「にゃんゴロ」「25時半・28時半」──歌詞に散りばめられた語呂と深夜の情景
「Kitchen」の歌詞の中でまず目を引くのが、「にゃんゴロ」や「25時半」「28時半」といった、日常的でありながら時間の感覚を超えたワードたちです。
「にゃんゴロ」という語は、猫の鳴き声と擬音が混ざったようなユニークな表現。これが深夜のキッチンの静けさの中に響いていると考えると、一気に情景が浮かび上がります。また「25時半」「28時半」といった実際には存在しない時間表現は、リスナーを“普通ではない時間帯”──つまり、現実と夢の境界、フィクションの入り口へと導く装置として機能しています。
このような語感遊びは04 Limited Sazabysの持ち味であり、夜の空気感や非日常の感覚を的確に表現しているのです。
“かわいい”だけじゃない?GEN自身が語る「夜のリアル」と「Kitchen」の意図
ボーカルのGENは、「Kitchen」についてのインタビューの中で「かわいい曲」と表現しています。しかし、単にかわいらしいだけでなく、その裏には深夜特有の“リアル”な感情が込められていることも明かしています。
深夜、日常の喧騒が静まり返ったキッチンでふと感じる孤独や、妙なテンション、過去の思い出。GENは「夜になるとちょっと気持ちが高ぶったり、逆に落ち込んだりするよね」という感覚をベースに、「Kitchen」を制作したと語っています。
つまり、この曲の「かわいさ」は“演出”されたものではなく、誰しもが経験したことのある「夜の感情」の延長線上にある“リアルなかわいさ”なのです。
「ネガティブモンスター」との闘い──イヤな感情を吹き飛ばす“没頭=フィクション”という処方
「Kitchen」には「アイツが来る」「ミステリー必修のミッション」「ぶっ倒す」など、何かと闘うような言葉が散見されます。リスナーによっては、これを“ネガティブモンスター”と呼ぶ心の中の不安やストレスに喩えて捉える人もいます。
日常の中で突如として現れる気分の落ち込みや自己嫌悪。それを撃退するために必要なのは、「没頭」や「フィクション」への逃避である──というのがこの曲の隠されたメッセージの一つではないでしょうか。
“現実から逃げる”のではなく、“自分を癒すための逃避”を認める。これは現代を生きる多くの若者にとって共感を呼ぶ処方です。
歌詞フレーズの意味を追う:ミステリー/ヒステリー、秘密基地、逃げ場の確保とは
歌詞に登場する「ミステリー」「ヒステリー」「秘密基地」「逃げ場の1つや2つくらいは確保して」などのフレーズは、表面的には楽しげですが、裏には現実の苦しみやストレスと対峙する視点が隠れています。
例えば、「秘密基地」は幼少期の遊び場のようでいて、現実からの避難所でもある概念。社会的な役割や責任から解放され、自分のままでいられる空間を指しているとも解釈できます。
また、「逃げ場の1つや2つくらいは〜」というラインには、“無理をしないで良い”という優しさが込められており、聞く人に寄り添うようなメッセージとなっています。
「Kitchen」で描かれる“フィクション”と現実──現実逃避の先にある自己創造
「Kitchen」のクライマックスに近づくにつれ、「フィクションに潜り込みたい」「フィクションで泳ぎたくなる」という歌詞が登場します。これは、現実から完全に目を背けるのではなく、一時的に“もう一つの世界”に没頭することで心の安定を保つ、という提案でもあります。
その“フィクション”とは、音楽であったり、漫画、ゲーム、創作活動、人との関わりかもしれません。大切なのは、そこから得たエネルギーで再び現実に戻ってくること。
この曲は、逃げてもいい、でもそれは自己を守る手段であり、次の一歩を踏み出すための“準備”でもある──というポジティブな意味合いを含んでいます。
まとめ:夜のキッチンが描き出す、自分との向き合い方
「Kitchen」は一見すると軽やかで、ポップで、かわいらしい曲ですが、その内側には“夜の孤独”や“現実との向き合い方”、そして“逃避による再生”といった、深いテーマが込められています。
音楽を通じて、リスナーそれぞれが自分自身の“キッチン”を見つけ、心を整理する時間を持つ──そんな曲と言えるでしょう。