Vaundy「灯火」歌詞の意味を考察|“見えない未来”を照らすものとは?

Vaundy「灯火」を聴くと、暗闇の中でも希望を持って進んでいく歌のように感じます。

しかし歌詞を追っていくと、描かれているのは単純な「希望の歌」ではありません。

この主人公には、進むべき道も、未来を示す地図もありません。それどころか、一度は自信に満ちたように見えた「僕ら」が、終盤では再び行き先を見失います。

それでも、歩くことだけはやめない。

ここに「灯火」というタイトルの本当の意味があるのではないでしょうか。

この記事では、Vaundy本人のコメントや『東京ラブストーリー』制作側の公式コメントも確認しながら、「灯火」の歌詞を考察します。

Vaundy「灯火」はどんな曲?

「灯火」は2020年4月27日に配信されたVaundyの楽曲です。2020年5月27日発売の1stアルバム『strobo』にも収録されました。

また、FOD・Amazon Prime Videoで配信された2020年版ドラマ『東京ラブストーリー』の主題歌に起用されています。Vaundy公式サイトでも、配信日とタイアップが確認できます。

その後も長く聴かれ続け、Vaundy公式ディスコグラフィーでは2023年12月にストリーミング1億回再生の認定を受けたことが記載されています。

ここで重要なのは、「灯火」が単にドラマの恋愛模様を説明するための曲ではないことです。

歌詞そのものを見ると、恋人を直接指す言葉や、恋愛を明示する表現はほとんどありません。歌ネット掲載歌詞を読むと、むしろ繰り返されているのは「見えること/見えないこと」「世界」「僕ら」「進むこと」といったモチーフです。

つまり「灯火」は、恋愛を含みながら、それより広い「先の見えない人生」を描いた歌だと考えられます。

Vaundy本人が語った「灯火」の意味

この曲については、Vaundy本人がかなり重要なことを語っています。

2023年、NTTドコモの受験生応援ムービーに「灯火」が起用された際、Vaundyは、この曲を「不安な日々の中で聴く人の灯火のような存在になれば」という思いで書いたことを説明しています。

