【歌詞考察】Alexandros「風になって」に込められた意味とは?──自由・葛藤・再出発を描く名曲の本質に迫る

「風になって」は、[Alexandros]が2023年にリリースしたシングルで、Hondaのバイク「Go, Vantage Point」キャンペーンのCMソングとしても広く知られるようになりました。
疾走感あふれるサウンドとともに、どこか懐かしさや切なさを帯びた歌詞が印象的なこの楽曲は、リスナーの心に深く響き、「歌詞の意味を考察したい」と感じさせる力を持っています。

本記事では、本楽曲の世界観を紐解きながら、歌詞の行間に込められたメッセージや感情の動きを考察していきます。


歌詞全体から読み取る「風になる」というメタファーの意味

タイトルにもなっている「風になる」という表現には、自由や変化、そして心の解放といった多様な意味が込められているように感じられます。

この楽曲では、「風」は単なる自然現象としてではなく、「自分自身の生き方」や「理想の姿」の象徴として機能しています。
特に〈風まかせで構わない〉というフレーズに表れているように、何かに縛られず、自分の意思で進んでいく姿勢が強調されています。

また、「風」は過去の記憶や感情を運ぶ存在としても描かれており、主人公が「戻れそうな自分」を思い出しながら、今の自分と重ね合わせている様子が伝わります。


“あてもなくて/畦道乗り出していく”── 大人になった今も“あの頃”を思い出す瞬間

歌詞の冒頭に登場する〈あてもなくて 畦道乗り出してく〉というフレーズは、若い頃の無鉄砲さや衝動を思い出させる描写です。

この部分は、何か目的があるわけではないけれど、とにかく動き出したいという衝動に駆られる心情を表現しています。
大人になると、私たちは「目的」や「成果」を重視するようになりますが、この歌詞は、そんな合理性から離れた、もっと根源的な「動き出したい気持ち」を肯定しているようにも感じられます。

〈いまだにくすぶってる〉という歌詞からもわかるように、主人公はまだ心のどこかで「変わりたい」「取り戻したい」と願っている。
この感覚は、多くのリスナーが共感できる部分ではないでしょうか。


「好かれたいと思わないけど嫌われたくもない」── 抑えた感情と自己表現の狭間

このフレーズは、非常に現代的でリアルな心の葛藤を映し出しています。

SNS時代の今、「自己表現」は簡単にできるようになった一方で、「他者からの評価」が常に付きまとうようになりました。
「好かれたいと思わない」という一見クールな姿勢の裏には、「嫌われることへの恐れ」や「人との摩擦を避けたい」という感情が潜んでいます。

Alexandrosの歌詞は、こうした複雑な感情を淡々と、しかし鋭く切り取ります。
そしてその語り口が、リスナー自身の気持ちと重なり合い、「わかる」と感じさせてくれるのです。


“風まかせ”の疾走感と、心に宿る「戻れそうな自分」への願い

この楽曲のサウンドは非常に疾走感にあふれていますが、その中にもどこか郷愁や切なさが漂っています。
特に〈戻れそうな自分がいる〉というフレーズには、「過去への回帰」ではなく「本来の自分に立ち返る」という前向きな想いが込められているように感じます。

バイクにまたがり、風を感じながら走るという行為そのものが、「過去」と「現在」をつなぐ行為として描かれているのです。

「風」は一方向に流れるものではなく、時に過去から未来へ、また未来から現在へと感情を運ぶ媒介にもなります。
この曲では、そんな「風」の中で主人公が自分を見つめ直していく姿が、美しい旋律とともに描かれているのです。


この曲が生まれた背景・バンドの意図と、CMタイアップから見えるメッセージ

「風になって」はHondaのCMソングとして書き下ろされた楽曲ですが、ただのタイアップソングではなく、Alexandrosらしい深いメッセージが込められています。

Hondaのキャンペーン「Go, Vantage Point」は、「自分だけの景色を見つけに行こう」というテーマを掲げており、まさに「風になって」の歌詞世界と共鳴しています。

バイクは自由の象徴であり、未知の場所へ走り出す乗り物。
そしてその旅の中で、かつての自分や新しい自分に出会うことができる──そのメッセージを、この曲は力強く伝えているのです。

川上洋平(Vo.)のインタビューでも、「バイクに乗るような感覚を音楽にしたかった」と語られており、サウンドと歌詞の一体感も非常に高い楽曲だと言えるでしょう。


【まとめ】

「風になって」は、単なるドライブミュージックではなく、自分自身と向き合う旅の始まりを歌った楽曲です。
風に乗って駆け抜けるような爽快さの中にも、過去への郷愁や、現代的な葛藤が織り交ぜられており、多くの人の心をつかむ力があります。


Key Takeaway:
Alexandros「風になって」は、「風」というモチーフを通して、自由・葛藤・回帰・再出発という多層的なメッセージを伝える楽曲であり、聞く人それぞれが“今の自分”に重ねて受け取ることができる名曲である。