「ハナウタ」に込められた意味とは？—タイトルが示す日常と心情のつながり
「ハナウタ」という言葉は、誰もが一度は無意識に口ずさんだ経験がある「鼻歌」を意味します。まるで何気ない日常の一コマに溶け込むようなこのタイトルには、強いメッセージが込められています。忙しない日常の中でもふとした瞬間に生まれる、心の余白。歌を口ずさむという行為は、自分だけの空間や心のゆとりを象徴しており、そのことがこの楽曲全体のトーンにも反映されています。
Alexandrosは、元々激しいロックサウンドが特徴のバンドですが、「ハナウタ」ではより内省的で柔らかいサウンドを採用しています。これは、聴き手の日常に寄り添うような“軽やかさ”を意識したものと思われ、実際に楽曲を耳にすると、どこか懐かしく温かな感情が呼び起こされます。
歌詞に描かれる「孤独」と「愛」の繊細な関係性
この楽曲の歌詞に目を通すと、「孤独」というテーマが繰り返し浮かび上がってきます。しかし、その孤独は決してネガティブなものとして描かれていません。「ひかりのなかに恋をしてる 孤独はきっと、そういうもの」というフレーズは、孤独さえも肯定的に捉える視点を示しており、むしろそれが「愛」と表裏一体であることを示唆しています。
ここでの「恋」や「愛」は、特定の誰かに向けられた感情というよりも、「何かを愛おしむ心」や「日常に宿る美しさ」に対するものとして解釈することもできます。誰かと分かち合えない寂しさと、それでも抱き続けたいという想い。その微妙なバランスが、詩的な言葉で繊細に描写されています。
最果タヒの詩的世界観—「ハナウタ」における言葉の選び方と表現
「ハナウタ」の作詞を手がけたのは詩人・最果タヒ。彼女の作品には、具体性よりも抽象性を重視し、想像力をかき立てるような言葉遣いが特徴です。日常にあるはずの光景を、どこか遠い夢の中のように表現する手法は、この楽曲においても健在です。
たとえば、「呼ばれることなどない名前」「沖へと流れる静寂」といった一節は、言葉の表面だけでは捉えきれない深層の感情や記憶を想起させます。聴く人それぞれの過去や想い出が呼び起こされるような、不思議な感覚を味わえるのがこの歌詞の魅力です。具体的に説明されていないからこそ、リスナー自身が意味を見出せる“余白”があるのです。
[Alexandros]と最果タヒ、小林武史による異色のコラボレーション
「ハナウタ」は、[Alexandros]の川上洋平がメロディを生み出し、最果タヒが詩を綴り、小林武史がアレンジを施した異色のコラボレーション作品です。それぞれ異なるフィールドで活躍するアーティストたちの共演により、非常に独創的な楽曲に仕上がっています。
川上のメロディは、柔らかくも芯のある旋律で、最果タヒの言葉を優しく包み込みます。一方、小林武史によるアレンジは、ピアノやストリングスの繊細な響きによって、都市の喧騒を背景にした個人の感情を丁寧に表現しています。これまでのAlexandrosのファンにとっても新鮮で、かつ深みのある作品として、高く評価されています。
東京メトロCMソングとしての「ハナウタ」—都市生活者へのメッセージ
この楽曲は、東京メトロの「Find my Tokyo.」キャンペーンCMソングとしても採用され、多くの人々の耳に届きました。CMには女優・石原さとみが出演し、日常の中に潜む小さな発見や癒しをテーマにした映像とともに、「ハナウタ」が静かに流れます。
「走るメトロの振動で、ぼくの孤独がぼやけて」というフレーズは、都市生活者ならではの共感を誘います。都会の喧騒の中で感じる一種の孤独。しかし、その孤独もまた、音楽やふとした風景によって“溶けていく”ような瞬間があるという希望。CMと楽曲が合わさることで、「日常の中にある豊かさ」を見つめ直すきっかけを与えてくれます。
