あのちゃん（芸名はano）の楽曲「普変」が注目を集めています。
この曲は彼女の2ndシングルで、クリープハイプの尾崎世界観が作詞作曲を手掛けています。
あのちゃんの独特なキャラクターと表現力が融合し、深い思索を促す作品になっています。
私は、内面のもやもやを長文や時には短いフレーズでしか表せませんが、一般的な視点では少々理解しづらいかもしれません。
メッセージを広く伝えるためには、音楽やドラマ、アニメ、映画、そして芸術として昇華させることが最も効果的です。
そうすることで、良質な音楽や面白いドラマとして幅広く受け入れられ、視聴者によっては様々な深さで楽しむことができますし、強引な印象を与えません。
「普変」は多くの解釈が可能です。
「普通とは何かの変化」「外見上は普通でも実は変わっている」「人それぞれに普通の定義は異なる」「無意識のうちに定着した普通の概念を変えよう」という意味が込められているかもしれません。
今回は、曲のイントロから1番のサビまでの歌詞を確認したいと思います。
以下、歌詞を紹介します。
あたしは普通じゃないからとか いかにも健全な感性
そんなのどこにでもあるから大丈夫
こんなのは普通じゃないからって 指差して笑っているだけで終わっていく
それで大丈夫
「人と違うのが普通でずれてるから光るのにその個性を大事に」 とか笑える 神かよ
ムカつく
ちゃんとしてるのにいつもおかしくて それでもこれしかなかった
誰かが言う変なんて せいぜいたかが普通の変だ 怒ってる 別に普通
普遍性の中の個性：『普変』と『正欲』に見る社会的矛盾と自己反省
あのちゃんの楽曲「普変」を聴いて、以前読んだ朝井リョウの作品「正欲」を思い出しました。
楽曲と小説が伝えたいメッセージは似ているように感じます。
それは、「自分の定義する普通とは、実は個人の主観に過ぎない」とか、「社会的に普通とされる枠組みに収まらないことによる排除感」など、社会の矛盾や多様性に対する皮肉や批判を含んでいます。
これは、一見多様性を讃えるかのように見えても、実際には排他的で限られた視野しか持たない現状への怒りとも取れます。
そんな中、「普変」について朝井リョウの「正欲」を引き合いに出し、レビューしている記事を見つけた時は、同じ視点を持つ人がいることに少し嬉しく感じました。
記事からの引用は以下の通りです。
他者を批判することばかりに注力し、自己反省をおろそかにする人への「本当にそれでいいのか？」という問いかけ、多様性を讃える言葉があふれる現代に対する「それで神様にでもなったつもりか？」という冷ややかな視点、そして朝井リョウの「正欲」が示す「他人が異常だと言うその異常も、所詮は普通の異常さ」を表す尾崎の言葉は、anoの表現としても受け止められる
とあります。
サビに隠された真実：「普通」という枠組みの中での苦悩と共感
先程、曲の最初のコーラスの歌詞を共有しましたが、今度はそれぞれのフレーズに対する私なりの説明を加えてみたいと思います。
あたしは普通じゃないからとか、いかにも健全な感性
自己認識として「自分は普通ではない」と言えることは、心理的に健康なサインです。
問題は、自分自身を普通だと思い込みつつ、実際には周りから異質と見られているが、その事実に気付かないケースです。
また、自らの非常識さを公に認める（アウティングする）行為は、自己認識があったとしても大変な勇気が必要で、簡単なことではありません。
「自分はここがおかしいんです」と自ら言えることは、健全な心理と良いメンタルの状態があってこそです。
この歌は、歌詞の冒頭から、「普通ではない」ことを気軽に公言できる人々や文化に挑戦していますね。
そんなのどこにでもあるから大丈夫 こんなのは普通じゃないからって、指差して笑っているだけで終わっていく それで大丈夫
私は、こういった発言をされると、発言者の親切や共感を感じる一方で、深く傷つくことがあります。
たとえば、私がADHDであるために整理や締切の遵守、注意力の散漫、忘れ物が頻繁にあることを話すと、「あ、私も物をよく忘れるわ。もしかしてADHDかもしれない。」という反応を受けることがしばしばあります。
しかし、そのような反応は私にとって痛みを伴います。
その理由は複数あります。
まず、私が経験している不注意は、相手が想像するよりもずっと深刻なものです。
また、「あなたと同じレベルに合わせてあげる」という無意識の優越感を感じさせる言葉に傷つきます。
それでも、同じような挑戦を持つ人たちの中には、自分の「普通ではなさ」をユーモアに変えて、社会的なつながりを築くことができる「超人」もいます。
この歌詞に「笑って」というフレーズが含まれているのは、そうした人々への共感からであり、私も深く共鳴しています。
「人と違うのが普通でずれてるから光るのにその個性を大事に」とか笑える 神かよ ムカつく
人によっては、他人の心の奥深くにある「普通とは異なる部分」を、ただの個性と捉えることがありますが、これは冷ややかな反応に他なりません。
この曲は、そうした高圧的、あるいは他者の違いを単なる個性と片付けてしまうような多様性の賛美に対して、冷静に距離を置いて「笑い飛ばす」姿勢を見せています。
「もしそれができるのなら、あなたは何者ですか？」と問いかけたり、尊敬する人が言った「障害が個性であり、価値があるというのなら、私は神に願いを捧げます」という言葉に込められた絶望感を表現しています。
この曲は、自分を苦しめるすべてに対する強い憤りを「ムカつく」という心の叫びとして表しています。
特に、「First Take」であのちゃんが「ムカつく」と力強く歌い上げる部分は、感情を揺さぶられるものがあり、「その通りだ」と強く共感するほど、その表現力には圧倒されます。
ちゃんとしてるのにいつもおかしくてそれでもこれしかなかった
誰かが言う変なんてせいぜいたかが普通の変だ 怒ってる 別に普通
この考えに基づいて、サビの部分を詳しく見てみると、実際に感じている苦痛が反映されていると感じられます。
「普通」という概念を、「社会や他人によって期待される自分」や「自分自身が理想とする姿」として解釈すると、能力を重んじる現代社会での生きづらさを表しており、多くの人がこれに共感を覚えるかもしれません。
ぜひ、曲を最後まで聴き、深く感じ取っていただけたらと思います。