そして、先が分からず不安を抱える受験生にとっても、小さな心の支えになればうれしいという趣旨のコメントを残しています。NTTドコモの公式発表で全文を確認できます。

つまりタイトルの「灯火」は、歌詞世界の中だけに存在するものではありません。

Vaundy自身が、この「曲そのもの」を聴き手にとっての灯火にしようとしていたのです。

ただし、ここで注意したいのが、

「灯火=すべてを明るくする大きな希望」

とは限らないことです。

灯火は太陽のように世界全体を照らす光ではありません。

むしろ、遠い未来までは見えないけれど、今いる場所から次の一歩を踏み出す程度には周囲を照らしてくれる、小さな光です。

この「全部は見えない」という感覚が、歌詞全体とつながっています。

最初に描かれるのは「単調な毎日」の変換

冒頭では、ただ繰り返されていた足取りに音楽が加わることで、主人公の感情が動き始めます。

ここは非常に重要です。

世界そのものが変化したわけではありません。

変わったのは、主人公が世界をどう受け取るかです。

何でもなかった歩みが、音楽によって別のものに聞こえ始める。

その直後にも「見える/見えない」という感覚が何度も反転します。

現記事では、この部分を「日常に隠れた小さな幸せに気づくこと」と解釈していました。

もちろん、そう読むこともできます。

しかし私は、もう一段深く、

「見えないものを、感情や音楽を通して認識できるものへ変換している」

場面だと考えます。

つまり、幸せがどこかに隠されていて、それを発見する歌ではない。

同じ世界の見え方そのものを変える歌なのです。

だから冒頭に「音楽」が置かれているのでしょう。

「揺るがない世界」が、途中から「揺るがない僕ら」に変わる

「灯火」で特に面白いのが、同じ性質を表す言葉の対象が途中で変化することです。

前半で動かないものとして描かれるのは「世界」です。

人間が何を考えていても、世界は簡単には変わってくれない。

約束が守られる保証もなければ、誰もがたどり着ける完全な理想郷も用意されていません。

ところが曲が進むと、今度は「僕たち」の側が揺るがない存在として描かれ始めます。

これは、

世界が変わった

という話ではありません。

世界がこちらの願い通りにならないのなら、自分たちの側が何度でも立ち上がる。

そんな主語の逆転なのだと思います。

現記事では「巨大な世界と無力な人間」という対比を中心にしていましたが、歌詞はそこで終わっていません。

世界の強さに対して、人間もまたしぶとさを獲得していく。

この変化こそ「灯火」の中盤で起きている最大の転換ではないでしょうか。

滑走路がない。それでも走る

さらに象徴的なのが「滑走路」のイメージです。

普通、飛行機が飛び立つには滑走路が必要です。

ところが、この歌の主人公たちは、その条件が整っていないにもかかわらず飛び立とうとします。

ここにはVaundyらしい逆説があります。

「準備ができたから挑戦する」のではない。

「成功する保証があるから走る」のでもない。

飛べるかどうかさえ分からないのに、とにかく走っている。

そして、この構造は終盤の「地図」にもつながります。

主人公は進む方向を教えてくれるものを探しています。

しかし、よく考えると不思議です。

地図を見つけてから歩くのではなく、地図を探しながらすでに歩いているのです。

つまり「灯火」が描いているのは、

答えを見つける → 行動する

という順番ではありません。

行動する → それでも答えを探し続ける

という人生です。

未来が見えない状態そのものを否定していないところが、この曲の強さだと思います。

なぜ力強くなった直後に、再び迷うのか

もうひとつ見逃せないのが曲の構成です。

中盤では何度も声を上げ、かなり力強い「僕たち」が描かれます。

このままなら、最後は迷いを克服して堂々と未来へ進む――という展開になりそうです。

ところが実際には、その直後に主人公は再び迷います。

どこへ進めばいいのか分からない。

その場に残るべきなのかさえ分からない。

先ほどまでの力強さが嘘だったかのようです。

しかし私は、こここそが「灯火」の核心だと思います。

本当に強い人間とは、二度と迷わなくなる人ではない。

迷っても、また動き出せる人なのではないでしょうか。

勇気と不安は反対ではありません。

不安を抱えたまま進むこともできる。

だから「灯火」は、迷いを完全に消してくれる光ではないのです。

「僕」から「僕ら」へ――ひとりの不安が共有されていく

歌詞の主語にも注目したいところです。

冒頭では個人的な感情が語られます。

そこから世界を見る視点が複数形へ広がっていきます。

ところが、行き先を見失う場面では再び個人の声が前に出ます。

そして未来について語る瞬間には、もう一度「僕ら」へ戻っていく。

これは公式に説明されている解釈ではありませんが、

「不安はひとりで感じるものでも、未来は誰かと照らしていける」

という構造にも見えます。

