1990年代後半、日本の音楽シーンに鮮烈な印象を残したバンド「JUDY AND MARY」。彼らの楽曲の中でも「PEACE」は、バンド後期にリリースされたバラード調のナンバーであり、熱心なファンの間でも評価の高い一曲です。しかし、その歌詞には直接的なメッセージが少なく、聴き手の感情に委ねられている部分も多いため、解釈に深みがあります。本記事では「PEACE」の歌詞を丁寧に読み解きながら、その意味や背景について考察していきます。
1. 歌詞冒頭から読み解く “つないだ手と手” の意味
「つないだ手と手 あたたかいだけで涙が出た」
この冒頭の一節は、シンプルながら非常に感情的なフレーズです。ここで描かれているのは、言葉ではなく“触れ合い”によって伝わる優しさや愛情。それは、傷ついた心をそっと包み込むような安心感とも解釈できます。誰かとの関係性が、冷たい現実の中で唯一の救いになっている――そんな印象を与える描写です。
この「つないだ手」は比喩的にも解釈でき、単なる恋愛関係だけでなく、友情や家族など、広い意味での“人と人のつながり”を象徴しているとも言えるでしょう。
2. 「揺れるのは君のプライド だましていてよ」――このフレーズが示すもの
曲中で印象的なのがこの一節。
「揺れるのは君のプライド だましていてよ 心の中だけでも」
これは、相手の心の揺らぎや弱さを受け止めながらも、その不安を表には出さないでほしい、という複雑な感情を吐露したフレーズです。「だましていてよ」という言葉には、真実を知ることの痛みから逃れたいという気持ち、つまり“嘘でもいいから安心をくれ”という願望が滲んでいます。
これは、愛情の一方通行や、関係性の不均衡から来る切なさを描いているとも考えられます。聴き手自身の恋愛経験とリンクすることで、共感を呼ぶポイントとなっています。
3. バラード調の曲調と歌詞の“痛みと通過”の関係
「PEACE」はアップテンポなロックが多かったJUDY AND MARYの中では珍しい、穏やかなテンポと切ないメロディが特徴のバラードです。この静けさが、歌詞に込められた「痛み」や「哀しみ」をより際立たせています。
歌詞全体を通して感じられるのは、“受け入れなければならない別れ”や“どうしようもない現実”と向き合う姿勢。その中で唯一の癒しとなるのが、「手と手」や「笑顔」など、人との心のつながりです。曲調が持つ優しさと儚さが、歌詞の持つ「通過儀礼的な感情」に寄り添い、深い余韻を残します。
4. リリース時期・バンド状況から見る「PEACE」の背景
「PEACE」は、JUDY AND MARYが解散を発表する前後にリリースされたシングル「そばかす」や「くじら12号」などと比べても、より内省的な内容です。この時期、バンド内での方向性の違いや個々のソロ活動への移行が徐々に進んでいた時期でもあり、メンバー個人の心理状態が反映されていた可能性も否めません。
特にYUKIの歌詞には、個人としての孤独や葛藤、そしてそこから得た気づきが色濃く表れていることが多く、「PEACE」もまたその延長線上にある楽曲と言えます。
5. 聴き手が感じる「通り過ぎる悲しみ=ピース」のメッセージとは
タイトルの「PEACE」は、「平和」というよりも、「静けさ」や「穏やかさ」といったニュアンスで受け取ることができます。また、悲しみや痛みを“通り過ぎた後”に得られる一種の「静寂」を指しているのかもしれません。
失恋や別れ、喪失を経験した後の心に訪れる、感情の波が引いた“あとの静けさ”。そこには喪失感もあるけれど、同時に“生きていくための落ち着き”も宿っている。そういった心情の変化を「PEACE」という言葉で包み込んだのではないでしょうか。
聴く人の人生経験に応じて、違った“ピース”が浮かび上がる。その普遍的な余韻こそが、この楽曲の最大の魅力です。
Key Takeaway
「PEACE」は、直接的な愛の言葉やメッセージよりも、感情の“間”を描くことで、聴き手自身の記憶や感情を呼び起こす力を持った楽曲です。YUKIの繊細な言葉選びと、JUDY AND MARYの成熟したサウンドが織りなすこの曲は、“痛みを越えた先の穏やかさ”を感じさせてくれます。歌詞をじっくりと味わうことで、私たちそれぞれの“ピース”に出会えるかもしれません。


