新しいAimer(エメ)の世界
「Aimerの世界観を壊す」というコンセプトのもと、andropの内澤崇仁が作詞作曲を担当した名曲「カタオモイ」。
これまでAimerは真っ直ぐなラブソングを歌ったことはなく、本人もこの話自体に驚きがあったという。
ストリーミングを中心にロングヒットを記録して、2021年8月、Billboard JAPANストリーミングチャートにて、楽曲の累計再生回数が当人としては初めてとなる1億回再生を突破している。
そんな話題作である今作のストレートな歌詞の解説を行っていきたい。
ストレートに見えるが熟慮されたフレーズ
例えば 君の 顔に昔より
シワが 増えても それでも良いんだ
僕が ギターを 思うように 弾けなくなっても
心の歌は君で溢れているよ
高い声も 出せずに 思い通り歌えない
それでも頷きながら一緒に歌ってくれるかな
割れんばかりの拍手も 響き渡る歓声もいらない
君だけ わかってよ わかってよ
この曲の主人公「僕」。
「シワが増えても」や「ギターを思うように弾けなくなっても」という表現は年齢を重ねても「君」に対する想いは変わらない。
ずっと一緒にいたい、という気持ちがストレートに表現されている。
同様に「高い声も出せずに思い通り歌えない」という表現も一生を添い遂げたいという比較的わかりやすい表現方法をあえて重ねている。
今節の最終フレーズも「わかってよ」を2回重ねていることから、その一途さ、懸命さが伝わるように設計されている歌詞である。
コンセプト通り、わかりにくい例えを極力排除し、真っ直ぐ気持ちを伝えようとする「僕」。
一人称は僕だが、男性でも女性でも成立するように慎重に言葉自体は選ばれており、ただ単純にストレートな歌詞というわけでもないところが作曲者の技術が見える。
解釈の自由度の高さ
Darling 夢が叶ったの
お似合いの言葉が見つからないよ
Darling 夢が叶ったの
愛してる
サビ部分になるが、前節のあえて男性女性どちらでも取れる表現をしているのと同じように、わざと聞き手が自由に解釈できるフレーズを使用しており、「夢が叶った」や「愛してる」という言葉から、ポジティブな方向での自由度の高い幅広い受け取り方ができるようになっている。
できる限り多くの層に響く曲を作るために、計算された作詞であることは間違いない。
全曲を通して一貫した歌詞構造
たった一度の たった一人の
生まれてきた幸せ味わってるんだよ
今日がメインディッシュで 終わりの日には
甘酸っぱいデザートを食べるの
山も谷も全部フルコースで
気がきくような言葉はいらない 素晴らしい特別もいらない
ただずっと ずっとそばに 置いておいてよ
僕の想いは歳をとると 増えてくばっかだ
好きだよ わかってよ わかってよ
この部分は曲として2番に当たる。
今までのテーマの中心が「ギター」や「歌」という音楽に関する表現であったのに対し、ここでは「メインディッシュ」や「デザート」といった料理に関するフレーズに変えている。
基本的な歌詞構造は1番と同様で、ずっとそばに居たい、という一途な気持ちを相手に訴え続けているという点は変わらない。
同じ歌詞の構造を何度も繰り返すのは、曲全体の説得力や一貫性を高めるために使われる手法であり、今作もその手法を用いている。
ねえ darling 夢が叶ったの
お似合いの言葉が見つからないよ
Darling 夢が叶ったの
愛が溢れていく
ここで再びサビに入る。
ここでも「夢が叶った」や「愛が溢れている」という言葉がポジティブに語られているが、実は大きな問題がある。
そもそもこの曲の名前は「カタオモイ」なのである。
ここまでストレートな求愛表現とそれに対するポジティブな表現。
そして曲名との二面性。
これがこの曲の一番のポイントであり、一般的に「片思い」というと一方通行的な意味合いも含まれるが、この場合はどうであろうか。
もちろん曲の解釈の仕方は人それぞれではあるが、お互いが片思い=つまり両想いという意味にも取れるのではないか。
ストレートながらも実は裏に意味が隠されている。
君が僕を忘れてしまっても
ちょっとつらいけど それでもいいから僕より先にどこか遠くに
旅立つことは絶対許さないから
生まれ変わったとしても出会い方が最悪でも
また僕は君に恋するんだよ
僕の心は君にいつも片思い
好きだよわかってよわかってよわかってよ
Darling夢が叶ったの
お似合いの言葉が見つからないよ
Darling夢が叶ったの
ねえ darling愛してる
そして、曲の締めくくりに向かっていく。
前節の解説を踏まえると、片思い=お互いが一方通行として好きないわゆる両想いであるということになる。
「ダーリン」と相手を呼び、ポジティブな答えを相手にしていることから、この節で歌われている「君が僕を忘れてしまっても」や「出会い方が最悪でも」といった若干ネガティブな表現も、「実際には起こらないけど、もしそうなっても自分の想いは変わらない」という実は肯定的な意味合いに変わることになる。
その辺りも作詞者のストレートなラブソングであるが、単純な歌詞では無い、というメッセージが伝わってくる。
計算された歌詞の積み重ね
この曲のヒットは、今までにないAimerのストレートなラブソングであるということもさることながら、作詞者による一見わかりやすそうなフレーズの裏に計算された歌詞の積み重ねがあることを理解していただけたと思う。
幅広く受け入れられやすく、解釈の自由度が高い言葉選びは、Aimerの歌声と相まって、珠玉の名曲を作り出すことに成功したと言えるだろう。