キリンジの「エイリアンズ」は、郊外の深夜を切り取ったような風景と言葉選びで、聴くたびに“自分の物語”へと変わっていく不思議な曲です。
歌詞には「旅客機」「公団」「バイパス」など具体的な単語が並ぶ一方で、「禁断の実」「月の裏」「この星の僻地」「魔法」といった寓話的なモチーフも同居します。
この記事では、堀込泰行が語った制作の手触り(どんな記憶・景色が混ざっているか)も踏まえながら、言葉の配置が生む“疎外感と親密さ”を中心に、「エイリアンズ」の歌詞の意味を読み解いていきます。
- キリンジ「エイリアンズ」とは?(収録・制作背景・今も愛される理由)
- 歌詞の舞台は“郊外の深夜”——旅客機/公団/バイパスが描く風景
- 「まるで僕らはエイリアンズ」=疎外感と“二人だけの世界”の正体
- 「禁断の実」「月の裏」をどう読む?タブーと到達不能な理想のメタファー
- 「エイリアンズ」と「エイリアン」の使い分け——“僕ら”と“キミ”の距離感
- 「この星のこの僻地で 魔法をかけてみせる」:逃避ではなく“生活”を肯定する言葉
- よく語られる別解釈(同性愛説/異邦人・移民の物語/“わかりあえなさ”の恋)
- 堀込泰行の言葉と原風景——“ノンカルチャー”をドラマに変える視点
- なぜ再評価された?カバー・タイアップ・名曲化のプロセス
- まとめ——「エイリアンズ」を聴き直すときの注目ポイント
キリンジ「エイリアンズ」とは?(収録・制作背景・今も愛される理由)
「エイリアンズ」は2000年にシングルとしてリリースされ、アルバム『3』にも収録されたキリンジ(兄弟期)の代表曲です。作詞・作曲は堀込泰行。プロデュースに冨田恵一の名もクレジットされています。
その後もCM起用やカバーの広がりで再注目され、作者である堀込泰行自身が2017年に「Lovers Version」として再録(アナログ発売)したことも話題になりました。
“発売当時の文脈”を超えて愛され続けるのは、歌詞が一義的な答えを持たず、聴き手の人生と接続して意味が更新されるから——ここが最大の強さです。
歌詞の舞台は“郊外の深夜”——旅客機/公団/バイパスが描く風景
この曲がまず掴むのは、説明のいらない「夜の空気」です。上空の旅客機、団地(公団)、大きな道路(バイパス)。どれも“都市の中心”ではなく、生活圏の端っこにある景色として立ち上がります。
堀込泰行は、この曲の景色が埼玉で見ていた風景(バイパス、団地)と、当時住んでいた中野周辺の深夜の静かな通りの記憶が混ざっている、と語っています。
だから「エイリアンズ」の夜は、架空のSF都市ではなく、“現実の生活”の延長にある。ここが、聴き手の実体験にスッと入り込む理由です。
「まるで僕らはエイリアンズ」=疎外感と“二人だけの世界”の正体
タイトルにもなっている「エイリアンズ(複数形)」は、ただの比喩ではなく、二人の立ち位置を一瞬で決める言葉です。
「ここではないどこか」に憧れるというより、「ここにいるけど、うまく馴染めない」。その感覚を、“異星人”に置き換えている。
ポイントは、疎外感がネガティブで終わらないこと。
曲中の“僕ら”は、世界に馴染めない代わりに、同じ温度を持つ相手を見つけた。だからこの曲のロマンは「逃避」ではなく、「共犯関係」に近い甘さを帯びます。
「禁断の実」「月の裏」をどう読む?タブーと到達不能な理想のメタファー
「禁断の実」は、わかりやすく言えば“越えてはいけないライン”の象徴です。恋愛でいえば、関係性そのものが周囲に理解されない、あるいは自分の中で罪悪感を伴う——そんなタブーの感触。
そして「月の裏」は、見えているのに辿り着けない場所=叶わない理想や見えない本音のメタファーとして機能します。
つまりこの曲は、ただの「夜のデート」ではなく、
