【生命体/星野源】歌詞の意味を考察、解釈する。

2023年8月14日にリリースされた星野源のデジタルシングル「生命体」について触れてみましょう。
この曲はTBS系列の『世界陸上』や『アジア大会』のテーマソングとして制作され、歌詞はスポーツを連想させる内容となっています。
星野源とスポーツという組み合わせはあまり一般的ではありませんが、実は過去にも「Continues」がスカパー!リオパラリンピックのテーマソングに、「Hello Song」がACジャパンの東京オリンピックのCMソングに起用されたことがあります。
『世界陸上』といえば、織田裕二の「All my treasures」が有名ですが、今回の星野源の「生命体」はテンポが速く、高揚感を感じさせる曲となっており、従来のイメージとは異なる印象を持たせます。

人生を存分に楽しむ

この曲を初めて聴いた時、テンポがかなり速く、おしゃれな曲だなと感じましたが、少し難解すぎるのではないかと思いました。
メロディも複雑であり、歌詞も本人が言っていたように聞き取りにくく、良い内容なのにメッセージが伝わりにくいのではないかと感じました。
それでも、大会の映像やニュースをバックグラウンドミュージックとして流す場合、盛り上がりや高揚感が伝わってくるので、スポーツには合っているのかもしれません。
歌唱部分をインストゥルメンタルにするのも良いかもしれませんね。
一般の人々が親しめる歌としては、少し難しいかなと感じる曲です。
最近の星野源の曲は難解な傾向があるように思います。

気が付けば 競ってるの

勝て 走れと
選べぬ乗り物を抱え
君の為と引かれた

線路 進めと

笑う 何言ってんの

はて 気づくと

選ぶのは生き様と地平

君の胸が描いた

走路 飛び立て荒野

踊るように

風に肌が混ざり溶けてく

境目は消える

風に旗が踊り揺れてる

”1”を超えた先

あなたは確かにここにいる

生きて謳う

1番のAメロから考察してみます。
「気が付けば 競ってるの/勝て 走れと」という部分に注目しますが、「気が付けば」という表現から、競技に没頭している際に、自然と状況に引き込まれ、心が他の次元にいるような状態をほのめかしていると感じます。
これは、星野源がラジオで話していた、ライブのフィナーレでの経験と似たようなものかもしれません。
また、「頭より先に身体が動いてしまう」というような意味も含まれているかもしれません。
また、「選べぬ乗り物を抱え/君の為と引かれた/線路 進めと」というフレーズもあります。
「選べぬ乗り物」は、「無自由な運命」ともリンクしており、生まれつき持っている能力や才能、外見、体格などは自分で選べないという運命の考えを示唆しているように感じます。
「乗り物」という表現から続く言葉は「線路」であり、特定のものに限定せず、広範囲に当てはまるように工夫されているのではないかと思います。
また、人生について「敷かれたレールを進むことは嫌だ」という表現もありますが、これはスポーツ競技に限らず、人生そのものに対しても言及していると感じます。
自分が持って生まれたものは選べないし、人生のレールも既に敷かれている。
それが運命なのかと考えると、最初の「気が付けば 競ってるの/勝て 走れと」の部分は、意図せずに競争社会に飲み込まれてしまう様子を表しているかもしれません。
実際、この歌詞には興味深い考察が含まれています。

次に、「笑う 何言ってんの/はて 気づくと/選ぶのは生き様と地平」という部分を考察してみます。
ここはやや意味が抽象的かもしれません。
私の深読みした考え方としては、誰かが「笑う」言葉を投げかけても、最初はそれに反応していても、後で考えるとやはり自分は既定の枠組みの中で生きているのではないかと気づく、というような意味合いを含んでいるように思います。
「地平」という言葉は、「線路」と対になるものと捉えられるかもしれません。
実際、進むべき道は無限に広がっているという意味合いを含んでいます。
この部分は、笑い飛ばす人でさえ、無意識に既定の枠組みの上を歩んでいるのではないか、という問いかけのようにも受け取れる歌詞だと感じます。

ここからBメロについて考察してみます。
「君の胸が描いた/走路 飛び立て荒野/踊るように」という部分があります。
この中で「走路」が「線路」と対比され、「線路」はあくまで「乗り物」の通り道であり、身体が進むのは「走路」であると捉えられています。
心や身体には運命に対する自由な意志があるので、「線路」ではなく、自分が心で描いた「走路」を進んでいけるということを示唆しているように感じます。
「乗り物」に乗って楽に進む道や「線路」が用意されているかのような人生もありますが、気づいて「乗り物」から降りて、自分の自由な意志で「荒野」に飛び立ち、「踊るように」進むことを歌っているのではないかと思います。
ここで言及されているのは、心は頭(脳)ではなく、「胸」にあるということです。

