朝ドラ『ばけばけ』をきっかけに、「ハンバートハンバートっていいな」と感じた人も多いのではないでしょうか。
オープニングで流れる「笑ったり転んだり」は、どこか牧歌的でポップなのに、耳を澄ますとじんわり胸に沁みる言葉がぎゅっと詰まった曲です。
この記事では、ハンバートハンバート「笑ったり転んだり」の歌詞の意味を、朝ドラ『ばけばけ』の物語や、モデルとなった小泉セツ&小泉八雲夫妻のエピソードとも絡めながら、歌詞の流れに沿ってじっくり考察していきます。
あくまで一人の音楽好きとしての解釈ですが、あなた自身の「受け取り方」を広げるヒントになれば嬉しいです。
- ハンバートハンバート「笑ったり転んだり」とは?朝ドラ『ばけばけ』主題歌の基本情報
- 「笑ったり転んだり」歌詞の意味を一言で言うと
- 歌詞前半の考察:「毎日難儀なことばかり」しんどい日常と心の揺れ
- 歌詞中盤の考察:「日に日に世界が悪くなる」不安な時代をどう生きるか
- 歌詞後半の考察:「黄昏の街 西向きの部屋」が象徴する夫婦のまなざし
- 誰の視点で歌っている?「君」と「僕(私)」の関係性を読み解く
- 朝ドラ『ばけばけ』のストーリーとのリンク―トキとヘブンの人生をなぞる歌詞
- モデルとなった小泉セツ&小泉八雲のエピソードから見る歌詞の背景
- ハンバートハンバートらしい掛け合いボーカルとサウンドが描く「ふたりの生活」
- 「笑ったり転んだり」が今を生きる私たちに届けてくれるメッセージ
ハンバートハンバート「笑ったり転んだり」とは?朝ドラ『ばけばけ』主題歌の基本情報
「笑ったり転んだり」は、夫婦デュオ・ハンバートハンバートがNHK連続テレビ小説『ばけばけ』のために書き下ろした主題歌です。
・NHK朝ドラ第113作『ばけばけ』のオープニング曲
・ドラマは明治期の島根・松江を舞台に、トキと英語教師ヘブンの人生を描くフィクションで、モデルは小泉八雲と妻セツ
・曲は2025年10月1日に配信リリース、その後ベスト盤『ハンバート入門』にも収録
サウンド面では、フォーク/カントリーの雰囲気をまとった軽やかなバンドサウンドに、男女ツインボーカルの掛け合いが乗る、いかにもハンバートハンバートらしいスタイル。MVはアニメーションで、移ろう時代と、そこで生きる人々の日々の暮らしが、あたたかいタッチで描かれています。
「笑ったり転んだり」歌詞の意味を一言で言うと
一言でまとめるなら、この曲は
「世知辛い時代や不安だらけの日常の中でも、大切な“君”と一緒なら、笑ったり転んだりしながら前に進める」
というメッセージの歌だと読めます。
歌詞には「毎日難儀なことばかり」「日に日に世界が悪くなる」といった、今この瞬間を生きる私たちにも突き刺さるフレーズが登場しますが、そこで終わらず、「君のとなりを歩くから」「また今夜も散歩に行こう」と、小さくて具体的な希望が差し込まれます。
大きな夢や劇的な逆転ではなく、隣にいる誰かと支え合いながら、「今日をなんとかやり過ごす」こと。そのささやかさこそが尊いのだ、と歌っているように感じます。
歌詞前半の考察:「毎日難儀なことばかり」しんどい日常と心の揺れ
歌い出しで印象的なのが、「毎日難儀なことばかり」といったニュアンスのフレーズ。
ここには“特別な不幸”ではなく、「ちょっとしたトラブルや悩みが積み重なってしんどい」現代の日常感覚がよく表れています。
さらに、
- 「何をしても思い通りにならない」ような焦り
- それでも「生活しなきゃ」と腰を下ろして現実と向き合う感覚
といった心の揺れが、淡々とした言葉で綴られていきます。
ここで重要なのは、ドラマチックな絶望ではなく、「地味にじわじわ効いてくる」疲れやストレスが描かれていること。
明治の激動期を生きるトキの窮屈さとも重なりますし、現代の私たちの「なんかうまくいかない」「でも仕事(生活)は続く」という手触りにも、そのままつながってきます。
