも感じられます。
つまり、「君」が恋人なのか友人なのかを一つに決める必要がありません。
むしろ藤原聡は、関係に名前を付けることよりも「この人とは助け合いたい」と思える距離感そのものを描いているのではないでしょうか。
『ペンディングトレイン』でも、極限状況に置かれた人々の間には、恋愛だけでは説明できない仲間意識や信頼が生まれていきます。
その意味でも、相手を一つの関係性に限定しない言葉選びはドラマとよく響き合っています。
なぜタイトルが「TATTOO」なのか?
では、なぜ「絆」や「Buddy」ではなく「TATTOO」なのでしょうか。
ポイントは、「消えにくい」というタトゥーの性質だけではありません。
歌詞では、二人の関係を他人に見せて理解してもらう必要はなく、自分たちだけが分かっていればいいという感覚が描かれています。
ここが非常に重要です。
一般的なタトゥーは外から見えることがあります。しかし、この曲の「TATTOO」は誰かに見せるための印ではない。
二人にしか分からない時間。
二人にしか通じない冗談。
ぶつかった記憶。
恥ずかしくて普段は口にしない本音。
そうしたものが蓄積され、いつの間にか消せない印になっている。
つまり「TATTOO」は、「永遠を誓った証」というより、長い関係の中で勝手に刻まれてしまった二人だけの印なのではないでしょうか。
「消えない→消さない→消させない」で意味が変わる
さらに注目したいのが、サビに登場する
「消えない/消さない/消させやしない」
という三段階です。
似た言葉ですが、意味は少しずつ違います。
最初は「自然には消えない」という状態。
次は「自分から消さない」という意思。
最後は「何かに消されることも許さない」という抵抗です。
つまり二人の関係は、ただ永遠だから残っているわけではありません。
残そうとする意思があるから残る。
ここまで読むと、「TATTOO」は運命的な絆の象徴というより、「何があっても、この関係をなかったことにはしない」という選択の象徴にも見えてきます。
そっけないのに深い――この矛盾が「TATTOO」の魅力
この曲には、感動的な言葉を大量に交わす関係は描かれていません。
むしろ、多少そっけなくてもいい。
泣いたり、立派な言葉を並べたりしなくてもいい。
そんな距離感が何度も強調されています。
それなのに、本当は相手を非常に大切に思っている。
この「表面の軽さ」と「内側の重さ」の落差こそ、「TATTOO」という曲の魅力ではないでしょうか。
仲が良いほど、改まって「大切な存在だ」と言うのは照れくさいものです。
だから冗談を言う。
時には悪態もつく。
一緒に酒を飲んで笑う。
しかし本当に危険なときには手を離さない。
愛情を大げさに語らないから愛情が薄いのではない。
語らなくても分かるところまで積み重ねた関係だから、そっけなくいられるのです。
『ペンディングトレイン』と歌詞が重なる理由
『ペンディングトレイン』は、電車の乗客たちが突如として荒廃した未来へ飛ばされる物語です。
これまでの日常や社会から切り離された状況で、人々は生き残るために協力しなければなりません。
その設定を踏まえると、「TATTOO」に世界そのものが次の段階へ変わってしまうイメージが登場することにも意味を感じます。
昨日までの当たり前がなくなる。
それでも誰かを探す。
自分も怖いのに誰かを助ける。
同時に自分も助けてもらう。
こうした構造はドラマと楽曲に共通しています。
ただし藤原聡自身は、発表時にドラマとの具体的な対応関係を語るとネタバレになるとして説明を控えていました。
そのため「この歌詞=ドラマのこの人物」と一対一で断定するより、人間関係についての歌がドラマの物語と重なる、と考える方が自然でしょう。
MVを見ると「ヒゲダン4人の歌」にも見える。ただし断定はしない
「TATTOO」のMVはグアムで撮影され、メンバー4人が旅行するように過ごす姿と演奏シーンで構成されています。監督は新保拓人です。ORICON NEWS
このMVを見ると、「君」をヒゲダンのメンバーに重ねたくなるのもよく分かります。
長く一緒に音楽を作ってきた4人が、肩肘を張らずに過ごしている映像は、「他人に見せびらかさなくても自分たちには分かっている」という歌詞の感覚ともよく似ています。
ただし、ここは現行記事から修正したいポイントです。
「君=Official髭男dismのメンバー」と藤原聡が明言した一次資料は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。
したがって、
「MVによってメンバー同士の友情を重ねて読むこともできる」
という一つの考察にとどめるのが適切でしょう。
恋人を思い浮かべてもいい。
友人でも家族でもいい。
長い時間を共有してきた仲間でもいい。
聴き手それぞれに「この人との関係は簡単には消えない」と思える相手がいるなら、その人がこの歌の「君」になれるのだと思います。
「TATTOO」が歌うのは、“永遠”ではなく「つながり続ける意志」
Official髭男dism「TATTOO」は、美しいだけの友情や恋愛を描いた曲ではありません。
傷つく。
言い争う。
ネガティブになる。
助けを求めるのも下手。
それでも、一緒にいることをやめない。
だから二人の間には、他人に説明しなくても消えない「TATTOO」が残っていく。
そして何より重要なのは、それが最初から消えない運命だったのではなく、二人が「消さない」と選び続けていることです。
藤原聡が語ったように、この曲には優しさだけでなく辛辣さも、格好良さだけでなく格好悪さもあります。
それは現実の人間関係そのものです。
「TATTOO」は、完璧な関係を讃える歌ではない。
不器用な二人が、不器用なままつながり続けることを肯定する歌なのではないでしょうか。