(1)越えてしまった/越えたい“禁”と、(2)どうしても届かない“裏側”
この二つを抱えたまま、それでも相手を想う歌として立ち上がります。
「エイリアンズ」と「エイリアン」の使い分け——“僕ら”と“キミ”の距離感
複数形の「エイリアンズ」は“僕ら”の共同体。対して単数形の「エイリアン」は、呼びかけのニュアンスが強い。
ここに距離の揺れがあります。
- エイリアンズ(僕ら):同類として肩を並べる
- エイリアン(キミ):相手を愛称で呼ぶ/祈るように呼び止める
同じ“異物感”を共有しているはずなのに、ふとした瞬間に相手が遠く感じる。
堀込泰行自身も「高校生のときの彼女との、好きなのに噛み合わない思い出がベース」と語っていて、この“近さとズレ”が曲の切なさの芯になっています。
「この星のこの僻地で 魔法をかけてみせる」:逃避ではなく“生活”を肯定する言葉
「僻地」という言葉が効いているのは、世界を変えるのではなく、自分たちのいる場所を受け入れる方向へ舵を切るからです。
中心へ行けない僕らでも、この場所で“魔法”は起こせる——それは超能力ではなく、
- 誰かに理解されなくても、二人で笑えること
- 眠れない夜に、同じ速度で歩けること
- 傷を抱えたままでも、相手を大事にすること
そういう小さな現実の肯定として響きます。
“生活の端っこ”を、詩の力で宝物に変える。これが「エイリアンズ」の優しさです。
よく語られる別解釈(同性愛説/異邦人・移民の物語/“わかりあえなさ”の恋)
「禁断の実」や“周縁の二人”という構図から、聴き手側でさまざまな読みが生まれています。代表的なのは次の3つです。
- 同性愛(周囲に言えない関係)の比喩
- 異邦人・移民の視点(社会に溶けない二人)
- 恋愛一般としての“噛み合わなさ”(好きなのにズレる)
どれが正解というより、この曲は“答えを固定しない設計”になっています。
実際、堀込泰行は「まず言葉がサウンド的にハマるか」から作っていく、とも語っていて、意味を一つに閉じない作り方が見て取れます。
だからこそ、あなたの経験に一番近い物語として読んでいい曲です。
堀込泰行の言葉と原風景——“ノンカルチャー”をドラマに変える視点
堀込泰行が語った制作背景で特に重要なのは、「特別な場所」ではなく、**当時の自分が見ていた“普通の通り”**が核にあることです。
埼玉のバイパス、団地の多い景色、そして中野の夜中の静かな通り。コンビニに行くために歩いた道。
こうした“ノンカルチャー”な生活景が、言葉の選び方ひとつで、急に映画のワンシーンになる。
それがキリンジの凄さであり、「エイリアンズ」が時代を超える理由でもあります。
なぜ再評価された?カバー・タイアップ・名曲化のプロセス
再評価の大きな節目は、CM起用やカバーの連鎖です。堀込泰行自身も、CMで流れたことが“より多くの人に届く転機”になった、と振り返っています。
さらに2017年には作者自身が再録した「Lovers Version」もリリースされ、“名曲を現在の耳で鳴らし直す”動きが後押しになりました。
カバーが増える曲はたくさんありますが、「エイリアンズ」は解釈の余白が広いぶん、歌い手ごとの人生が入りやすい。だから何度も“再発見”されます。
まとめ——「エイリアンズ」を聴き直すときの注目ポイント
最後に、聴き直しのチェックポイントを3つに絞ります。
- 風景語(旅客機/公団/バイパス)が、どんな“あなたの町”を呼び起こすか
- “僕ら(エイリアンズ)”と“キミ(エイリアン)”の距離が、どこで揺れるか
- 「僻地」「魔法」が、逃避ではなく肯定として鳴っていること
「エイリアンズ」は、わかりやすい物語を提示する歌ではありません。
でも、わかりきれない夜を抱えた人ほど、歌詞の隙間に自分の感情が入り込んで、気づけば“自分の曲”になっている。そんな名曲です。


