女性の強さ≠フェミニズム
こんなニュースが出ていた。
3月8日の「国際女性デー」において、日経新聞に掲載されたAwichの広告が炎上。
端的に言えば、女性の意識を変えようとするAwichと、変わるべきなのは男性と社会であるというフェミニストの衝突である。
どちらが正しいか、というのは様々な意見もあり一概には言えない。
おそらく両方正しいのだと思う。
男性も、女性も、社会も、全てが変わるべきだと私は思う。
ただ、広告は曲解されたのだと思う。
Awichは女性に向けて「強くあれ」と伝えたかったのではない。
男性や社会に向けても「強い女性像」を打ち出したに過ぎず、女性にのみ負担を強いているというのはいささかお門違いではないだろうか。
兎も角、Awichは一部の女性から反発を受けた。
その反発の中には、Awichの美しいルックスや過度な露出も含まれている。
長く美しい髪、整った顔立ち、胸の谷間、そういったものを武器や女性のシンボルにするのは間違っているとフェミニストは糾弾した。
個人的な意見としては、「持っているものを使って何が悪い」である。
皆が皆、Awichのように恵まれたルックスを持っているわけでも、男性顔負けのエネルギーを持っているわけではない。
しかし、Awichは決して「自分のようになれ」と伝えているわけではない。
持っているものを最大限に活かし、形を限定しない「女性の強さ」を打ち出したかったのだと私は思う。
(まあ、最終的な責任は勿論Awichではなく、広告を企画した日経新聞だが)
そもそも、Awichは「女の武器」というものをフェミニストの望まない形で最大限に活用しているアーティストである。
衣装は過激、扇情的なダンス、エロスがふんだんに散りばめられたリリック、一言で言えば「性的」である。
その性的なAwichを世界女性デーの広告に使う事自体危険だったのではないだろうか。
今回はフェミニストが激怒するであろう、性的なAwichの極めつけとも言える「口に出して」を考察してみたい。
ダブルミーニングのオンパレード
口に出して 溜めてた分全部
口に出して 怖がらないでいい
口に出して 恥ずかしがらずにほら
全部飲み込むから口に出して
小っちぇ! なんでそんな怒ってる?
私のギラギラにイライラしてる
安い言葉に今さら騙されないし
安酒じゃ溶かせないこのIcy
I count papers. You count favors
見返りばっか求める You a Hater
そんなプレゼントなら逆に
金払うから二度と出してくんな
ごちゃごちゃ何言ってんの?
舐めてもないのに何イッてんの?
口にすら出せないやつらは知らんぷり
ハートがあるならば見せてよ全部
口に出して 溜めてた分全部
口に出して 怖がらないでいい
口に出して 恥ずかしがらずにほら
全部飲み込むから口に出して
生死をかけて愛されるのは罪?
大事なのは感受性豊かな Pussy
あげまんだって 噂になってる
私とやればなれる Super Saiyan
I’m a gangsta. Sex icon
お掃除してあげる Dyson
器デカい男なら You know
腹ばっか立てずに立てろよChimpo
その愛 このBody
剥き出し Give it to me
ウジウジ しないで
出せないならもう私が出すわよBoy
口に出して 溜めてた分全部
口に出して 怖がらないでいい
口に出して 恥ずかしがらずにほら
全部飲み込むから口に出して
ラップの技法に「ダブルミーニング」がある。
同音または似た響きの言葉に2つの意味を持たせるというもので、特に日本語ラップにおいてはダブルミーニングを活用した素晴らしいパンチラインがいくつも生み出されてきた。
ダブルミーニングをふんだんに盛り込んだ名曲の一つにDJ OASISがK-DUB SHINEと宇多丸を迎えて制作した「キ・キ・チ・ガ・イ」がある。
タイトルからして放送禁止用語である「気違い」をもじったこの曲のパンチラインをいくつか紹介しよう。
だから言ってんの、正反対だ
(天皇制反対だ)
ー
酷い人 思わせる心の広い人