それでも曲調はあくまで軽快。
“しんどさ”を深刻に語り過ぎず、ちょっと肩の力を抜いたテンションで歌っていることで、聴き手は「自分だけじゃないんだ」と少し救われるような感覚を得られるのではないでしょうか。
歌詞中盤の考察:「日に日に世界が悪くなる」不安な時代をどう生きるか
中盤には、ファンの間でも話題になっている「日に日に世界が悪くなる」というフレーズが登場します。
戦争・災害・物価高・格差…といった、ニュースで見聞きする“世界の不穏さ”を連想させる一方で、「それは気のせいかもしれない」「いや、そうじゃないかもしれない」と、どこか自嘲気味な会話も交わされます。
ここで描かれているのは、
- 「世界は悪くなっている気がする」という漠然とした不安
- でも、それを断言してしまうことへのためらい
という、現代人特有の“もやもや”です。
大きな変革や革命を歌うのではなく、
「世界の行く末は簡単には変えられないけれど、それでも目の前のあなたと、なんとか生きていこう」
という、ささやかな覚悟に着地していくのがこの曲の魅力。
Mikikiのコラムでも、この曲が「現代を生きる人々に寄り添う」というニュアンスで紹介されており、まさに“日常の中でのレジスタンス”のような優しい強さを感じさせます。
歌詞後半の考察:「黄昏の街 西向きの部屋」が象徴する夫婦のまなざし
後半のクライマックスでは、「黄昏の街」「西向きの部屋」といった印象的な情景が描かれます。
夕日が差し込む西向きの部屋は、
- 一日の終わり
- 人生のある“時間帯”
- すり減りながらも続いていく生活
を象徴しているようにも読めます。
その部屋で、「壊さぬように戸を閉めて」と歌われるのは、物理的な“戸”以上に、ふたりで作り上げたささやかな生活や関係そのものを、大切に守ろうとする仕草のよう。
そして、「落ち込まないで」「諦めないで」と語りかけ、「君のとなりを歩くから」「今夜も散歩しましょうか」と続く終盤。
ここで提示される希望は、とても“小さい”ものです。
世界は一気に良くならないし、仕事も借金も差別も、急にはなくならないかもしれない。
それでも、黄昏時の街を、今日もふたりで歩くことはできる——。
この、小さくて具体的な希望が、曲を聴き終わったあとに不思議な温かさを残してくれます。
誰の視点で歌っている?「君」と「僕(私)」の関係性を読み解く
「笑ったり転んだり」は、実生活でも夫婦である佐藤良成さんと佐野遊穂さんが、男女それぞれのパートを掛け合いで歌っています。
- 女性ボーカル側:日々のしんどさや不安を素直にこぼす
- 男性ボーカル側:それを受け止めて、少しだけ前を向こうと促す
という構図がはっきりしていて、まるで夫婦やパートナー同士の何気ない会話を盗み聞きしているような親密さがあります。
「君」は決して理想化されたヒロインではなく、弱音も吐くし、時に投げやりにもなる、ごく普通の生活者。
それに対して「僕(私)」も、完璧なヒーローではなく、同じように不安を抱えながら、それでも「隣で一緒に歩く」という選択をし続ける人物として描かれています。
この“対等さ”がポイントで、
「支えてあげる」でも「支えてもらう」でもなく、
お互いに頼り合いながら歩いていく関係性が、自然体の歌い方からも伝わってきます。
朝ドラ『ばけばけ』のストーリーとのリンク―トキとヘブンの人生をなぞる歌詞
『ばけばけ』は、小泉セツをモデルにしたヒロイン・トキが、明治の激動期を生き抜いていく物語です。家の没落、借金、身売りの危機、夫との別れと再会……と、トキの人生は「笑ったり転んだり」の歌詞さながら、波乱続き。
ある考察記事では、
- 「何があるのか どこに行くのか 分からぬまま家を出て」
- 「帰る場所など とうに忘れた 君と二人歩くだけ」