だからVaundy自身が、聴き手にとってこの曲が灯火になってほしいと語ったこととも自然につながります。

聴いている側も「僕ら」の中に入ることができる。

「灯火」は主人公ひとりの物語ではなく、先が見えない人たちを包み込める歌になっているのです。

タイトルの「灯火」が終盤まで出てこない意味

そして興味深いのが、タイトルにもなっている「灯火」が、歌詞のかなり終盤まで温存されていることです。

最初から光があるわけではありません。

見えない。

理想通りにならない。

飛び立つための条件もない。

行き先も分からない。

そうした不確かさを十分に描いたあとで、ようやくタイトルの意味が姿を現します。

つまり灯火とは、

「迷わないための光」ではなく、

「迷っている人が、それでも進むための光」

なのではないでしょうか。

未来の全貌を見せてくれるものではありません。

ほんの少し先を照らすだけでも、人は歩ける。

そこまで読むと、Vaundyが「曲そのものを聴き手の灯火にしたい」と語った意味も、より深く響いてきます。

『東京ラブストーリー』主題歌になった本当の理由

「灯火」は2020年版『東京ラブストーリー』主題歌ですが、制作経緯にも興味深い事実があります。

フジテレビの企画・プロデュースを担当した清水一幸氏によると、配信ドラマであることから、配信文化と相性がよく若い世代に届くアーティストを探していたそうです。

そこでVaundyの「東京フラッシュ」に出会い、発売予定だったアルバムを聴かせてもらった中から「灯火」を見つけた、と説明しています。

つまり、少なくとも公表された経緯を見る限り、「灯火」は『東京ラブストーリー』のために新たに書き下ろされたというより、アルバム曲の中から作品に合うものとして選ばれたと考えるのが自然です。

さらに面白いのがタイトルです。

清水氏は、「灯火」というタイトルがドラマの象徴でもある東京タワーと合っていたことにも言及しています。フジテレビの公式発表にコメント全文があります。

Vaundy自身も、ドラマ映像を初めて見た際、自分の曲の色と映像が合っていることに驚いたとコメントしています。

ここからも、歌詞をドラマの登場人物一人ひとりに無理やり当てはめる必要はないでしょう。

むしろ、

誰を選ぶべきか。
どこへ進むべきか。
自分が信じた未来は本当に正しいのか。

そんな答えのない状況を進んでいく『東京ラブストーリー』と、「灯火」の構造そのものが重なっているのだと思います。

恋愛だけではないから「灯火」は長く残った

この曲が面白いのは、『東京ラブストーリー』以外の場面にも使われていることです。

2023年にはNTTドコモの受験生応援ムービー「手のひらにはいつだって」に起用されました。NTTドコモの発表では、家族や友人に支えられながら試験へ向かう若者の物語に使用されています。

さらにVaundy公式サイトによると、2025年にはダイハツ「タフト」のCM「自分らしさ」篇にも起用されました。Vaundy公式サイト

恋愛ドラマ、受験、自分らしさ。

まったく異なるテーマに同じ曲が成立する。

それは「灯火」が特定の恋人や特定の出来事だけを歌った曲ではなく、

「まだ答えが見えない人が、それでも次へ進むこと」

そのものを描いているからではないでしょうか。

まとめ|「灯火」は未来の答えではなく、進むための小さな光

Vaundy「灯火」は、一見すると未来への希望を歌った曲です。

しかし歌詞を細かく追うと、もっと現実的な物語が見えてきます。

世界は思い通りにならない。

完璧な場所もない。

進むための条件も整っていない。

行き先さえ分からない。

そして一度強くなったはずの人間も、また迷ってしまう。

それでも歩く。

だから必要になるのが「灯火」なのです。

未来を全部見通すための巨大な光ではありません。

今いる場所から、あと一歩だけ進むための光です。

そしてVaundy自身が語っているように、その灯火は、この曲そのものでもあるのでしょう。

「答えが見つかったら進もう」ではなく、

「答えが見つからなくても、進みながら探していい」。

そう考えると「灯火」は、ただ前向きなだけの応援歌ではありません。

迷い続ける人間を、そのまま肯定する歌なのだと思います。

関連記事:Vaundy「世界の秘密」歌詞の意味を考察

この記事を書いた人
yuya
yuya

運営者:yuya
担当:記事の企画・執筆・編集・事実確認
運営開始:2021年
主なテーマ:邦楽の歌詞考察・楽曲解説

当サイトを運営しているyuyaです。

音楽作品には、言葉だけを追ったときには見えなかった感情や物語が隠れていることがあります。

記事を執筆する際は、一部分の歌詞だけで結論を出すのではなく、楽曲のタイトル、歌詞全体の流れ、語り手の視点、曲調、ミュージックビデオ、アーティストの公式コメントなどを可能な範囲で確認しています。

作者の意図を一方的に決めつけるのではなく、「このように読むこともできる」という視点を提示することを大切にしています。

yuyaをフォローする
Vaundy