Cocco『羽根』歌詞の意味を徹底考察|青い武器と赦しのメッセージを読み解く

Coccoの楽曲「羽根 ~lay down my arms~」は、2001年公開の黒沢清監督映画『回路』の主題歌として書き下ろされました。この楽曲は、静謐なメロディと鋭い歌詞の対比が印象的で、多くのリスナーに深い余韻を残しています。

歌詞の中には、「青い武器」「燃え尽きる羽根」「灰となって空へ帰る」といった象徴的な言葉がちりばめられており、それぞれが強烈なイメージを喚起させます。しかし、それらは単なる詩的な表現ではなく、Coccoが抱える痛み、愛、そして「和解」への祈りを織り込んだメッセージの一部です。

本記事では、歌詞を丁寧に読み解きながら、隠された意味や世界観を考察していきます。


「青い武器」「羽根」「燃え尽きる」――象徴としてのイメージを解く

歌詞の冒頭から登場する「青い武器」という言葉は非常に印象的です。武器とは本来、攻撃や防衛のための道具。しかしCoccoはそれを「青い」と形容しています。青という色には、冷たさ、悲しみ、静けさなどのイメージがある一方で、空や海といった「広がり」や「自由」も連想させます。

この「青い武器」は、彼女自身が持つ痛みやトラウマ、あるいは自衛本能の象徴とも考えられます。それを振るうことで「あなたを撃ち落とした」と歌うのは、他者との衝突や別れを意味しているのでしょう。

また、「羽根は燃え尽きて 空へ帰る」というフレーズでは、「羽根」という自由の象徴が「燃え尽きる」という破壊的なイメージに変わり、それが「空へ帰る」=本来あるべき場所、すなわち“死”や“解放”を意味しているようにも受け取れます。


“lay down my arms”=武器を下ろす意味と歌詞世界の対立構造

楽曲の副題「lay down my arms」は英語で「武器を下ろす」、すなわち“戦いをやめる”という意味があります。この副題を踏まえると、「青い武器」で「あなたを撃ち落とした」ことと対になる感情――後悔、懺悔、そして“赦し”が浮かび上がります。

Coccoの歌詞には、加害と被害、愛と破壊、自由と束縛といった二項対立が織り交ぜられていますが、本作では特に「攻撃と赦し」の構造が際立っています。

武器を下ろすことは、単に戦いをやめるだけでなく、自分の弱さや過ちを認める勇気を意味しているのかもしれません。Coccoはこの歌で「傷つけること」から「受け入れること」への移行を表現しようとしているように感じられます。


“あなた”との関係性――撃ち落とした/撃ち落とされた者達の物語

「あなたを撃ち落とした わたしの青い武器…」という歌詞から見えてくるのは、〈私〉と〈あなた〉の間にある複雑な関係性です。愛するあまりに傷つけてしまった、あるいは大切だからこそ距離を取るしかなかった。そうした葛藤がこの短いフレーズに凝縮されています。

ここでの“あなた”は、恋人、友人、家族など、聴く人によって異なる対象を思い浮かべることでしょう。それこそがCoccoの詩世界の魅力であり、普遍性でもあります。

「撃ち落とした」のは武器による物理的な破壊ではなく、言葉、行動、無関心といった日常の中で起こる精神的な「攻撃」なのかもしれません。そしてそれを悔やむ〈私〉の心の動きが、静かに、しかし深く描かれているのです。


散る/舞い上がる/帰る――時間・儚さ・解放のメタファー

歌詞中に繰り返される「舞い上がる」「灰になって帰る」といった表現は、命の循環や魂の解放を思わせます。「羽根」が象徴するのは自由や希望ですが、それが「燃え尽きて」灰となり、空へ帰るという流れは、一見すると悲劇的ですが、そこにはどこか穏やかな救いも感じられます。

「帰る」という言葉が示すのは、原点への回帰であり、終わりではなく「癒し」の始まり。Coccoの歌詞は、死や別れすらも、感情の一部として受け入れようとする包容力を持っています。

ここには「無常」や「諦観」といった、日本的な美意識も垣間見えるでしょう。


作品背景と制作/発表の文脈――映画主題歌という位置づけから理解する

この楽曲は2001年公開の映画『回路』の主題歌として制作されました。『回路』は“孤独”や“死”をテーマにしたサイコロジカルホラーであり、インターネットと死者の世界が交錯する不穏な世界観が描かれています。

その映画のラストに「羽根」が流れることで、観客の心には、恐怖や絶望の中にあるかすかな希望や救済の光が灯されるのです。

この文脈を理解して聴くと、「羽根」は単なるラブソングや内省の曲ではなく、社会的孤立、人間関係の断絶、そして「もう一度、誰かに会いにいく」ための静かな祈りであることが見えてきます。


Key Takeaway

「羽根 ~lay down my arms~」は、Coccoの内面から絞り出されたような深い感情と詩的な表現に満ちた楽曲です。「青い武器」「燃え尽きる羽根」「帰る」という象徴的なキーワードを通じて、人間関係の痛み、赦し、そして魂の解放を描いています。

副題「lay down my arms」が示すように、この歌は“戦いをやめる”こと――つまり、自らの弱さや傷を受け入れる勇気への賛歌とも言えるでしょう。リスナーの人生に重なる部分が多く、それぞれの“あなた”との物語を重ね合わせることで、より深い共感を得られる作品となっています。