といったフレーズを、トキが極貧状態から英語教師ヘブンの元へと身を寄せ、やがて共に歩むようになる展開に重ね合わせて読み解いています。
ドラマの中で、トキとヘブンはお互い決して“完璧な人間”ではありません。
異文化・異言語・貧しさ・差別…さまざまな壁にぶつかりながら、それでも冗談を言い合い、ときにはケンカもしつつ、隣にいる相手を選び続けます。
オープニングで「笑ったり転んだり」が流れることで、視聴者は物語を
「不安定な時代を、ふたりでよろけながら歩いていくラブストーリー」
として受け取りやすくなり、曲とドラマがお互いを補い合う関係になっていると言えます。
モデルとなった小泉セツ&小泉八雲のエピソードから見る歌詞の背景
『ばけばけ』の主人公夫妻は、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と妻・セツをモデルにしています。
八雲とセツの夫婦には、こんなエピソードが伝わっています。
- 松江での極めて慎ましい暮らし
- 経済的には決して豊かではなかったが、よく二人で散歩をしていたこと
- 文化も言葉も違う二人が、少しずつ歩み寄りながら生活を築いていったこと
こうしたエピソードを知った上で歌詞を読むと、ラスト近くの「今夜も散歩しましょうか」というニュアンスの言葉が、ぐっと立体的になります。
豪華なディナーでも、派手なイベントでもなく、「今日も一緒に歩く」ことを喜び合える関係。
それは、明治の松江を生きた八雲&セツにも、令和を生きる私たちにも通じる“ささやかな幸せ”であり、この曲はそこにそっと光を当てているように思えます。
ハンバートハンバートらしい掛け合いボーカルとサウンドが描く「ふたりの生活」
歌詞の世界観を支えているのが、ハンバートハンバートらしい脱力感のあるサウンドと掛け合いボーカルです。
- 軽やかなアコースティックギター
- ほんのりカントリー風味のリズム隊
- そこに乗る、素朴で揺らぎのある男女ツインボーカル
というアレンジによって、重くなりがちなテーマが、どこか“生活の温度”を保ったまま届いてきます。
特に、男女で歌うパートが細かく分かれていることで、
- 同じ景色を見ていても、感じ方が少し違う
- でも最後には「また一緒に歩こう」とハモっていく
という“ふたりの生活”が、音そのものから伝わってくるのが面白いところ。
ドラマを見てから曲を聴くと、「あ、ここはトキの気持ちだな」「ここはヘブンが言っていそう」と、登場人物のセリフのようにも聞こえてきて、より一層楽しめます。
「笑ったり転んだり」が今を生きる私たちに届けてくれるメッセージ
最後に、この曲が私たちリスナーに投げかけているメッセージをまとめてみます。
- 世界は簡単に良くならない。でも、目の前の生活は続いていく
「世界が悪くなっていく」という感覚は否定されません。むしろ、その感覚を抱えたままどう生きるかが問われています。 - “希望”は、派手な逆転ではなく、小さな「散歩」の中にある
夕暮れの街を一緒に歩く、他愛のないおしゃべりをする——そんな時間の中にこそ、心が折れないための希望が宿る。 - 完璧じゃなくていい。笑ったり、転んだりしながらでいい
タイトルどおり、「笑う」と「転ぶ」はセットです。
上がったり下がったりする心のグラフごと肯定してくれるような優しさが、この曲にはあります。
朝ドラを見ている人にとっては、トキとヘブンの物語をより深く味わわせてくれる主題歌として。
ドラマを見ていない人にとっても、「なんだか最近しんどいな」という気分のときに、ふっと肩の力を抜かせてくれる一曲として。
「笑ったり転んだり」は、そんなふうに、今を生きる私たちの日常にそっと寄り添ってくれる歌だと感じます。
あなたは、この歌詞をどんなふうに受け取りましたか?
ぜひ、自分自身の「笑ったり転んだり」の経験と重ねながら聴き直してみてください。


