「かわいい」って、ただ容姿を褒める言葉だけではない――。そんなことを改めて感じさせてくれるのが、 SHISHAMO(シシャモ)の楽曲 かわいいです。2021年6月30日にリリースされたこの曲では、作詞・作曲を手掛ける 宮崎朝子さんが、自分では「なれないあの子」の姿を通して、女の子たちの内面に潜むコンプレックスや承認欲求、そして“本当にかわいい”って何だろうという問いを鮮やかに描いています。歌詞の冒頭にある「私はあの子になれない/髪型を真似してみても…」という言葉からして、ただのラブソングとは一線を画します。
この記事では、「かわいい」というキーワードにフォーカスしながら、歌詞全体を読み解いていきます。容姿だけをテーマにしているわけではない“かわいさ”の奥にあるメッセージを、音/言葉/文脈を手がかりに探っていきましょう。
1. 『shishamo かわいい』の歌詞の意味は?―“比較に疲れた女の子”が見つける本当のかわいさ
まず、歌詞の冒頭部分から見てみましょう。
「私はあの子になれない 髪型を真似してみても 同じ化粧品使っても あの瞳は手に入らない」
というフレーズ。
ここには、主人公=語り手の女の子が「あの子=かわいいあの子」を強く意識し、自分にはできない/手に入らないものがあるというリアルなコンプレックスが描かれています。
髪型や化粧品を真似しても、「あの瞳」は手に入らない。つまり、外見の“真似”では補えない、生まれ持った印象(=瞳・表情・佇まい)に対する憧れと距離感が示されています。
さらに、「触りたくなるその肌に 憧れて 近づきたくて 鏡を見るストレスで肌が荒れる」という歌詞も。鏡を見るたびに自分の肌にストレスを感じてしまう姿が、単なる外見コンプレックスではなく“自分との戦い”を表しているようです。
つまりこの曲は、“かわいいあの子”と自分を比較して疲れてしまった女の子が、それでも“かわいい”とは何かを問い直していく歌だと読み取れます。
そしてサビでは「化粧しなくてもキラキラしてる/あの子の顔で生きれたら/お気に入りのシャネルのリップだけ塗って/どこへでも行けるのに」という願望が表現されます。
「キラキラ」「お気に入りのリップ」「どこへでも行ける」という言葉が示すのは、“あの子”のような無条件な輝き・自由さ。語り手はそれを“かわいい”と捉えていて、自分はそこにいない。でもその願望自体が、自分を見つめるきっかけになっているのではないでしょうか。
そうして読み進めると、この曲が提示している「かわいい」の意味は「他人との比較で勝ち取るもの」ではなく、「自分自身が/自分らしく生きる中で発揮されるもの」へと軸が移っているように感じられます。
2. 歌詞全体の要約と核心フレーズ解説―劣等感・承認欲求・自己肯定の揺れを読む
このセクションでは、歌詞の流れをざっと要約しつつ、いくつかの核心フレーズをピックアップして解釈していきます。
歌詞は冒頭から、「私はあの子になれない」という強い宣言で始まります。髪型・化粧品を真似しても/あの瞳は手に入らない。続いて「触りたくなるその肌に憧れて…鏡を見るストレスで肌が荒れる」という構図。ここには、外見への憧れ、試行、そして鏡がもたらす自己嫌悪が描かれています。
そしてサビ部分、「あの子の顔で生きれたら…お気に入りのシャネルのリップだけ塗ってどこへでも行けるのに」というのは、“あの子”のシンボル化された存在を通して、「もし私があの子だったら」「もし私がああだったら」という仮定の世界を描いています。
さらに、歌詞後半では「たくさんのお金をかけても/あの子には絶対分からない/こんなに惨めで悲しい心 分からないでしょう」というフレーズも登場し、外見だけを変えても、内面=心の痛み・悲しみ・傷みは変わらないという真実に焦点が当たっています。
つまり「かわいいあの子」というのは“見た目が完璧”というだけの存在ではなく、「何も悩まなさそう」「誰からも愛され、大切にされてる」ように見える存在でもある。そしてその「見えるもの」が、語り手の内側の“醜さ”や“汚さ”と対比され、揺れが生まれます。
このように、歌詞から読み取れるのは次のような心理構図です:
- 劣等感:他人(あの子)と自分を比較し、自分が“なれない”と感じる。
- 承認欲求:誰かに見られたい/誰かに「かわいい」と思われたい/大事にされたいという欲求。
- 自己否定と苦悩:鏡・化粧・お金という手段を使って自分を変えようとするが、変われない自分に苛立ち・悲しみを抱く。
- 自己肯定の芽:最後に「私らしく生きること」や「比較の外に出ること」が“かわいい”ということだと暗に示されている。
また、インタビューでは宮崎朝子さん自身が、「女の子って、かわいそうな生き物なんですよ。…女性は見た目でわかりやすく評価されることが多いと思うんですね。それ自体は悲しいことなんですが、それゆえのコンプレックスを抱えて頑張って生きている女の子は素晴らしいなと思っていて。そういう女の子のコンプレックスを曲にしました。」と語っています。
この発言を踏まえると、歌詞の「かわいい」の意味は“頑張っている女の子そのもの”というニュアンスが加わってくると読み取れます。
3. 宮崎朝子の制作意図から読み解く「かわいい」―インタビュー発言と文脈で深掘り
ここでは、作詞・作曲を担当した宮崎朝子さんのコメントと、楽曲が作られた背景を参照しつつ、「かわいい」の語義を深めます。
先述のインタビューでは、「“いつかダメになっても後悔のないように、ストレートに人を想えたらかっこいいんじゃないか”と考えながら歌詞を書いていました。」という発言があります。
