【bad guy/Billie Eilish】歌詞の意味を考察、解釈する。

現在世界トップの「ポップアイコン」と表現して議論の余地さえないBillie Eilish(ビリーアイリッシュ)。

時代を象徴するポップシンガーには、当然誰もが口ずさむような「定番ヒット曲」の存在が欠かせない。
2021年現在、まだ二十歳に満たない彼女だが、「定番曲は?」と問われたならば、誰一人として答えに窮することはないだろう。
なぜなら、10人中10人がほぼ間違いなく「bad guy(バッドガイ)」をチョイスするからだ。
本文で紹介する「bad guy」は彼女の音楽キャリアの中で、最も注目を集める楽曲であり、アーティスト兼カリスマでもあるBillie Eilishを語る上では必須のファクターなのだ。
ここでは、英語を母国語としない人々は疎かになりがちな、「bad guy」歌詞内容の考察と解釈について本格的に踏み込んでいこう。

グラミー各賞を総ナメ、単体で実質2冠を引き寄せた「bad guy」

2020年のグラミー賞、Billie Eilishは4冠を達成した。
史上最年少18歳という若さでの快挙である。
最優秀新人賞、年間最優秀アルバム賞、そして、年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲賞の2つは彼女のシングル曲「bad guy」に授けられたものだ。
4冠の内の2つの受賞に「bad guy」が直接関わっていることから、彼女のキャリアにおける同曲の存在価値を実感できるのではないだろうか。

「レコード賞」は歌唱者本人と製作チーム、「楽曲賞」は作詞者・作曲者に向けた賞。
つまり、「bad guy」は歌詞・曲自体の出来栄えやパフォーマンスといった総合的な観点から、最高栄誉に相応しいと評価された2020年度完全無欠のシングル曲なのである。

「bad guy」の正体とは

まず、bad guyというタイトルを見て、「男の話?」と連想してしまうリスナーは多いはず。
何より日本では「guy」が男を意味する単語のように認知されている節があるが、実際には「guy」は男女どちらをも指す汎用性の高い言葉だ。

ピンとこなければ、海外のYoutube動画を再生してみてほしい。
たいてい「Hey guys~~」という呼び掛けから始まっているのがわかるだろう。
よって、何の文脈もなく「bad guy」と見ただけでは、その対象が男女どちらを指しているのか即断するのは難しい。

楽曲の歌詞に目を向けてみると、曲中で男の話題は多く登場するが、幾度も「アムダバーーーッガーーーイ(I’m the bad guy.)」と歌われているように、歌唱者本人(Billie Eilish)をbad guyと堂々と表現したのが本作なのだ。

華とは無縁?等身大の感性をぶつけたシニカルで濁度高めの男女関係

まず、歌詞全体の特色を端的に表現するなら、「皮肉・陰気・露骨・等身大」といった表現が相応しい印象を抱く。

これにはさっそく「ちょっと待て」と突っ込みたくなる読者もいるだろう。
音楽業界次世代の顔と言うべき10代シンガーの歌詞なら、「愛・情熱・勇気・希望」といった前向きな要素に溢れているはずと期待したかもしれない。

しかし実際は、そうした明るく前向きな感性とはかけ離れた世界観を創出し、それがミュージックシーンを揺るがすほどの反響を生んだ大きな要因となっている。

楽曲の歌い始めは、

White shirt now red, my bloody nose…

といきなり血の付いた白シャツやら鼻血やら、不穏な空気を漂わせる滑り出し。
さらに、

Bruises on both my knees for you…

と続き、相手が原因で両膝に「あざ」という描写にも一層不安が募る。
これはDV?
かなり悲痛な叫びを込めた楽曲なのかと思わせるが、その割には、ビートにはリズミカルな重低音が響いていて、どうも歌詞とのマッチング度合いが疑わしい。

明らかにまずい状況に置かれているようだが、当の本人は

I do what I want when I’m wanting to

と自分で望んでいることだから気にしないでくれと、意外にあっけらかんとした様子。
もっとも「So cynical(ひねくれ者でしょ)」と自認しているようで、確かに相当変わった気性の持ち主であるのはほぼ決定的だ。

続けて本人が語るには、強そうにパンプアップさせて荒々しいワルな男は、嫌いではないらしい。
その一方で、彼女自身は相手の母親を悲しませたり、相手の恋人を怒らせたり、相手の父親を誘惑したりするタイプで、我こそが悪い子なのだと告白する。
この時点で、

make your girlfriend mad…

というくだりがあることから「あ、そもそも正式な恋人同士ではなかったのか」ということがようやく判明する。
浮気な男女の関係性でありながら、暴力的な扱いを受けることにある意味楽しみを覚えているのは、どう見ても歪な精神構造にしか映らない。

「M」を通じて「S(支配)」する悪い子

そして、2nd verse以降では、こうした彼女の性向は、男への支配欲を満たす究極の形態であることが明かされる。

I like it when you take control(あなたに主導権を握られるのが好き)

や、

I’ll let you play the role(役割を演じさせてあげる)

と語られ、一見虐げられているような関係性こそ、彼女が率先して作り上げた「相手の自由を奪う構図」だったのだ。
歌詞の終盤では、

I like when you get mad(あなたが怒ると気分が良い)

you said she’s scared of me?(彼女、わたしのこと怖いって?)

と、男が精神的に自身と鎖につながれるさまを喜び、相手の恋人や家族もまとめて混乱に巻き込む展開にも快楽を見出している。
やはり、あなたは悪い人だ、冒頭はかなり気の毒に感じられたが、トータルではタイトル通り悪い人だ。
そして、こうしたシニカルで生々しい描写を、ポップソングの枠組みで体現したあなたは、やはりグラミー賞に相応しかった。
その等身大の感性で、新しいポップソングの可能性の扉を悠々と開いたのだから。