【ネタバレあり】漫画「チ。―地球の運動について―」の批評と感想。

紀元前4世紀から16世紀までの間、一般的に受け入れられていた視点では、宇宙の中心は地球であり、これを示す考え方は「天動説」です。
ところが、16世紀以降、「地動説」という概念が提唱され、これによれば宇宙の中心は太陽であり、地球がその周りを動くとされました。
この新たな視点は、カトリック教会の教義解釈との関係で、歴史的な弾圧の対象となることとなりました。

「チ。―地球の運動について―」は、特定のジャンルに分類するとすれば、「歴史漫画」に該当すると考えられます。
しかし、歴史上の人物は登場しない一方で、当時の宗教的な信念が背景にありつつも、科学と人間の好奇心が巧みに組み合わさった物語が展開されています。
この漫画作品は、独特の構成を持つものであり、その点で漫画の中では珍しい存在と言えるでしょう。

この作品は他の漫画には見られない独自の魅力を持ち、その面白さを言葉で説明するのは難しいですが、私の率直な感想を述べると、「人々が内に秘める知的な好奇心を刺激する魅力」が溢れており、漫画というメディアを通じてこの感覚を味わったのは初めてのことかもしれません。

あらすじ

孤児として生を受けたラファウは、合理的な生き方を信条とし、聖職者の養父に引き取られて勉学に励みました。
その結果、12歳の若さで大学に合格するほどの優れた才能を持つ一方、信仰に疑問を抱き、天文学に深い関心を抱くようになります。

当時、天文学は「禁じられた研究」とされ、その研究に取り組むことは異端視される危険な行為でした。
ある日、ラファウはフベルトという異端者として扱われた人物と出会います。
その出会いを通じて、フベルトが提唱する「地動説」について聞く機会を得ます。
この出会いがきっかけで、ラファウは従来の天動説の矛盾に気づき、夜空の観測の結果を通じて、「地動説」が直感的に正しいと確信するようになります。

ラファウは以前から、天動説では星々の動きに規則性がなく「美しくない」と感じていました。
しかし、地動説はこれらの矛盾を解決し、宇宙の秩序と美しさを説明することができると感じたのです。
その結果、カトリック教会の教義に反する立場を取る覚悟を決め、地動説を支持する意志を明らかにします。
この決断が彼の命を奪うこととなりました。

しかし、ラファウがまとめた研究成果と共に、フベルトから引き継いだ「地動説」の美しい姿を示す資料は、10年の歳月を経て次世代に受け継がれることになりました。
その遺産は、未来の地動説支持者に託されることとなりました。

専門知識がなくても大丈夫

この漫画は、かつて宇宙の中心が地球であり、全ての天体がその周りを複雑に回るという「天動説」が広く信じられていた時代における出来事を描いています。
この時代には、多くの人々が夜空を観測し、天動説の説明が合わないことを発見していました。
そして、これらの観測結果から「地動説」が証明されるまでの物語が展開されています。

この作品は、歴史上の個人にフォーカスするのではなく、キリスト教カトリック教会の教義に基づく「宇宙の中心は地球」の考えによって引き起こされた宗教裁判と科学の対立を描いています。
これにより、宗教と科学の関係をテーマにした独自の視点を持つ漫画となっています。

作中の絵は、高い技術を持つわけではありませんが、千年以上にわたって信じられてきた天動説に挑戦する「地動説」がいかに革新的な発想だったのかが、漫画の構成を通じて伝わってきます。
この作品は、漫画というメディアが持つ可能性と魅力を再認識させるものとなっており、久しぶりにその素晴らしさに感動しました。

この物語は、科学的な知識が不要であり、宇宙や科学にあまり興味のない方にも分かりやすく展開されています。
歴史的な文脈の中で、多くの人々が夜空を観察して星々の動きを追い、なぜ「地球が動いている」ことに気付いたのかが、わかりやすく説明されています。

「超面白い漫画」と言っても過言ではなく、絵だけで判断せずに、どんなに魅力的な内容かを確かめるために一読してみることを強くおすすめします。