【LONGINESS REMIX/SugLawd Familiar, CHICO CARLITO & Awich】歌詞の意味を考察、解釈する。

新世代沖縄ヒップホップの現在地

沖縄のヒップホップクルー、SugLawd Familiar(サグラダ・ファミリア、スペインの建造物に因む)がまだ高校在学中である2020年10月にリリースした「Longiness(feat. OHZKEY&Vanity.K)」はSpotifyを始めとする各チャートを席巻し、一躍SugLawd Familiarの名を全国に知らしめ、地方色が強いヒップホップにおいて「沖縄」の実力を見せつけた一曲となった。

そして、ULTIMATE MC BATTLE GRAND CHAMPIONSHIPで優勝したCHICO CARLITOやフィメールラッパーのトップを走るAwich(エイウィッチ)ら沖縄出身のラッパーとコラボレーションし、リミックスとして2022年12月に発表されたのが「LONGINESS REMIX by SugLawd Familiar, CHICO CARLITO, Awich」である。

トラックはオリジナルと同様、ダークなレゲエを基調としたヘヴィなベースがうねるダビーなサウンドであり、近年のヒップホップトラックにはあまり見られない中毒性がある。
弱冠の高校生であった彼らがどうやってこのハイクオリティなトラックを手にしたのか、まずはそこが驚愕に値する。
或いは沖縄という国際色の高い場所による作用もあったのではないだろうか。

オリジナルに参加した二人のラッパー、OHZKEYとVanity.Kの歌唱部分に関しては一部をCHICO CARLITOとAwichによるヴァースが差し込まれたものに変更され、新進気鋭のSugLawd Familiarを先輩であるCHICO CARLITOとAwichが認めた形となり、このリミックスが共に沖縄を盛り上げようとAwichがホストとなって制作されたコンピレーション・アルバム「098RADIO vol.1 Hosted by Awich」に収録された。
このコンピレーション・アルバムには他にも唾奇やOZworld、Rittoといった沖縄出身のアーティストが参加しており、現在の沖縄のヒップホップシーンを知るには最適なコンピレーション・アルバムである。

今回はAwichの台頭によって盛り上がりを見せる新世代沖縄ヒップホップの現在地とも呼べるこの「LONGINESS REMIX」を考察してみたい。

初期衝動を凝縮したSugLawd Familiarの決意表明

[Awich]

Yo yo yo this mic on?

The youth dem going hard on the nation

Giving them pure realization

It’s the rock

The Ryukyu, The Okinawa 098

All night and day

SagLawd Familiar, CHICO CARLITO,

and Awich

[Hook]

リーズナブルな完成度+スケスケまくりのimitation

あいつになりたくてもがいても

底なし沼のように沈んでくよ

リーズナブルな完成度+スケスケまくりのimitation

NickelBurnして火つけて

君の心に落とすimagination

[OHZKEY]

ギリギリでフライできず地獄送りさ

君が飛べなかった理由を一つ教えたろうか

それは目の前のプロップスに心揺らぎ近道した結果

誰かの後をつけてるだけだったからさ

未だわからないか 最初は気づいてた

知らぬふりして自分の道だと言い聞かせた

他は騙せない オリジナルを奏でないと

過去の自分に足を引っ張られて退場

俺とお前との差は遺伝子レベル

俺を狂わせた父母祖父母には感謝してる

さらに磨き上げた自分自身にも感謝してる

なのになんかしてる君 差が離れてくうちに

絶望を感じどうせラップやめるよ

5年後いや4年後?これは余命宣告

現状に満足して威張ってんの?

俺ら発展途上 でもかっけえぞ

オリジナルにはなかったAwichによるイントロで楽曲は幕を開ける。
098というのは沖縄の市外局番であり、コンピレーション・アルバムのタイトルにも流用された、沖縄を象徴する数字である。

(同様の手法を使用したグループにサイプレス上野とロベルト吉野が所属するZZ PRODUCTIONがいる。彼らの場合は横浜なので横浜の市外局番である045を使った「184045」という数字をレーベルに所属するサイプレス上野とロベルト吉野やSTERUSSなどが使用した。また、同じく横浜のヒップホップユニットであるOZROSAURUSの1stアルバムタイトルも「ROLLIN’045」であり、こちらも横浜の市外局番を使用している)

サビにあたるフックの部分では、持て囃されているラッパーをimitation、つまり偽物とディスり、その作品をリーズナブル、手軽な完成度とこき下ろしている。

続いて中心人物であるOHZKEYのヴァースではラップという道を選んだ自分たちを「発展途上」と形容するも、そのグループ名の由来である未だ建造中の巨大建築「サグラダ・ファミリア」になぞらえて決意を表明している。

OHZKEYへのインタビューによるとこうだ。

俺の場合は、人の真似ばっかして自分から何も生み出さない人たちへのディスです。
フックの「リーズナブルな完成度」は、ゼロからじゃなく誰かの物真似で全く努力せずに作ってるもの、「スケスケまくりのimitation」は、いくら上手くやってもパクリが透けて見えてるよって。
パクったもので何かになろうとしても日の目を見ずに沈んでいくだけだぜっていう

グループがこの楽曲を発表したのは高校生の頃であり、その時点で既に将来をヒップホップに捧げ、ラッパーとして生きていく覚悟を決めているのである。
そして、その覚悟に違わずトラックは研ぎ澄まされ、ラップスキルは熱を帯びた初期衝動を感じさせている。

ちょっとだけ先輩のラッパーが見た沖縄

[CHICO CARLITO]

仲間達と歩いてきた国際通り

一歩一歩でも縮めていった理想との距離

マジで何一つなかったんだよ当時 (Oh shit)

今では那覇Young OG

耕した土壌 Wack MC除草

RapだけはNo joke 俺も発展途上

だからしない助走 まるでラルフのロゴ

OHZKEYと競争 5年後、調子どう?