そして、「女の子って、かわいそうな生き物なんですよ。…女性は見た目でわかりやすく評価されることが多いと思うんですね。」という言葉も。これは、「かわいい」=“外見的な見られ方”だけではなく、「見られ方/評価され方」にさらされている女の子の内側にある葛藤を描こうという意図を示しています。
また、宮崎さんはバンドの制作スタイルについて「我々は詞先なので、とにかく朝から夜まで何か思いついたらバーッと書く。でもポエムというよりは、最初からがっつり歌詞の形のワンフレーズとして書いています。」と語っています。
このように、言葉そのものに強い意図があり、感情の鋭さ・切れ味が大事にされていることが読み取れます。
この曲「かわいい」において、外見の比較・承認欲求・自分らしく生きる葛藤というテーマは、宮崎さんが言う“女の子のコンプレックス”をそのまま歌に落とし込んだ結果とも言えます。
つまり、「かわいい」という言葉は本来「純粋で無垢な魅力」「周囲からの称賛」を示すものですが、この曲では「それらと比べてしまう自分」「その羨望と焦り」を通じて、“かわいい”という言葉の裏に潜む影も描いているのです。
ですから、ブログ読者に向けて伝えたいのは、この曲が「かわいい=称賛・憧れ」だけを歌うものではなく、「かわいい=誰かに見られる/誰かと比較される」という構図を問い直しているということ。そこにこそ、「本当のかわいさ=自分らしさ・生き方」のメッセージがあるように感じられます。
4. サウンドとボーカルが伝えるメッセージ―ポップさと鋭さが共存するアレンジ分析
歌詞の意味だけでなく、音・歌唱・アレンジもこの曲のメッセージを伝える重要な要素です。
「かわいい」は、ポップでキャッチーなメロディと共に、どこかノスタルジックで少し切ないギターの音色が印象的です。このポップさがまず「かわいい」という言葉にぴったりハマる一方で、その背後にある「なれない/憧れ/比較」のモチーフを包む役割を担っています。
さらに、宮崎朝子さんのボーカルには“軽やかさ”と“えぐるような感情”が同居しており、歌詞の「鏡を見るストレスで肌が荒れる」「こんなに惨めで悲しい心」などの暗さ・苦しさを、聴き手にそれとなく伝えています。
これは、インタビューで「女の子って、かわいそうな生き物なんですよ」という言葉があったように、明るさだけでは語れない感情を音でも表現していると言えます。
加えて、アレンジ面では、きらびやかなコーラスやサビの盛り上がりが「誰かに認められたい」「輝きたい」という欲求を象徴し、対照的に静かなAメロや繰り返されるフレーズが「なれない自分」「悩む自分」を際立たせています。この音の構造も、“かわいい”という表面の華やかさとその裏の揺れを巧みに演出していると言えるでしょう。
ですから、歌詞だけでなく音/歌唱に耳を澄ますことで、この曲が放つ「かわいい」の二面性――“憧れ”と“自分のリアル”――をより深く感じることができます。
5. 共感ポイントと考察まとめ―『shishamo かわいい 歌詞 意味』で読者が持ち帰れる学び
最後に、この曲を通じて読者のみなさんにぜひ持ち帰ってほしい“考えどころ”を整理しておきます。
● 「比較に疲れた瞬間」を自覚する
冒頭の歌詞から、私たちはつい「誰かと比べて自分はこうだ/あれだ」と考えがちです。髪型、肌、顔立ち、服装など、SNSや日常で“かわいい”とされる基準が多く流れています。この曲を聴くことで、「自分はなれないかもしれない」と感じてしまう瞬間、自分の中にある“比べてしまう心”を自覚できるかもしれません。
● “かわいい”を外見だけで捉えない
この曲が問いかけているのは、外見の“かわいい”だけに価値を見出すのではなく、その裏側にある努力・悩み・承認欲求、そしてそれを超えて自分を肯定する力です。歌詞後半の「たくさんのお金をかけても/あの子には絶対分からない/こんなに惨めで悲しい心 分からないでしょう」というフレーズがそのことを投げかけています。
● “自分らしく生きること”が真のかわいさ
歌詞の「化粧しなくてもキラキラしてる/あの子の顔で生きれたら…」という仮定の世界を観る一方で、実際には「私はあの子になれない」という現実を抱えながら、それでも生きていく主人公の声があります。音楽と歌詞は、そこから「私らしく生きること」が、“かわいい”と言われる基準以上に尊いというメッセージを含んでいます。
● 共感&対話の入り口として
この曲は、特に“女の子として生きてきた”経験を持つ人に強く響くでしょう。鏡を見てハッとした瞬間、肌荒れに泣いた夜、誰かの「かわいい」に嫉妬した自分…。そんな経験が一つでもあれば、歌詞の中に自分の物語を見つけられるかもしれません。さらに、友人/パートナー/家族とこの曲について話してみることで、「かわいいって何だろう?」というテーマを共有するきっかけにもなります。
総括
SHISHAMOの「かわいい」は、単なるラブソングでも、ただの自己肯定ソングでもありません。自分では手に入らない「あの子」の姿を通しながら、劣等感・承認欲求・自己肯定という女の子(時に男の子にも響く)特有の揺れを描き、最終的に「自分らしく生きることがかわいい」という結論に歩を進める一曲です。
歌詞・音・制作意図の三面からこの曲と向き合うことで、聴き手それぞれが自分の「かわいい」を再定義する手がかりを得られるでしょう。音楽ブログとして、ぜひ読者への問いかけやコメント欄での対話も促しながら、この深掘りを展開してみてください。

