2005年にリリースされた宇多田ヒカルの楽曲『Passion』は、ゲーム「キングダム ハーツII」のテーマソングとしても知られ、国内外のファンから高い評価を受けました。一見すると抽象的な歌詞が並ぶこの楽曲ですが、その一つひとつのフレーズには、深い感情とメッセージが込められています。
この記事では、歌詞の背景にあるテーマや、印象的なフレーズが表す感情の動きを考察していきます。
歌詞の冒頭と「思い出せば遙か遙か」—ノスタルジーの表現
歌詞の冒頭、「思い出せば遙か遙か」は、聴く者を一気に“過去”という時間軸へ引き込む一文です。これは、記憶の中にある遠い出来事を振り返るような感覚を表しています。ここでの「遙か遙か」という言葉の重ねは、単に時間的な距離だけではなく、感情的な隔たり、つまり「もう戻れない場所」や「失われた時間」を象徴しています。
このフレーズを起点に、全体を通して“記憶”や“過去への想い”が楽曲の大きなテーマであることが見えてきます。宇多田ヒカル自身の内面世界を反映しているとも解釈でき、リスナーにとっても自らの記憶を重ね合わせやすい構造になっています。
「昔からの決まり事をたまに疑いたくなるよ」の真意とは？
この歌詞の中でも特に印象的なのが、「昔からの決まり事をたまに疑いたくなるよ」という一節です。この部分は、社会的な規範や、子どもの頃から“当たり前”とされてきたことへの疑問を表していると考えられます。
「決まり事」という言葉には、日常生活のルールや価値観、恋愛の形、人間関係のマナーなど、多様な意味が内包されています。それらを“たまに”疑いたくなるという表現は、完全な否定ではなく、柔らかな葛藤を描いており、宇多田ヒカルらしい繊細な視点が伺えます。
この一節は、自己と社会との距離感や、個人の自由を求める心の揺らぎを象徴しており、聴く人の人生観や経験に深く響くポイントとなっています。
光と影のコントラスト：未来への期待と不安
『Passion』というタイトル通り、この楽曲には情熱や希望が描かれている一方で、同時に恐れや不安といった“影”の要素も織り込まれています。
「未来はどこまでも輝いてた」という歌詞は、希望に満ちた未来を描いているようですが、その後に「怯えていた」や「心が離れていった」など、不安や孤独を示す表現が続きます。これはまさに、誰もが感じる“未来への希望”と“現在の不安”との間で揺れる感情を表現しているのです。
このコントラストは、リスナーに現実の複雑さや人間関係の脆さを思い出させるものであり、歌詞全体に深みを与えています。
場所と時間の象徴性—「大きな看板の下で」「窓」「青空」などの風景描写が持つ意味
『Passion』では、具体的な情景描写も印象的です。「大きな看板の下で」「青空が見えた」「窓の外」などの表現は、一見すると日常の風景ですが、それぞれが象徴的な意味を持っています。
「看板」は都市の象徴であり、無機質な社会の中にいる自分を表し、「青空」は自由や希望を意味し、「窓」は内と外、自分と世界との隔たりを示しています。これらの描写が交互に登場することで、歌詞に“閉じ込められた感覚”と“そこから解き放たれたい願望”の二面性が浮かび上がります。
このように風景描写を通して心情を伝える手法は、宇多田ヒカルの詩的な才能を感じさせるものです。
『Passion』とキングダムハーツ II との関係性—テーマ性と楽曲の役割
『Passion』はゲーム「キングダム ハーツ II」のテーマソングとしても知られています。このゲームの物語は、“記憶の喪失”や“心のつながり”が重要なテーマであり、『Passion』の歌詞と非常にリンクしています。
特に「思い出せば〜」という歌詞は、記憶を取り戻そうとする主人公たちの心情と重なり、楽曲が単なるBGMではなく、物語の感情的な軸として機能していることがわかります。また、英語版の『Sanctuary』も、同様のテーマを英語圏のリスナーに届けており、宇多田ヒカルの音楽が持つ普遍性を証明しています。
まとめ：『Passion』は感情と記憶を織り交ぜた心の旅
『Passion』は、その詩的な歌詞と美しいメロディで、聴く人の心に静かに染み入る楽曲です。抽象的でありながらも、そこに込められた感情の奥行きは深く、記憶、葛藤、希望、孤独といった普遍的なテーマが巧みに織り込まれています。
Key Takeaway：
『Passion』の歌詞は、ただの「思い出」ではなく、私たち一人ひとりが持つ“内なる旅”を映し出す鏡であり、聴くたびに新たな気づきを与えてくれる作品です。
