1. 歌詞は勢いで書き上げた“ロマンスへの宣言”
カネコアヤノの「ロマンス宣言」は、まさにタイトルの通り“宣言”のような力強さを持つ楽曲です。この歌詞は、彼女が「恋愛しなきゃ!」という衝動的な思いから一気に書き上げたものだと語っています。何かを決意した瞬間、心の中で言葉にならなかった想いが、突然溢れ出してくる。そんなタイミングで生まれたのがこの曲なのではないでしょうか。
この“勢い”は、歌詞のリズム感や短いフレーズの連なりにも表れています。説明的な言葉ではなく、断片的なイメージや体感を優先しており、聴く人に直接的なメッセージよりも感情の波を伝える構造になっています。「今すぐにでもロマンスを始めたい!」という熱と衝動が込められているのです。
2. “おもちゃ”“甘いチョコ”──内なる子ども心の象徴
「机の下にかくしたおもちゃたち」や「甘いチョコ」という言葉は、一見、可愛らしくもありますが、その裏には「幼さ」「不安」「心の支え」といった繊細なテーマが潜んでいるように思えます。誰にも見せないように隠している“おもちゃ”は、過去の自分、あるいはトラウマや傷を象徴しているのかもしれません。
また「甘いチョコ」という表現には、“自分を癒すもの”という意味が込められているようにも感じます。恋愛を始めることへの期待と同時に、過去の寂しさや不安を埋めるためのロマンス――そんな両義性がこの比喩に宿っているのです。子どものような素直な心と、大人としての欲求との間で揺れる主人公の姿が垣間見えます。
3. “理想の家族計画”“喧嘩計画”──リアルな日常へのロマンス
この楽曲で特にユニークなのが、「理想の家族計画」「理想の喧嘩計画」という言い回しです。ここには、ただ恋にときめくだけではなく、「日常」を共にすることの憧れが描かれています。
喧嘩までも“理想”とする感覚は非常にリアルです。人間関係において衝突は避けられないものであり、それすらも共に過ごす人生の一部として受け入れようとする前向きな姿勢。つまり、単なる“恋”ではなく、人生を共有する“パートナーシップ”としてのロマンスを描いているのです。
この視点は、従来のラブソングにはあまり見られなかった新鮮さがあります。現代的な恋愛観を反映した、とても等身大なラブソングだと言えるでしょう。
4. コーヒーを淹れ、出窓に花──“昭和アイドル”的ノスタルジー
「お湯を沸かして」「出窓に花を飾って」という歌詞は、まるで昭和時代のホームドラマのワンシーンを切り取ったかのようなノスタルジーを感じさせます。この部分には、恋愛の理想像として“昭和的な生活感”が象徴的に表現されているように見えます。
令和の今において、「昭和レトロ」は若者の間でひとつのカルチャーとして再評価されています。カネコアヤノの音楽には、まさにその懐かしさと新しさの融合があります。レトロな情景描写の中に、現代的な言葉や感情が混ざり合っているのです。
このノスタルジックな要素が、リスナーに安心感や温もりを与えつつ、「こんな日常を過ごせたら」という静かな憧れを喚起させるポイントになっています。
5. モノクロMVと昭和歌謡風アレンジが放つ“宣言感”
「ロマンス宣言」のミュージックビデオは、全編モノクロで構成されており、アレンジもどこか懐かしい昭和歌謡風。これが歌詞に込められた“宣言”の印象をより一層強調しています。色のない世界だからこそ、言葉や表情、仕草が際立つ。余計な装飾を排した構成が、曲の芯にあるメッセージをまっすぐに伝えてくれます。
また、楽曲アレンジはシンプルながら、どこか耳に残るメロディと優しいギターの響きが特徴です。歌詞の中にある“不安”や“希望”の入り混じった感情を、音楽そのものが代弁してくれているようなアプローチです。視覚的・聴覚的な両面から“宣言”のメッセージ性を高めることで、聴く者の心にじわりと染み込んでいきます。