森山直太朗の楽曲「さもありなん」は、映画『ロストケア』の主題歌として書き下ろされた作品です。一見難解にも思える言葉の選び方や、宇宙規模の時間軸を感じさせるスケールの大きな表現が印象的で、多くのリスナーが「その意味」を探りたくなる歌でもあります。本記事では、「さもありなん」の歌詞に込められた意図や背景を掘り下げながら、森山直太朗らしい言葉の魅力と楽曲の普遍的なメッセージに迫ります。
「さもありなん」という言葉の意味とタイトル選定の背景
「さもありなん」という言葉は、文語的な表現で「もっともなことだ」「そうであっても不思議ではない」という意味を持ちます。現代語ではあまり使われない表現ですが、直太朗はこの言葉に惹かれ、あえてタイトルとして採用しました。
彼自身がインタビューで語っているように、「さもありなん」という言葉には、善悪の判断を留保し、出来事そのものを肯定するような広がりがあります。それは、映画『ロストケア』のテーマともリンクしており、立場や価値観によって見え方が変わる“ケア”の在り方を象徴するタイトルといえるでしょう。
歌詞冒頭から読み解く“宇宙/時間/記憶”のイメージ
歌詞の冒頭では、「二十億光年前のこと」や「折に触れ全部覚えている」といったフレーズが登場します。ここで用いられているのは、時間や空間を超えた視点です。日常の一瞬を描いているはずの歌詞が、宇宙規模の時間感覚と結びつけられることで、楽曲全体に“普遍性”が与えられています。
これは、私たちが今抱えている感情や葛藤が、遥か昔から繰り返されてきたものであり、未来にも続いていくというメッセージのようにも受け取れます。森山直太朗は、個人の経験を普遍的なものに昇華する力を持つ歌い手であり、それがまさにこの曲にも表れています。
善悪・是非を越える“普遍の優しさ”というテーマ
映画『ロストケア』では、「善」と「悪」の境界が曖昧になるケアの問題が描かれています。「誰かのために」という動機が、時に他者にとっての暴力になってしまうこともある――その複雑さを、森山直太朗は“無判断”の立場から見つめました。
歌詞には直接的なメッセージは込められていませんが、むしろその“余白”が大きな意味を持ちます。「あなたがいなくても 世界は何も困らない」という一節は、突き放しているようでありながらも、その裏に深い優しさが滲んでいます。存在そのものの価値を問うようなフレーズに、森山直太朗の本質的な優しさが宿っています。
森山直太朗流:文学的言葉と日常的感覚の融合
森山直太朗の歌詞の魅力は、難解な表現を使いながらも、どこか日常の空気を感じさせる点にあります。「さもありなん」でもその特徴は顕著で、言葉自体は詩的で抽象的ながら、感情の揺らぎや人間関係の機微がしっかりと描かれています。
たとえば、「意味もなく泣きたくなるのは 意味のあることなんだよ」というラインには、感情を肯定するメッセージが感じられます。これは誰もが経験する“理由なき涙”をやさしく包み込むような表現であり、まさに日常に根ざした詩性といえるでしょう。
リスナーにとっての「さもありなん」—受け止め方と余白のある歌詞世界
この楽曲は、聴き手によってさまざまに解釈できる“余白”を持っています。SNSやブログなどで見られるリスナーの感想を追うと、「救われた」「泣けた」「解釈が難しいけれど胸に残る」といった声が多く見られます。
森山直太朗自身も、聴き手に委ねる余白を大切にしていることを公言しています。そのため、「これはこういう意味です」と断言することがむしろ不誠実にもなりかねません。「さもありなん」は、“誰かの人生の一部として寄り添う歌”として、多くの人の心に静かに根を下ろしていくのです。
まとめ:言葉の奥にある優しさを感じる楽曲
「さもありなん」は、タイトルや歌詞の表現から一見難しそうに感じるかもしれません。しかし、その奥には「判断しないこと」や「ありのままを肯定すること」、そして「感情の存在そのものを祝福すること」といった、普遍的で優しいメッセージが込められています。
言葉の一つひとつに込められた余白を、自分の感情や経験と照らし合わせながら聴くことで、この曲はさらに深い味わいを見せてくれるでしょう。森山直太朗の歌が多くの人に愛される理由が、ここにもあるのです。

 
  
 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
      
