TVアニメ『呪術廻戦 懐玉・玉折』のエンディングとして流れる、崎山蒼志「燈(あかり)」。
静かなメロディと柔らかい歌声なのに、歌詞をよく読むと胃のあたりをぎゅっと掴まれるような、重くて苦い感情が流れ込んできます。
検索からこの記事に辿り着いた方は、
- 「“僕の善意が壊れてゆく”って、結局どういう心境?」
- 「夏油目線ってよく言われるけど、どこが夏油っぽいの?」
- 「サビの“割に合わない”感じが刺さる…あれは何を歌ってる?」
といったモヤモヤを抱えて、「崎山蒼志 燈 歌詞 意味」と調べたのではないでしょうか。
この記事では、アニメ本編の文脈や、崎山蒼志のインタビュー内容も踏まえながら、「燈」の歌詞をパートごとに丁寧に読み解いていきます。
『呪術廻戦』ファンはもちろん、歌だけを聴いて好きになったという方にも、歌詞の奥に灯る“小さな光”が伝わるように解説していきます。
『燈』とは?崎山蒼志×『呪術廻戦 懐玉・玉折』ED曲の基本情報
「燈」は、TVアニメ『呪術廻戦』第2期「懐玉・玉折」のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲です。物語の中心にいるのは、若かりし五条悟と夏油傑。特に“闇落ちする側”である夏油の心情に強く寄り添ったEDとして、多くのファンに受け止められています。
崎山蒼志本人もインタビューで、「夏油傑をイメージして書いた」「原作をかなり読み込んで制作した」と語っており、単なるタイアップではなく、キャラクター研究の先に生まれた曲であることがわかります。
とはいえ、歌詞の視点は“夏油だけ”に固定されているわけではありません。夏油の揺らぎや後悔を軸にしながらも、
- 五条悟との関係性
- 彼らを取り巻く人々の想い
- 崩れていく理想と、それでも消えない優しさ
といった要素が、曖昧な一人称と二人称のあいだに溶け込んでいます。
そのため、「呪術廻戦」の物語を知らなくても、“報われない善意”や“伝えられなかった言葉”といったテーマとして、自分自身の記憶に重ねて聴くことができる構造になっているのが「燈」の大きな魅力です。
「僕の善意が壊れてゆく前に」──冒頭歌詞が示す夏油傑の後悔と崩壊の予兆
「燈」の冒頭に置かれた「僕の善意が壊れてゆく前に、君に全部告げるべきだった」というフレーズは、曲全体のテーマを一気に提示する、とても重要な一文です。
ここでいう“善意”は、夏油が長らく支えにしてきた信条──「非術師を守るべきだ」という強い使命感のことだと考えられます。呪霊と戦い続ける中で、非術師の醜さも理不尽も目の当たりにし、それでも「守らなきゃ」と自分を支えていた最後の柱。それが“壊れていく”ことを、本人ははっきりと自覚してしまっている。
「君に全部告げるべきだった」の“君”は、多くの考察で五条悟だと解釈されています。夏油にとって「唯一対等に話せる存在」であり、「本音をさらけ出せたはずの相手」が五条だからです。
- 非術師を守るという理想が揺らいでしまっていること
- 現場で積み重なった矛盾や怒り、徒労感
- それでも仲間としての五条を大切に思っていること
そういった“全部”を、壊れてしまう前に伝えたかった。でも、結果としてそれは叶わなかった。その“言えなかった過去”への悔いが、冒頭から重くのしかかってきます。
一部のファンの間では、「この曲は夏油の“死後の独白”なのではないか」という解釈も語られています。すでに全てが手遅れになった後だからこそ、「告げるべきだった」と過去形で振り返るしかない――そんな視点で読み解くと、余計に胸が痛くなります。
サビに込められた「割に合わない」感情とは?正義感と闇落ちのあいだを考察
サビで繰り返される「なんだか割に合わない」というニュアンスの言葉は、「燈」の中でも特に多くのリスナーの胸に刺さっているフレーズです。
夏油の立場から見ると、“割に合わない”と感じる瞬間は山ほどあります。
- 命を削って呪霊を祓っても、非術師からは理解も感謝もされない
- 理想のために戦っているはずなのに、救えない命の方が多い
- 自分たちだけが汚れ役を引き受けているような感覚
「これだけ傷ついて、これだけ失って、それでもなお守るに値する世界なのか?」
そう問い続けた末に「割に合わない」と感じてしまうのは、ある意味では当然のこととも言えます。
しかし、「割に合わない」と嘆きながらも、夏油はすぐには“完全な悪”には振り切れません。どこかで、まだかすかな希望や愛着を捨てきれない。
- 五条との思い出
- 共に戦った仲間たちとの時間
- 守ろうとしてきた人々の笑顔
そうしたものへの愛が残っているからこそ、「割に合わない」と感じながらも、完全には開き直れず、長くぐらつき続けるのです。
サビは、彼の中の「正義感」と「闇落ち」の真ん中で揺れているニュアンスを、とても日常的な言葉で表現している部分だと言えるでしょう。だからこそ、『呪術廻戦』を知らないリスナーにとっても、「頑張ってきたはずなのに、報われている実感がない」という自分自身の感覚と、自然に重ね合わせやすいのだと思います。
ラップパート「故に月は暗い」を徹底解釈──ぐるぐるした思考と孤独のイメージ
「燈」で特徴的なのが、後半に現れるラップパートです。ここでは、説明的な言葉から一歩離れた、イメージの連鎖のようなフレーズが畳み掛けられます。その中に登場する「故に月は暗い」というラインは、多くの考察サイトやファンが注目している印象的な言葉です。
“月”はしばしば、太陽(=圧倒的な存在)の光を受けて輝くものとして描かれます。『呪術廻戦』に重ねて読むと、
