PEOPLE 1『DALMATIAN』歌詞の意味を考察|白と黒のまだら模様に隠された“さよなら”の真意

DALMATIAN(読み:ダルメシアン)は、PEOPLE 1が2024年12月25日に発表した楽曲です。作詞・作曲をDeuが担い、その象徴的な言葉遣いや感覚的な描写が、聴き手に強い印象を残しています。たとえば「ハイファイな未来でもうバイバイしよう」「味のしないコーヒー」「モスクワの海か 愛なんてものは」など、日常の断片を切り取りながら、別れやすれ違いの情景を詩的に浮かび上がらせる歌詞が印象的です。

本記事では、この歌詞の中に散りばめられた「日常的モチーフ」「メタファー」「構成仕掛け」「象徴性」などの要素を丁寧に読み解り、「別れ/距離/残響」といったテーマを浮かび上がらせていきます。音楽好きの方、歌詞の深読みが好きな方に向けて、歌詞をただ読むだけでなく“感じる”ことを意識して進めていきます。


リリース情報とMVの見どころ:制作クレジットと映像の質感から読み解く

まず、歌詞の読み解きに入る前に、曲そのものの背景を抑えておきましょう。『DALMATIAN』は2024年12月25日リリース。作詞・作曲:Deu、編曲にはDeuと田中信昭(Nobuaki Tanaka)が携わっています。

このようなクレジットを押さえることで、歌詞の世界観がいかにして構築されたかを想像しやすくなります。たとえば、編曲段階で「ポップで跳ねるビートに、どこか透き通ったシンセや歪んだギターを重ねる」という手法が採られていれば、歌詞内の“甘さ”と“冷たさ”の対比が音像にも反映されている可能性があります。実際、複数の考察では「ポップでスキップできるさよならソング」といった印象も共有されています。

また、MV(ミュージックビデオ)やジャケットデザインにも注目しましょう。曲名「DALMATIAN(ダルメシアン)」という言葉が示すように、「白と黒」「まだら」「コントラスト」という視覚イメージがキービジュアルとして用いられている可能性があります。これにより、歌詞の中で提示される「明/暗」「接近/距離」「理想/現実」といった二項対立が、音・映像・言葉の三位一体で表現されていることが想像できます。

このように、リリース背景や映像・ビジュアルの文脈を押さえることで、歌詞の描き出す世界が“偶然の断片”ではなく、一貫した作品世界として理解しやすくなります。次の段落からは、歌詞の中身(言葉遣いや描写)を深掘りしていきましょう。


日常断片×五感メタファー――“温度の消失”で描く関係のすれ違い

『DALMATIAN』では、日常的な行為や感覚(飲む、齧る、水、コーヒー、ニュースなど)を通じて、関係の温度が徐々に失われていく様が描かれています。例えば、歌詞冒頭には「品のないニュース/味のしないコーヒー/人の気も知らないで/困らせようとしている」という描写があります。

これらは一見、普通の生活風景ですが、「味のしないコーヒー」「スローモーションな生活」という表現には、感覚や時間の鈍化=感情の疲弊が反映されています。つまり、関係が続いているにもかかわらず、二人の間には活動や営みの“温度”が感じられなくなっているのです。考察サイトでも「生活が色褪せ、温度を失っていく過程を具体的な像として提示している」と捉えられています。

特に「明け方 目を覚まして/冷たい水を飲んで/くしゃくしゃのパン齧って」という時間帯・行為の具体性は、別れ前夜あるいは終わりの直前の“冷え”を象徴します。ここでは“夜→朝”という移行が「もう元には戻れない時間軸」の合図として機能しており、冷たい水・くしゃくしゃパンという雑な食事描写が、心象を裏付けています。

さらに、「モスクワの海か 愛なんてものは/零しても泣かないと決めたのに」という一節では、”異国”という場所設定が登場し、“愛”という抽象概念が物理的に遠く・存在しづらいものとして提示されています。これにより、感情の喪失や断絶が“距離”としても成立していることが示唆されます。

このように、歌詞は大きなドラマティックな場面を描くのではなく、五感に訴える断片を通じて「すれ違っていく関係」そのものを静かに、しかし鮮明に浮かび上がらせています。こうした描き方が、聴き手自身の記憶や感情に直接呼びかける効果を高めていると言えるでしょう。


「ポップに跳ねる別れ歌」――明るいトラックとほろ苦い歌詞の反転構造

複数の考察では、『DALMATIAN』を「ポップでスキップできるさよならソング」と捉える視点があります。 一方で、その歌詞内容は“別れ”や“終わり”を受け入れようとする苦悩、感情の摩耗、距離感などを描いており、音と歌詞のギャップが印象深い構造を持っています。

このような「明るいトラック+ほろ苦い歌詞」の組み合わせは、聴き手に「耳心地の良さ」と同時に「胸のざわめき」をもたらします。例えば「ハイファイな未来でもうバイバイしよう」というサビの言葉。音としては軽やかに“バイバイ”を受け入れるトーンですが、その裏側には「甘い理想論じゃ/余計なことばかり考えてしまうから」と、捨て切れない思考が残っています。

