【歌詞考察】BEGIN『ハンドル』に込められた意味とは?夫婦の記憶と人生の選択を読み解く

1. 「ハンドル」ってどんな曲?〜リリース背景とNHKでの反響

BEGINの「ハンドル」は、2022年にNHKラジオ「深夜便のうた」として放送された楽曲で、同年の配信限定シングルとしてもリリースされました。「深夜便のうた」は、毎年季節ごとに心に染みる楽曲を選定し、全国のリスナーに深夜のひとときを届けるプログラムで、「ハンドル」はその中でも特に感動を呼んだ一曲として評価されています。

この楽曲では、BEGINならではの温かいメロディと、人生のある瞬間を切り取ったようなリアルな歌詞が特徴です。表面的には日常的な描写ながら、人生の選択や、失われた時間への思いが織り交ぜられています。


2. 登場人物とストーリー構成を整理する

「ハンドル」の歌詞には、夫婦と思われる2人の存在が描かれています。妻は実家の居酒屋を引き継ぎ、夫は釣りに夢中な生活を送りながら、どこか過去に縛られたままのようにも見えます。夫婦の間にはある種の「選ばなかった道」への思いがあり、日常の会話や仕草の中に、過去の記憶が滲んでいます。

特に印象的なのは「どっちに行くか決めなさいよ」「ブーンブーンブーン今日はどこまで行きますか?」という妻のセリフ。これは車の運転の場面を想像させると同時に、人生の選択を促す象徴的な言葉として機能しています。


3. 「ハンドル」モチーフの象徴性とは?旅・記憶・選択肢を映す視覚イメージ

タイトルにもなっている「ハンドル」は、単なる車のハンドル以上の意味を持ちます。曲中に何度も登場する“ブーンブーン”という擬音語は、実際の車の走行音であると同時に、過去や思い出の中を移動する心の旅を暗示しています。

「ハンドルを握る」行為は、人生のかじ取りを自分自身の手で行うという決意の象徴とも取れます。しかしこの曲では、それを“決められない”心情や、“壊さなくてもいい”現状への肯定感と共に描いており、あえて選ばない選択、今ある関係性を尊重するというメッセージを感じ取ることができます。


4. 歌詞に込められた沖縄/島の記憶と郷愁の情景

BEGINといえば、沖縄・石垣島をルーツに持つアーティスト。彼らの多くの楽曲には、島の風景や文化が自然に織り込まれており、「ハンドル」も例外ではありません。

歌詞中に登場する「実家の居酒屋」「あの浜辺」「母の思い出」といった要素は、南国のゆったりとした空気感と、家族・郷里へのノスタルジーを感じさせます。時間がゆっくり流れる場所でこそ、人生の選択や後悔、そして赦しが浮かび上がるという構造は、島という舞台ならではの情感を強く印象づけています。


5. 「ブーンブーンブーン 今日はどこまで行きますか?」の問いに込められたメッセージ

このフレーズは、楽曲中に繰り返される最も印象的な言葉のひとつです。一見すると軽快で明るい調子の問いかけですが、その裏には「今日一日をどう生きるか」「どんな選択をするか」という深いテーマが隠されています。

しかもこの問いは、他人からの一方的な押し付けではなく、あくまでも優しく寄り添うような問いかけである点が秀逸です。それは、相手の選択を尊重し、過去の過ちや悔いすらも包み込むような大きな愛情が込められているからです。

このフレーズに含まれる「どこまで行くか」というのは、距離ではなく心の在り方を問うものであり、どんなに小さな一歩でも、それを認め合う温かさがBEGINらしさを象徴しています。


総まとめ

BEGINの「ハンドル」は、日常に潜む人生の選択や、過去への悔い、そして今の関係を大切にする思いを優しく描いた名曲です。象徴的な「ハンドル」のモチーフと、「今日はどこまで行きますか?」という問いかけにより、聴く人それぞれの経験と重なり合う、深い感動を与えてくれます。

沖縄の空気感や家族への思いを背景に、選ばなかった人生も「壊さなくていい」と言えるような、静かな肯定の歌。それがこの「ハンドル」という作品の核心なのです。