UNISON SQUARE GARDENの「カウンターアイデンティティ」は、アニメ『風が強く吹いている』のオープニングテーマとして知られる楽曲であり、その疾走感と哲学的な歌詞によって、多くのリスナーの心を掴んでいます。タイトルの「カウンターアイデンティティ(Counter Identity)」が意味するものは何なのか。そして、歌詞に込められたメッセージとは何か。今回は、この楽曲の歌詞の意味を深掘りし、UNISON SQUARE GARDENらしい複雑で奥行きのある表現を読み解いていきます。
1. 歌詞冒頭とタイトル「カウンターアイデンティティ」が示すもの
楽曲のタイトル「カウンターアイデンティティ」は直訳すると「対抗する自己認識」あるいは「逆説的な自己定義」と解釈できます。これは、世の中の価値観や他者からの期待に対して、自分自身をどう位置付けるかという問いを含んでいます。
冒頭のフレーズでは、「神に背くような覚悟で」といった強い言葉が登場し、すでに“普通ではない選択”や“既存の枠組みへの反発”というテーマが提示されています。これはまさに「カウンター」的姿勢の象徴であり、自分を定義づけるためには何かと対立する必要がある、というメッセージを示唆しているのです。
2. “神に背く”というテーマ/“私とは何か”を問う構造
「神に背く」「世界を敵に回しても」という歌詞が繰り返される本楽曲では、“私とは何か”という問いが根底に流れています。自己とは与えられるものではなく、自らの意思で確立していくべきだという強い意志が感じられます。
UNISON SQUARE GARDENのボーカルであり作詞も担当する田淵智也は、以前より「自我の確立」や「社会との摩擦」をテーマにした楽曲を多く手がけており、この曲もその延長線上にあるといえます。神=権威や絶対的な正義と考えた場合、それに背くという行為は、自分だけの信念や価値観に基づいて立つことを意味します。
3. 日常・言い訳・存在の繰り返し──歌詞に見る〈反復と抵抗〉
「また同じ言い訳」「また似たような日々」という表現に見られるように、本作には“繰り返される日常”に対する倦怠感や苛立ちも描かれています。こうした現実に対して、どのように自分を保ち、抗っていくのか──それがこの歌詞の重要なテーマの一つです。
リスナーが共感するのは、単なる希望の歌ではなく、迷いや葛藤が等身大に描かれている点です。カウンター=抵抗、という構図の中で、アイデンティティ=自分らしさを模索する姿勢が感じられ、現代社会に生きる人々にとって深く響く内容となっています。
4. アニメ主題歌としての位置づけと、バンドならではのメッセージ性
『風が強く吹いている』というアニメは、寄せ集めの大学生たちが駅伝を目指すストーリーで、個々の「過去」や「劣等感」と向き合いながら、自分の居場所を見つけていくという内容です。その物語と「カウンターアイデンティティ」の歌詞は非常に親和性が高く、まさに“自分とは何か”を問うテーマが共通しています。
UNISON SQUARE GARDENは単なる応援歌やアニメタイアップ曲ではなく、そこに普遍的なテーマを落とし込み、リスナーの内面にも問いかける作品を多く手がけてきました。本作もその例に漏れず、楽曲単体でも十分に強度を持っています。
5. 歌詞の余白・解釈の可能性──ファンが見つける“もう一つの意味”
UNISON SQUARE GARDENの楽曲の魅力は、歌詞の解釈に「正解」がない点にもあります。リスナーそれぞれが、自分の経験や状況に応じて意味を見出すことができる余白があるのです。
「カウンターアイデンティティ」においても、それは同様です。例えば、“敵に回す”という言葉を現実の人間関係として捉える人もいれば、内なる弱さと対峙する象徴と見る人もいます。こうした多義性があるからこそ、何度聴いても飽きず、聴くたびに新たな発見があるのです。
結び:UNISON SQUARE GARDENが提示する“自分らしさ”のかたち
「カウンターアイデンティティ」は、自分を守るために世界と戦うのではなく、自分を知るために既存の価値観と向き合う歌です。そこには、強さだけではなく、弱さや不安定さも含まれています。
UNISON SQUARE GARDENの音楽は、そうした“揺れる心”を肯定し、聴く人に「そのままでいい」と伝えてくれる存在です。この曲もまた、誰かの中にある“自分らしさ”への一歩を後押ししてくれる一曲といえるでしょう。