この反転構造が意味するのは、たとえ別れを選んでも、その感情の深さ・残響は消えず、むしろ「明るく終わるための演出」が背後で機能しているということです。音楽的にはキャッチーで聴きやすいものの、歌詞に目を向ければ「このままではいられない」と感じる不安や、自分自身を説得しなければならないような決意が描かれています。

また、「ずっとハングオーバーさ」という表現も印象的です。楽しんだ翌日の虚しさ・残滓を“ハングオーバー”という言葉で描き、曲調とのアンバランスさが“終わった後”の余韻を増幅させています。

こうした構造を意識すると、歌詞だけを“別れ歌”として聴くのではなく、「別れた後の関係・思考・時間」をも含んだ複層的な歌であることが分かってきます。軽やかな音に乗せられながら、聴き手は無意識にその深層に触れているのです。


イントロ再提示や展開の“仕掛け”が示す感情曲線:構成分析で読む物語性

歌詞を構成という視点から読むと、『DALMATIAN』には感情の起伏や展開を描く巧みな仕掛けが存在します。たとえば、冒頭サビ「ハイファイな未来でもうバイバイしよう」というフレーズが曲の冒頭と終盤に繰り返されており、その間に日常描写・回想・問いかけが挟まれています。

この反復構造により、リスナーは“出発/決断”→“振り返り”→“再提示”という感情曲線を無意識に辿ることになります。初めに提示される別れの宣言が、中間で揺れを伴い、最後に改めて提示されることで「戻れない」「もう別れを選ぶしかない」という結論へと導かれています。まさに物語の章構成のようです。

さらに、「近づきたくて/追いつけなくて」という対句が歌詞中盤で使われ、その直後に「意味ないとこばっかりなんか/ぐるぐる回っているんだ」という描写が続きます。ここでは“近づきたい/追いつけない”という緊張関係が一種のループ(ぐるぐる)として描かれ、物語を停滞から動きへと移行させる役割を担っています。

また、時間帯・環境変化の挿入(「明け方 目を覚まして」など)も構成上のターニングポイントとして機能します。この“朝”という時間描写が、「夜に向かっていた/夜明けを迎えた」という内的変化を象徴し、それまでの閉塞感からの脱出を暗示しています。

こうした構成の意図的な設計が、「ただ別れる」だけの歌ではなく、「別れを選ぶまでの過程」「別れた後にも残る感情」を含んだ物語を成り立たせています。構成を意識して歌詞を追うことで、聴き手はより深く作品の世界に没入できるでしょう。


タイトル「DALMATIAN」が示す“白と黒のまだら”――二項対立と曖昧さの象徴性

最後に、タイトル「DALMATIAN(ダルメシアン)」という言葉が持つ象徴性を読み解ってみましょう。ダルメシアンといえば「白地に黒いまだら模様」の犬種が思い浮かびます。この“白と黒のまだら”というビジュアルは、明/暗、理想/現実、近づきたい/離れていく、愛/喪失といった二項対立をそのまま内包していると考えられます。

歌詞の中には「ハイファイな未来でもうバイバイしよう」という鮮明で明るい理想と、「味のしないコーヒー」「ずっとハングオーバーさ」といった鈍く曖昧な後悔・残響が混在しています。これは、まさに“白と黒”のまだらのように、感情の中に明確な境界があるわけではなく、交錯・渾然としているということを示しているように思えます。

また、“まだら模様”は「一様ではない」「均質ではない」という意味も加わります。関係性そのものが単純な別れ/拒絶という構図ではなく、「愛は宿っていたのに」「戻れやしない」など、複数の感情が重なり合い、矛盾を孕んでいる。歌詞中の「哀れみを愛と勘違いしていたんだろう」という言葉も、こうした曖昧性を示す一節です。

さらに、ダルメシアンのまだら模様が「犬種」という記号を超えて“模様”そのものとしてミメーシス(模倣)されているとすれば、タイトルは「まだら模様のような感情の軌跡」をイメージさせるものと言えます。白黒がくっきり分かれているわけではなく、グレーな領域、境界の揺らぎの中で関係が終わりを迎える、その様子を“ダルメシアン”という言葉で象徴化しているのではないでしょうか。

こうして、タイトルに込められた象徴性を押さえると、歌詞の断片ひとつひとつが「白/黒」「明/暗」「接近/距離」という対立構造と、同時にその対立が交錯している“まだら模様的”な情感を描いていることが見えてきます。作品全体を通して、感情の均一化を拒む姿勢が、かえって聴き手の内側に残る余白を開いているのです。


結びに代えて

『DALMATIAN』は、「もう別れを選ぼう」という宣言を軽やかに歌いながらも、その裏側には温度を失った日常、近づけない距離、残り香のように残る思い出、そして白と黒のまだら模様のような感情の重なりが存在します。言葉遣い・構成・象徴性という多層構造を意識して聴き返してみることで、これまで気づかなかった味わいが浮かび上がるはずです。ぜひ、歌詞とともに楽曲そのものを改めて聴き、感じてみてください。