相対性理論の「BATACO」は、軽やかな語感と独特な言葉遊びの裏側に、まじめさだけでは乗り切れない現実や空回りする若さを閉じ込めた楽曲です。
「来月からは晴れて予備校生」「大逆転狙い」「バタコさんだけが人生の目標なの」――印象的なフレーズを追うほど、この曲が描いているのは“器用に生きられない人のリアル”だと見えてきます。
この記事では、歌詞の要所を丁寧に読み解きながら、『BATACO』が伝える焦り・自己像・他者との接続という3つのテーマを考察していきます。
相対性理論「BATACO」とは?曲の基本情報と世界観の入口
「BATACO」は相対性理論の楽曲で、歌詞ページ上では作詞:ティカ・α/作曲:永井聖一/発売日:2013/07/24と記載されています。さらにアルバム『TOWN AGE』の収録曲としても確認でき、作品全体の中でも“日常の可笑しさと切実さ”が同居する位置づけの1曲です。語感の強い言葉を連打しながら、現実のしんどさを軽妙に運んでいく――この二重構造が、まず本曲の入口になります。
「来月からは晴れて予備校生」から読む主人公の現在地
冒頭で示されるのは、「今まさに生活が切り替わる直前」にいる主人公です。皆勤賞のような“まじめさ”への執着が見える一方で、進路変更を受け入れざるを得ない停滞感も滲む。ここでは、希望に満ちた新生活というより、評価基準が変わる世界に放り込まれる不安が中心にあります。スタートラインの描き方がすでに“前向き一色ではない”のが、この歌のリアルです。
「真面目なだけじゃ世の中渡っていけない」に滲む挫折感
このパートは、努力信仰の破れ目を真正面から言語化している箇所です。まじめであること自体は否定していないのに、それだけでは突破できない壁がある。しかも「大逆転」を狙っては苦笑いに着地する流れが繰り返されるため、主人公は単発で失敗したというより、“何度もやって、何度も足を取られてきた”経験値を抱えているように読めます。
「バタバタ/バタ足/バタフライ」――言葉遊びで描く焦りと自己像
この曲の巧さは、意味だけでなく音でも心理を描く点です。「バタ」の連鎖は、落ち着かなさ・焦燥・見栄・空回りを一気に可視化する装置として機能しています。さらに“泳ぐ”イメージが重なることで、主人公の状況は「地面を走る」よりも不安定な、常に沈む可能性を含んだ運動として示される。言葉遊びがそのまま人物造形になっているのが印象的です。
「大逆転狙いの末、苦笑い」に見る理想と現実のギャップ
「大逆転」という語には、現状への不満と一発逆転願望が詰まっています。ただし着地は勝利ではなく苦笑い。つまりこの楽曲は“夢を持つこと”を否定しない代わりに、夢を見る行為そのものの滑稽さや痛みまで引き受けて描いています。理想を掲げるほど、現実との段差はくっきりする。その段差に立ち尽くす姿が、曲全体の体温を決めています。
「ペアを組んだの」は恋愛か、生存戦略か?対人関係のリアル
ここは恋愛的にも読めますが、文脈上はもっと実利的です。理由が“好きだから”ではなく“得になるから”寄りで語られるため、主人公は関係を情緒より環境適応の手段として扱っている可能性が高い。受験・進学・新生活のように評価と競争が濃い場面では、人間関係すら戦術化される――この冷たさが、曲に現代的な手触りを与えています。
「バタコさんだけが人生の目標なの」の意味をどう解釈するか
この一節は、自己肯定の宣言というより“借り物の目標”にしがみつく切実さとして読むと腑に落ちます。主人公は自分の核をまだ持ちきれず、外部に置いたアイコンを暫定の羅針盤にしている。つまり「バタコさん」は特定人物の比喩というより、揺れる自己を仮固定するための象徴です。目標が高尚だからではなく、目標がないと溺れるから必要なのです。
「入学式で目が合ったあなた」が物語を反転させる理由
終盤直前には、怠惰・億劫・自己内通話といった“内向きの閉塞”が並びます。そこで「あなた」との視線の接続が入ることで、物語は一気に外へ向く。重要なのは大事件ではなく、他者の存在が自己の運動を再開させる最小単位のきっかけとして描かれている点です。主人公の再起は、決意表明ではなく、偶然の接続から始まります。
反復される「カタルシス感じます」が示す感情処理のメカニズム
同フレーズの反復は、感情が解決したことの証明ではなく、むしろ“言い聞かせ”に近い作用を持っています。感情移入していると宣言し続けることで、処理しきれない不安や焦りを整流化しようとしている。ここには、しんどさを劇的に乗り越えるのではなく、言語化と反復で日々をやり過ごす現代的なセルフケアの感覚が見えます。
まとめ:『BATACO』は“ジタバタしながら前に進む青春”の歌
『BATACO』は、きれいな成長譚ではありません。空回り、比較、実利的な関係、自己嫌悪、それでもやめない運動――そうした不格好さを丸ごと肯定する曲です。だからこそ本曲の核心は「勝てるか」ではなく、溺れそうでも動き続けるかにあります。ジタバタを恥ではなく推進力へ変える、その瞬間の手触りこそが『BATACO』の魅力です。