次にサビについて考察します。
「風に肌が混ざり溶けてく/境目は消える/風に旗が踊り揺れてる」という部分があります。
このサビは、「アーアー」というコーラス部分と相まって、スポーツの情熱や爽快感、そしてスピード感を強く感じさせる印象的な部分です。
本人がラジオで語っていた通り、何かに集中して思考が飛び、ゾーンに入った瞬間の描写のように感じられます。
「”1”を超えた先/あなたは確かにここにいる/生きて謳う」という部分もあります。
この箇所は本人の説明があるので詳細な解説は不要かと思います。
誰もが一番になりたいと願いますが、皆が一番になれるわけではないという現実があります。
その場合、自己意識が消えて周囲との境界がなくなり、自分の全てを表現できたときが最高の瞬間なのではないでしょうか。
自分を失うのではなく、その瞬間こそが最も充実していて、心や身体が活き活きとしていることを感じることができるのです。
「あなたは確かにここにいる」。
自分が生きているからこそ、その瞬間を味わい、心が満ち溢れるように「謳う」ことができるのです。
単に歌うだけでなく、人生を存分に楽しむというニュアンスを含んで、この漢字が使われているのではないでしょうか。

自由意志の宿る「心」は正しい答えを知っている

無自由な運命も

愛と 変えるの

自我の糸 解ける場所へ

一度きりを泳いだ

航路 裏切れ評価

化けるように

風に歌が混ざり溶けてく

嘲りは消える

風に髪が踊り揺れてる

意思を超えた先

あなたは確かにここにいる

命は足掻く

死ぬな 研ぎ澄ませ

行け 走れ

風に肌が混ざり溶けてく

境目は消える

風に旗が踊り揺れてる

”1”を超えた先

あなたは確かにここにいる

そして つづく

次に、間奏の後の2番を考察していきます。
「無自由な運命も/愛と 変えるの」という部分は本人が説明していたので、詳細な解説は必要ないかと思います。
自由意思は「ない」というわけではなく、脳(頭)から身体への指令ではなく、身体には心があります。
星野源も軽く話していましたが、実際には心は胸=心臓にあると考えられます。
身体は脳よりも心臓寄りの位置にイメージされています。
この曲のテーマには、「頭と心」や「運命と自由意思」といった対比構造があり、身体は心や自由意思に近い存在として描かれています。
「自我の糸 解ける場所へ」という部分での「自我」は頭や自己意識を指し、「自我の糸 解ける場所」は1番のサビで描写されていたゾーンに入った瞬間を指しています。

次に、続くBメロの部分について考察します。
「一度きりを泳いだ/航路 裏切れ評価/化けるように」とあります。
ここでは「航路」を「泳ぐ」という表現が使われ、スポーツの多様性が広がった意味合いがあります。
スポーツ大会は一度の本番であり、「裏切れ評価」は不利な評判を覆してみせるという意気込みや闘志を感じさせます。
この部分は星野源の過去の苦しい経験を思い起こさせる歌詞でもあります。
「化けるように」も、以前の楽曲である「化物」と関連があり、この部分では「無自由な運命」と対峙しようとする意思や、これまでの評価を覆すといった、少々反骨精神や怒り、悔しさのような感情が表現されています。
このような感情はスポーツに限らず、芸能や音楽、芸術など、他人の評価に晒される人々にとって特に共感できるものだと思います。

2番のサビについて見ていきます。
「風に歌が混ざり溶けてく/嘲りは消える/風に髪が踊り揺れてる」とあります。
「嘲りは消える」という部分は、Bメロの「裏切れ評価」と似たような表現で、スポーツ選手や芸術家など「さらしもの」とされる人々は、他人からの非難や「嘲り」に苦しむこともしばしばです。
しかし、ゾーンに入るとそういったノイズは消えていくのです。
その後ろの部分では、2番では「意思を超えた先」という表現があります。
1番の「”1”を超えた先」と同様の状況を言っているようですが、微妙にニュアンスが異なります。
これは運命や環境によらず、自分の意思で選んだ道を指しています。
その「意思を超えた先」は、自己が消えてゾーンに入った瞬間を指しています。
例えば、周囲から反対されながらも、○○になり成功する(運命に逆らう自由意志)、そしてその○○の場面で最高の瞬間を迎える(自己が消える=「意思を超えた先」)という意味合いがあるのかもしれません。
そしてその状態には、自らの心に従う者だけがたどり着けるといったニュアンスも含まれているのではないでしょうか。

大サビのCメロについてですね。
「命は足掻く/死ぬな 研ぎ澄ませ/行け 走れ」という部分があります。
この部分は短く、平易な言葉で表現されていますが、だからこそ熱い思いが伝わるような歌詞です。
命令口調で自分自身や誰かを奮い立たせるような感じもあります。
運命に逆らう道は容易ではなく、日々は「足掻く」ような苦労もあり、そして「死ぬな」と思うほど辛い状況もあるでしょう。
そんな時には、頭ではなく心=身体の感覚に頼ることが重要です。
考えるのではなく、感覚を「研ぎ澄ませ」。
一つ一つの言葉や行動を慎重に準備し、「行け 走れ」、「君の胸が描いた/走路」を全力で進むべきなのです!

この曲はスポーツをテーマにしており、走ったり泳いだりする動きをイメージさせる歌詞を通じて、誰もが共感できる「運命と自由意志」や「頭と心」といった普遍的なテーマを含んでいます。
時には周囲からの反対や複雑な思考によって行き詰まることがあります。
しかし、そのような時でも、自由意志の宿る「心」は正しい答えを知っているのです。
心の導きに従って、全力で人生を進んでいく。
そんなメッセージが背中を押してくれる素晴らしい曲だと感じました。