俺には 固い信頼裏切らない世界一のフレンズ

ソフトなやつのバースだけじゃ朝立ちもしねぇ

昔、立ち止まり眺めたビッチの胸

今この島から動かすぜ一億円

All my people put ya middle finger

I say お前のenemy見返しな

口だけより結果を積み上げろ

地元Southside 火をつけてブチ上げろ

CHICO CARLITOは1993年生まれ、SugLawd Familiarよりも10歳ほど年上である。

2012年にラッパーとしてのキャリアを始め、2015年には早くもULTIMATE MC BATTLEで優勝しその名を全国に轟かせ、ラップバトル番組であるフリースタイルダンジョンで初代モンスターとして君臨するなど着実に沖縄を代表するラッパーの一人としてキャリアを積み重ねてきた。

CHICO CARLITOがラップを始めた頃はまだ沖縄のヒップホップシーンというものが今ほど確立されていなかったのだろう。
その思いが「マジで何一つなかったんだよ当時」というリリックに表れている。
CHICO CARLITOや同じくこのコンピレーション・アルバムに参加している唾奇、OZworldらと共に沖縄のヒップホップシーンを盛り上げ、牽引してきた一人であるCHICO CARLITO。
自分たちが切り開いた道を、SugLawd Familiarのような後輩がついてくる。
勿論CHICO CARLITO自身もまだ「発展途上」であると認めている。
更にスキルを磨き、地元を盛り上げる。
その思いがこのヴァースからはにじみ出ているのではないだろうか。

憎み、そして愛した沖縄

[Awich]

Imagination から Realization

よく噛み砕くinformation

Good mind 琉球教訓伝承

分かる奴らが変えてくnation

自分じゃない他の誰になるためやるんじゃない

溢れでる言葉派手にぶん回す

この声が刀だから高らかに宣言

I AM ME!

見失うこともある未だに

はじめてマイク握ったfourteen

今じゃアリーナで狙うグラミー

まだまだ未完成このStory

何があっても逃げやしないさ

手をあげカチャーシーでput ya light up

歌と踊りで凌いできた島の涙を飲み干し

We never back down

Awichは一度、沖縄を捨てた。

基地の近くに生まれ、日本とアメリカの狭間でアイデンティティに苦しみ、Awichは日本を飛び出した。

そしてアメリカ人と結婚し、子供を為したAwichだが、愛する夫を悲劇の末に亡くし、幼い子供を連れてAwichは沖縄に戻った。

きっと、Awichにとって飛び出す前の沖縄と、帰ってきた時の沖縄はまるで違う印象があったのではないだろうか。
それはAwich自身が変わったからに他ならない。
ラッパーとして生きていく覚悟と、守るべき幼い命。
その二つは沖縄を憎むべき対象から愛すべき対象へと変えた。

今、Awichは様々な活動を同時にこなしている。
地元沖縄のヒップホップシーンを盛り上げるためのこのコンピレーション・アルバムの制作も勿論そうだし、自身の躍進も忘れてはいない。
狙いはポップ・ミュージックの頂点であるグラミー賞。
フジロック・フェスティバルやクラブではなく日本武道館での公演、タイプは違えどフィメールラッパーのトップを競い合うちゃんみなとの共演といった、アウェイに進出することも忘れていない。
また、「女性の強さ」を体現するアイコンとして、そして沖縄の良さを音楽以外の面でも発信していくアンバサダーとして、Awichは音楽以外のところでも闘い続けている。
かと言って、愛する子供のことを忘れたりしない。
そこには一度は憎み、そして愛した故郷である沖縄や家族のサポートがあるであろう事は想像に難くない。
Awichもまた、自分の物語が「未完成」であると自覚している。
この楽曲に参加しているラッパーは皆、発展途上の未完成なのである。
そしてそれは、そっくりそのまま「伸びしろ」である事も付け加えておきたい。
Awichはこの楽曲に参加したSugLawd FamiliarやCHICO CARLITO、コンピレーション・アルバムの他の楽曲に参加している唾奇、OZworld、Rittoら全員が未完成、つまり「まだまだこんなもんじゃ収まらない」と全国に宣戦布告したかったのではないだろうか。
沖縄のヒップホップシーンはまだまだ止まらない、そう思ってAwichはこのコンピレーション・アルバム「098RADIO vol.1 Hosted by Awich」を制作したのではないだろうか。

無名のラップ好きの高校生が作った一曲が、沖縄に火を付けた。

ヘッズであれば、その火をもっと広く、もっと大きく燃やそうと画策するAwichの動向から目を離すわけにはいかない。

この「LONGINESS REMIX by SugLawd Familiar, CHICO CARLITO, Awich」そして「098RADIO vol.1 Hosted by Awich」をチェックし、沖縄のヒップホップシーンの現在地を確認すべきである。
そこにはきっと、「日本語ラップ」の未来も含まれているのだから。