- 太陽:世界最強クラスの呪術師・五条悟
- 月:その隣に立ってきた夏油傑
という図式が浮かび上がります。五条の強さや眩しさが増すほど、夏油自身は「光を反射しているだけの存在」に感じられてしまう。
そんな“月”が「暗い」と歌われるのは、
- 五条という“太陽”の光が自分には届かなくなってしまった
- 自ら五条から離れる道を選んでしまった
- それによって、自分自身の存在意義も見失いつつある
という、夏油の極端な孤独と自己否定を象徴しているように読めます。
また、ED映像では、魚や水、揺らめく光と影といったモチーフが繰り返し登場します。考察サイトでも指摘されているように、これらは“ぐるぐると同じ場所を回り続ける思考”や、“浮上できない心”の比喩として解釈できます。
ラップパート全体は、夏油が頭の中で延々とこねくり回している理屈や言葉の片鱗であり、その果てにぽつりと落ちるのが「故に月は暗い」という一文。
どれだけ言葉を重ねても、彼の結論は“暗さ”の方へと傾いてしまう――そんな逃れられない心の流れが、ラップのリズムと共に描かれているように感じられます。
「傷ついてる心がわかるのに」──歪んだ優しさと共依存的な愛としての『燈』
歌詞の中には、「傷ついてる心がわかるのに」といった、“誰かの痛みを理解しているのに、うまく向き合えない”ニュアンスのフレーズがいくつも散りばめられています。
夏油は、決して“他人に無関心な悪役”ではありません。むしろ、人一倍他人の痛みに敏感なタイプであり、その優しさゆえに、非術師を守る道を選び、そして同じ優しさゆえに絶望していく人物です。
その優しさが、ある種の“共依存”のような形で描かれているのが「燈」の面白いところです。
- 相手の傷をよく知っているからこそ、すべてを背負ってあげたくなる
- その結果、自分自身の心がすり減っていく
- それでも相手から離れられないし、離れることが「裏切り」だと感じてしまう
この構図は、夏油と五条にも重なるし、夏油と“守るべき人々”との関係にも重なります。
“灯り”を意味するタイトル「燈」は、そうした歪んだ優しさの象徴でもあります。
他人を照らすための光であるはずなのに、燃料は自分の心や命。照らせば照らすほど、自分の方が消耗していく。
それでもなお、完全には消えない小さな光としての「燈」。
それは、たとえ闇落ちを選んでしまった夏油の中にも、最後まで残っていた“誰かを想う気持ち”そのものだと言えるのかもしれません。
崎山蒼志のコメント・インタビューから読み解く『燈』制作意図と“裏テーマ”
「燈」をより深く理解するためには、崎山蒼志本人の言葉もとても参考になります。
インタビューでは、崎山は「原作をめちゃくちゃ読み込んでから書いた」「夏油さんのどんな部分が魅力かを考えながら作った」と語っています。
つまり、「燈」は夏油というキャラクターの“設定”ではなく、彼の“魅力”──優しさや理想、その崩れ方に焦点を当てて作られた曲だということです。
また、別のメディアでは、「燈」には自分自身の感情も重ねていると話しています。人との繋がりや、自分にしか感じられない喜びといった、崎山自身が大切にしているテーマが、夏油の物語と共鳴しているのだと。
この“夏油+崎山”という二重構造が、「燈」の歌詞に独特の普遍性を与えています。
- 夏油としての言葉として読める
- しかし同時に、20代の若いアーティスト・崎山蒼志の本音にも聞こえる
- だからこそ、アニメを知らないリスナーにも深く刺さる
さらに、リスアニ!のインタビューでは、「懐玉・玉折」にきちんと寄り添いつつも、そこから滲み出るような“裏テーマ”も意識していたことが語られています。
たとえば、
- 報われない青春
- 分かり合えないまま想い合う関係性
- それでも消えない小さな光
といった要素は、『呪術廻戦』の物語を超えて、現実の私たちの人間関係にも当てはまるものです。「燈」は、その両方を繋ぐ接点として設計された曲だと見ることができます。
アニメファン以外にも響く『燈』──私たちの日常に灯る小さな光というメッセージ
「燈」は『呪術廻戦』とのタイアップ曲でありながら、アニメファンだけに閉じた楽曲ではありません。ストリーミング再生は1億回を突破し、多くの人の日常のプレイリストに溶け込む曲となっています。
その理由は、「燈」が扱っている感情が、あまりにも“普遍的”だからです。
- 誰かのために頑張ってきたのに、報われている気がしない
- 本当は全部話したかったのに、言えないまま関係が壊れてしまった
- 相手の痛みがわかるのに、どう向き合えばいいのかわからない
- それでも、小さな光だけは手放したくない
こうした感情は、必ずしも呪術師でなくても(笑)、誰もが一度は味わったことがあるもの。
「燈」は、夏油傑という一人のキャラクターの物語を通して、“報われなさ”や“それでも続いていく日々”を描きながら、聴き手それぞれの中にも確かに存在する“かすかな灯り”をそっと指し示してくれる曲です。
落ち込んだ夜、理不尽さに疲れた帰り道、なんとなく気分が晴れない朝――そんなタイミングで「燈」を聴くと、自分の中にもまだ消えていない小さな善意や優しさがあることを、かろうじて思い出させてくれます。
最後にひとつだけ。
「燈」は、歌詞単体で読むよりも、ぜひアニメ『懐玉・玉折』のED映像とセットで味わってほしい楽曲です。映像の色彩やモチーフと歌詞を行き来しながら、自分なりの“意味”を見つけていく――その余白こそが、この曲の大きな魅力なのだと思います。