(裕仁、昭和天皇)
ー
これが世を守るでけぇ思想観
(警視総監)
ー
この飛び切りブラックな話題
(部落)
ー
ほら、アルゼンチンやウルトラマンの子供だらけだが
(男性器・女性器)
DJ OASIS「キ・キ・チ・ガ・イ」 feat. 宇多丸 & K DUB SHINE
歌詞を見るのと、実際に聴くのとではまるで印象の変わるダブルミーニングが、この「口に出して」にも多用されている。
タイトル及びフックに使用されている「口に出して」は言わずもがなフ○○○○による口内○精の暗喩だし、「小っちぇ!」は男性器のサイズを指す。
「生死をかけて愛されるのは罪」も「生死」の文字を変換すれば例のアレである。
「腹ばっか立てずに立てろよChimpo」はもうそのままである。
その他にも「全部飲み込むから」や「お掃除してあげる」など、この曲は性的な暗喩のオンパレードである。
インタビューによると、
『口に出して』はもともとさわやかな曲だったんですが、“こうやったら絶対ヒットするよ!”って言ってくれて。
それで歌詞とビートを作り直して、今回のようなダブル・ミーニングの曲になったんです。
さわやかなバージョンの『口に出して』は、また別の機会に出すかもしれません(笑)
との事だが、こちらのバージョンは爽やかさとはかけ離れた、性的暗喩に塗れたエロソングである。
ミュージックビデオも楽曲に倣い、Awichと多数のセクシーな女性が扇情的になまめかしく踊るもので、否が応にも性的な印象を受けるものである。
トップクラスのラッパーの一人、呂布カルマでさえも「エロすぎて一人でしか聴けない」と言うくらいである。
ともすれば性的な搾取を嫌うフェミニストからすれば発狂もののリリックだが、Awichはそういったスクエアなフェミニズムにも真っ向から立ち向かう。
こちらもインタビューの引用だが、
世の中はそれこそ『女性がエロスを見せちゃ安売りになる』とか『こうあるべき』という押しつけが、特に女性のエロスに対しては強いんですね。
それに対して、衝撃的な表現をすることで開けられる風穴はあると思っていて、『その規制意味ある?』っていうことを提議したい。
そんな曲です。
とAwichは発言している。
『こうあるべき』というのは、家事育児やお茶くみを女性に任せるオールドタイプな価値観も勿論そうだし、「髪を短くして男性や社会を罵り、異論を許さない閉鎖的なコミュニティから女性の権利向上だけを訴えるというフェミニストのパブリックイメージ」も含まれているのではないかと思う。
Awichはそのどちらにも属さない。
「口に出して」はコミュニケーションの事
オーラルセックスを思わせる印象の方が強いこの楽曲だが、本来は「言いたいことがあるのならちゃんと伝え合おう」というのが真のメッセージである。
沖縄に生まれ、アメリカに渡り、アメリカ人と結婚した彼女にとって、日本人は「溜め込みすぎ」に見えたのだろうか。
アメリカ人はよく口喧嘩をする。
イメージだけの話ではなく、アメリカにはディベート(議論)の文化があるからだ。
授業にもディベートが取り入れられているし、意見をぶつけ合うというのはアメリカにおいては日常的に行われていることなのである。
国民性もあるだろうが、思ったことは口に出すアメリカ人と、耐え忍ぶのが美徳とされる日本人は真逆とも言える文化を形成していると両国を経験しているAwichは感じたのではないだろうか。
それは女性がどうとか、男性がどうとかという範疇の話ではない。
人と人が共に行きていく上で最も大切な要素のひとつなのである。
つまり、この楽曲は男性に向けてでもなく、女性に向けてでもなく、全ての人間に対して放たれたメッセージなのだと思う。
過激なイメージのその裏にあるAwichの真のメッセージはこの楽曲に限らない。
他の楽曲にも、一聴しただけでは掴みきれない本質が隠されている。
この楽曲を聴いて、他の楽曲を聴いて、稀代のリリシストであるAwichのメッセージを探し出してみてはいかがだろうか。
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